「ポスター」
「君の方こそわかってない!」
「ひどすぎるわ!このグラスの氷のように冷たくて!もう終わりよ!マスターおかわり!」
マスターはジンライムを差し出した
「これじゃないわ!」
女性客の怒りはマスターに向いた
「お客様にはデニッシュメアリーよりもジンライムが相応しいかと」
女性客はしぶしぶ差し出されたカクテルを受け取り、一息に飲み干した
「もう一杯、頂戴」
「かしこまりました」
「君、飲み過ぎじゃないか?」
「うるさい!うるさいうるさい!もうあなたのことは嫌いになったのよ!」
時刻は19:50分
この時が刻まれたことにこれほど喜びを感じたことはない。
窮屈なバーに設置された機材には既に3人組が立っていた。
小鳥の囀りに似た繊細な音色は客席に広がる。
まばらだった人々は、演奏を通じて一つになった。
それは夢中で言い合っていたカップルも同じだった。
「すまなかった、そうだ、今度は遠くに出かけてみないか?」
「言い過ぎてしまったわ、ごめんなさい。そういう考え方は嫌いだけど、今は不思議と嬉しいの」
ここで数多の音を聞いてきた。
閉店し静まり返った店内も、お客でごった返した喧騒も、こうして調べが弾かれている時も。
演目も終わり、店じまいへと近づいていた。
「あら、マスター剥がしてしまうの?」
「ええ、少し傷んで来てしまったので」
「no music no life. か」
次はどんな音が聞けるだろうか。