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第7話 ジュリアンの策謀①

 ジュリアン・テシラルガン・イーヴァ・アスモアは、執務室でブレア 村長 の使いの者と面会していた。

 上品な衣服を身に着けたジュリアンは、執務室の豪華な椅子にゆったりと腰掛け、青い髪をかきあげて下品に笑う。


「そうか、金貨200枚……。ふふふ、あのチビ女にそこまでの価値があるとは思えんのだがな。田舎者風情が貴族の娘を嫁に取るのに金貨200枚か。金で貴族の娘を嫁として買うとは、本当に、下賤なやつらだ」


 大きく豪奢な机を挟んでジュリアンの前に一人の青年が立っていた。

 直立不動で立っている赤い髪の若者、彼の名はイセウス。ブレア家で家政婦をしているマチルダの実の弟でもあった。

 村長の信頼厚く、村の対外的な取り引きを任されることも多かった。


「誤解なきようお願い申し上げます。父母を亡くされたミント様のご後見人様はジュリアン様でした。ですので、古くからの習わしに従いましてご成婚のご挨拶としてこちらの金品をおもちしたのです」


「まあ伯爵家の娘であれば相場だが……。アレはたかだか竜騎士の娘だぞ? せいぜい金貨20枚くらいの価値だろ?」


「それではミント様の格が落ちます。なにしろかつて我が村を救った恩人の忘れ形見であられるのですから」


「ふん、女としても楽しめそうにない身体しているが、 アレに金貨200か。ま、あんな貧相なチビ女にしては高く売れて私も嬉しいがな、ははは」

「買ったなどと……そのような言い方では我が村の名もミント様の名も地に落ちます。お控えください」

「まあ良いではないか。さて、私はお前らの村からドラゴンを一頭買おうと思っていたが……。ミントは孤児になったあとも私が引き取って面倒を見てやってたのだ。それを嫁として買ったのであるから、私とお前らの村にもなにがしかの縁ができたということになる」


「ですからミント様を買ったというのはあまりにお言葉が……」


 あからさまな侮辱に顔を歪ませるイセウス、しかしジュリアンは傍若無人に言いたいことを一方的に喋る。



「ふふ、アレは棒っきれみたいな身体をしているが傷物ではなかったはずだ。次期村長の嫁としては良い買い物だっただろう?」


「傷……? 傷があるとかないとか、あなたは女性をそのようにみておられるのですか?」

「ははは、そんなわけがないだろう? 女は傷つけてこそ美しい……。苦痛と屈辱に耐える顔も良いし、休息なく訪れる心と身体への打擲にいずれへし折られて絶望にうちひしがれる姿をみせることこそ女の存在意義だろう? お前も下民といえど男ではないか、わかるだろう?」

「わかりませんが?」

「ははは、美しい花はすりつぶしてこそ良い色の染料になるのだよ、お前も一度試してみるとよい。……戻れなくなるぞ、私のようにな」

「……申し訳ございませんが興味ございません」


 イセウスの表情はもはやどす黒くさえなっていた。

 ジュリアンはそれすらも楽しんでいるようだった。

 

「元は許嫁だった方のそのようなことを……」

「そうだ、良い色の染料になるかと思っていたが、女など他にもたくさんいる。他によい使い道があるならばお前らのような下民にくれてやるのも良いとおもったのだ。竜騎士の娘を嫁にもらえてお前ら下民どもも嬉しいだろう。だが、アレの実家は実質我がアスモア家である。私が後見人をしていたからな。……よもや、次期村長の嫁の実家に、他と同じ値段でドラゴンを売りはしまいな?」


 イセウスは不愉快そうに、しかし言葉遣いだけは丁寧に答える。


「ええ、それは……。村の恩人の一人娘様を村に迎えるにあたって、祝い事でもあるしそれ相応にかなりお安く準備するようにとの村長のお言葉です」


 そう言ってイセウスは一枚の書類を取り出して机の上に置く。

 それを手に取り一瞥するとジュリアンは唇の端を吊り上げて笑みを浮かべた。


「当然だな。くく、これで我がアスモア家もドラゴンが守る家となる。社交界で少しは自慢できそうだ。あのチビ女、弟の性欲処理にしか使えないかと思っていたが、存外役にたってくれたな」


 あまりの言い草に顔を真赤にして黙り込むイセウス。

 伯爵子息という権力者を前にたかだか村長の使いの者がこれ以上なにを言えるわけもなかった。

 そもそも、本来であればこうして直接会話するのすら憚れるほどの身分差があるのである。

 ジュリアンは身分が下の者をこうしてなぶるのが好きなのでわざと自分の執務室に通してやったのだ。


「しかし……お前はやはり田舎者の匂いがプンプンするな。臭すぎて猿が来たのかと思ったぞ」


 イセウスはうつむいて黙り込む。だがその身体は小刻みに震えている。

 それを満足そうな表情で見ると、ジュリアンはさらに侮辱を重ねる。


「ふふふ、ミントもそのうちお前のように臭くなるかな? ふふふ、あのチビ娘、そのうち猿でも産むかもな。猿が生まれたら我が屋敷の犬小屋で飼ってやってもいいぞ。子猿が産まれたら私のところにもってこい。心配するな、我が屋敷の犬小屋はお前の家よりも立派だぞ? はっはっはっ!」


 イセウスはキッと顔を上げ、何かを言いかけたが……拳を握りしめ唇を噛んで耐える。

 伯爵子息を敵に回すなど、ただの村人であるイセウスにはできるはずもなかった。

 その怒りを買えば、村全体に不利益があるだろう。

 だから、思わず口をついて出てきそうになる悪態をこらえ、ただその怒りを抑え込んだ。

 ジュリアンはその表情を楽しむかのように笑って言った。


「ドラゴンも手に入れ、これから我が家名はさらに大きなものとなろう。ところで風の噂に聞いたのだが、あの変わり者の王太子殿下がお前らの村にたびたび立ち寄っているそうだが本当か?」


「……元竜騎士団団長のガイナ様とご懇意にされてましたのでそのご縁で我が村に来られたことはあります。これ以上は警備の問題がありますので詳しくはお話しできません」


「ふふ、そうだな、護衛もいないときに何者かに襲われでもしたら大変だからな。はっはっは! そうなればおもしろ……いや、国難である。警備は厳重にしておけよ。……よし、もう下がって良いぞ」




 イセウスが退室したあと、ジュリアンは家令を呼びつける。

 そして先ほど受け取った書類を見せびらかすようにして、


「ふふ、見ろ、金貨400枚でドラゴンを譲ってくれるとよ。相場の5分の1だ。ミントのやつ、本当に役に立ってくれたよ。……ドラゴンの引き渡しが終わったら、かねての計画通りやれ」

「ジュリアン様……。本当にあれをやるのですか?」

「ドラゴンが手に入ったらあの村にはもう用がない。むしろ消え去ってくれたほうがドラゴンの生産が止まり、のちのちドラゴンの値打ちも上がるというものだろう。それに……」

「それに?」

「ついでに、あの王太子もなんとかできればよいのだがな……」


 ジュリアンは青い髪の毛をかき上げ、薄く笑った。









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