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2.到着

「……ド田舎」

 舞が蝉の声に掻き消されそうなトーンで呟く。

「いかにも神隠しにあった村がありそうね!」

「なんでそんなに元気なんですか」

「今からオカルティストたるものの使命を果たすのよ!誰だって元気になるわ!」

 まぁ、先輩くらいのものだろう。

「何が電車で一時間だ。新幹線三十分に電車四十分。どんだけ遠くだよ」

 秋人がぼやく。同感だ。オカルト研究部なんかのよくわからない夏合宿で行く距離じゃない。というか、

「先輩、そういえばアホ太郎はどうしたんですか?」

「先生はおばあ様が危篤だそうで、引率出来ないそうよ」

「高校生が部活の合宿を顧問無しで勝手にやっていいんですか?!」

「先生に許可を頂いたから大丈夫よ」

 どうせアホ太郎のことだ、何も考えずに許可したんだろう。山の探索に行くってのに、もしものことがあったらどうするつもりなんだ。流石はアホ。

「先生、何も言わずに許可しちゃったんですか??」

 舞が尋ねる。

「もっ…もちろん…先生に私から…その……男……女……の過ちは絶対に起こさないって言ったわ!しかも、男女別室だから…大丈夫よ!」

 いやいやいや、そういう意味じゃないから。何顔真っ赤にして頓珍漢なこと言ってるんだこの先輩は。

「誰もそんな話してないですよ」

「柚先輩エッチー」

 先輩の顔がみるみる紅くなる。

「イッ、イチ君二人がエッチとかいうよぉ!」

「柚先輩、エッチ」

「!!」

 先輩は真っ赤な顔で俯いてしまった。こういうところを見ると可愛いんだが。

「うわ、携帯の電波入ったり消えたりしてるぞ」

 秋人が画面をこちらにむけてくる。確かに、ギリギリ圏外じゃない程度だ。

「先輩、とりあえず旅館行きません?私溶けそうですよ…」

 そう言って舞は煩わしそうにポニーテールを持ち上げる。

「電波が入らないのは、オカルト的な何かが働いている可能性があるわね…」

 ないから。

「先輩、旅館までの地図とかあるんですか?」

「ないけど、覚えたから大丈夫!」

 柚先輩は記憶力がいい。歴史や現代社会などの単純暗記系教科のテストでは、前日の夜教科書に軽く目を通すだけで満点をとってしまうような記憶力だ。模試となると、まともに勉強するから何度も全国一位をとっている。そりゃ百点とれば全国一位は当然だ。だが、数学をはじめとする理系教科、英語はてんで駄目だ。てんで駄目とはいえ、一応、雲丘高校は俗に言う進学校というやつなので、まぁ、その程度だということだ。

 その先輩の記憶力を頼りに、僕らは旅館へと向かった。


 この後、確かな記憶力を補って余りある、方向音痴のせいで、旅館到着までには通常の三倍程度の時間がかかった。舞は終始乾涸びるとぼやいていた。


 到着したのは案外立派な旅館だった。もともと大きな日本家屋だったところを旅館にしたという話だ。近くに(言う程近くはないが)温泉もあるということで、どうにか細々と経営しているらしい。

「ようこそ、おいでくださいました」

 物腰の柔らかい、齢四十程度に見える綺麗な女将さんが出迎えてくれた。後から聞いた所、四十八歳らしい。

「雲丘高校のオカルト研究部の者です」

「二部屋ご予約頂いておりますね、すぐにご案内致します。こちらへどうぞ」

 案内されたのは、小綺麗な隣り合った二部屋だった。

「夕食はいかがなさいますか?」

「えっと、こっちの部屋に四人分お願いします。時間は…」

 今日はもう夕方近くなってしまったので、温泉に入って、夕食を食べながら、明日の計画を立てて終わりということになった。

 旅館にも小さいながら温泉があるということで、そこに入ることにした。


「ふあぁ、温泉やっぱりいいなぁ。あぁ、そうだ。友?」

「何?」

「お前ギター弾いてんのか?」

「一応毎日触ってるけど」

 秋人と僕は中学時代の軽音楽部仲間だ。

「やっぱりさ、バンド組もうぜ。お前くらい弾けるギターなかなかいないんだって」

「高校は平穏に過ごすことに決めたって言ったろ?」

 父親の趣味で小さい頃からギターを弾いてる僕は、人よりそこそこ弾けると自負していたりする。

「頼むよぉ」

「いいじゃんお前ギターボーカルで3ピース組んでるんだろ?」

「俺ギター駄目だやっぱり。歌うのだけに集中したいもん」

「練習しろ練習」

「ちぇっ」

「そうだ、舞ってまだドラム叩いてんのかな?」

「さぁ?けど家に電子ドラムあるし叩いてるんじゃないの?」

 中学時代は、僕がギター、秋人がボーカル、舞がドラム、あと東京に引っ越して行った友人がベースでバンドを組んでいた。

「懐かしいなぁ」

「懐かしく思うんならまた組もうぜ!」

「やだったら」

「お前のテレキャスが泣いてるぜ?」

「ギターは鳴るけど泣かないから」

「おっ上手いこと言ったつもりか?おい」

 そんな話をしていたら、長風呂してしまったみたいで、上がった時には女性陣はもう髪を乾かし終わっていた。


 夕食もそこそこに明日の予定を決める。といっても、起きる時間、出発時刻、どのくらい探索を続けるのか、程度のものなのだが、

「とりあえず、夜中二時に山に乗り込むわよ」

 なんでだよ。

「柚先輩、お化け探しじゃないんですから、夜中に行かなくていいじゃないですかぁ。私朝にまた温泉浸かりたいですー」

「駄目よ。絶対夜中の二時には探索を開始するのっ」

 どうせ、

「先輩は、夜に探検的なことがしてみたいだけですよね」

「そっ、そんなことないわよ、オカルトの研究にあたって一番良い時間だと思ったから提案しただけよ!」

 即座に秋人が口を開く。

「目が右に泳いでる。早口。口元を隠してる。御存知の通り嘘をついてる時によく見られる行動ですよー。よし、図星ですね」

「じゃあ昼からにしよう。お昼ご飯持って行ったり面倒だし」

「いーねー、そうしよう!これでゆっくり温泉を楽しめそう」

「じゃあ一時にロビーな」

 先輩があうあう言っている間に、明日の予定が決まった。


「ダメよ!これはいるの!!」

「山登るのになんでペンタクルがいるんですか!しかもこんなにどでかいの!!」

 先輩は、円形の蛍光灯程度のサイズのペンタクルを胸に抱えて離さない。どこでそんなもん仕入れてきたんだ。

「お守りにしてもでかすぎるでしょ!」

 秋人が奪おうとするが、先輩は意地でも離さない。

「あっ秋人!まだあったー!」

 舞の右手にはA4紙サイズの十字架が握られていた。

 ペンタクルは二つ目。十字架に至っては三つ目だ。しかも全部馬鹿でかい。

「なんでこんなにあるんですか!」

「お守りよ、お守りっ!」

 ペンタクルを奪われた先輩は膨れっ面だ。可愛い。

「お守りなら、こんなにでかい必要ないでしょ!!」

 尤もだ。

「だって、大きい方が効力強そうじゃない!!『大は小を兼ねる』よっ!」

 滅茶苦茶だ。

「兼ねませんっ!!」

 何でこんなことになっているかというと、先輩のリュックサックのジッパーが空いているのを見つけた舞が先輩に声をかけたところ、肩ひもを外し身体の正面に持ってくる動作の途中、秋人に激突。あまりの衝撃に秋人吹っ飛ぶ。どう考えてもあり得ない衝撃に秋人がおかしいと思い、鞄を開けようとする。急いで秋人を止めようと先輩が飛びつく。二人がごちゃごちゃしている間に、舞が鞄をオープンしたところ、出てくる出てくる。

「この十字架とかデカ過ぎでしょ」

 ……!……?……軽っ?

「先輩、十字架って銀製じゃないんですか?」

「何言ってるのよイチ君?どう見ても銀製じゃない」

「先輩これどこで買ったんですか?」

「駅前の露店よ。純銀製で、その昔、著名な霊媒師が片時も離さず持っていたほどのもので、魔除けの効果は絶大だって言ってたわ。何より、売ってた人が黒魔術師だそうよ」

 うっ、胡散臭ぇえええ。

「いくらだったんですか?」

「それが、私に、途轍もない霊的感覚の強さを感じる。きっと貴女には重大な命が使わされてるに違いない!って言って、半額の二千円で売ってくれたのよ!」

 騙されてるわ。この人。完全に騙されてるわ。

「先輩、パスッ!」

 えっ、嘘っ、と言いながら先輩は丁寧にキャッチする。

「ちょっ、イチ君危ないじゃない!魔力の強い物を落としたりしたらどうなることか!罰が当たったらどうするのよ!!」

「先輩、それ銀にしては軽くないですか?」

 えっ、と言って少し考え込み、先輩は俯いてしまった。流石に気付いたに違いない。舞は可哀想なものを見る目で先輩を見ている。


 先輩の荷物も軽くなったところで、山に向けて出発した。そろそろ柚先輩の誕生日が近いし、プレゼントには銀製の十字架のネックレスか何かを買ってあげよう。

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