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伯爵子息様に婚約破棄されて農夫の嫁に出されました。え、旦那さまは10歳!?  作者: 羽黒楓


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第11話 特別な力

「ドラゴンって、卵を産むんだ。そしてそれを温めて、子どものドラゴンが孵化する」

「あ、う、うん……」


 ドラゴンの生態は謎に包まれている、ってことになっている。

 実際、ドラゴンを飼育する牧場は国に二つしかなくて、その方法は絶対的に守らなければならない秘密になっているという。


「でね、ドラゴンは生まれた子どもにお乳をやって育てるんだ。卵で産んで、授乳する。珍しいよね。そんな生物はほかにほとんどいない。僕は見たこと無いけど、プラタプスって同じような習性の動物が外国にいるらしいよ」

「へ、へえ……」

「で。これはさ。ほんとに秘密なんだけど……」


 ルパートが言いかけたとき。

 とつぜん、ギーアルが空に顔を向けたかと思うと、


「ゴァァァァァッ!」


 と声を上げた。


「え、なに!?」


 また噛みつかれるのかと思って身構える私。

 ルパートはギーアルと同じように空を見上げて言った。


「今の、仲間に呼びかける声だよ……。誰かほかのドラゴンが来るのかな?」


 私も空に目を凝らす。

 すると、私たちの頭上に、何かが飛んでいるのが見えた。

 私たちを中心として、空を旋回している。

 それはギーアルとは別の、もう一頭のドラゴンだった。

 翼を広げ、青空の中をゆうゆうと飛翔している。

 太陽の光を逆光にして、黒い影に見えた。

 その姿はまるで空を支配しているかのように勇壮だった。

 すごい。

 飛んでいるドラゴンって、こんなにも美しいんだ。

 円を描きながらゆっくりと私たちの元へ降下してきているように見えた。

 

「あれは……ドラゴンナイト……」


 ルパートが呟いた。

 大きな翼を広げたドラゴンの影がゆっくりと近づいている。

 そして。

 それはギーアルの隣にふわりと着地した。


 ギーアルよりも一回りも大きなドラゴンだった。

 そのドラゴンは、専用にあつらえたものだろうか、なにか気品のある装飾が施された兜のようなものを頭に身に着けている。

 その兜からは手綱が伸び、その手綱を背中に乗っている一人の男が握っていた。

 男は、ひらりと軽い身のこなしでドラゴンから降りると、ドラゴンの頭をポンポンと二度軽く叩いてから、私たちの方へと向き直った。

 

 鋭さすら感じさせる、凛々しく美しい男性。

 美しいだけじゃないよ、精悍さもあってなんというか、こう、男らしい。

 そう、結婚式の日、会ったことのある男だった。


「アリオン様!?」


 ルパートが驚いた声をあげる。


「どうしてここに!?」


 竜騎士、アリオンはその艶のある長い黒髪を手で無造作にかき上げると、私とルパートを交互に見て言った。


「ふむ……。どうしてもなにも、私がギーアルさんに会いにくるのはおかしなことではないだろう? なにしろ、ギーアルさんは私の乳母なのだからな……」


 へ?

 ギーアルがルパートの乳母ってのはさっき聞いたけど、アリオンの乳母でもあったの?

 どうゆうこと?


「あの、アリオン様……。私にはなにがなんだかさっぱり……」


 私がそう言うと、アリオンはちょっと驚いた顔をして、


「なんだ。ルパート、お前、まだ話していなかったのか。お前の嫁さんだろ、この子。嫁さんになら話してもいいんじゃないか?」

「いや、アリオン様、だから今説明しようとしたところにアリオン様がいらっしゃったのです……」


 ルパートは少しむくれて反論する。


「ああ、そうなのか。まあ、いい、ではこの私が教えてやろうじゃないか。おい、嫁さん」

「ミントです!」


 もー!

 きちんと名前で呼んでほしい。

 なーんかこの男の言葉選びにはイラッとするとこがあるんだよなー。


「ああ、ミント、か。可愛らしくていい名前じゃないか。顔もかわいらしいし、気も強そうでいいな。俺は従順な女にはあまり興味がないんでな」

「別にあなたに興味を持ってもらわなくてもけっこうでございます。夫の愛があれば十分ですわ」


 私が答えると、アリオンはいつかのようにまたプッ、と吹き出して、


「あっはっはっはっはっは!! 本当におもしろいな、お前は。十歳の夫に愛されて十分……なのかな?」


 そこに、ルパートが抗議の声を上げる。


「アリオン様! このあいだも言いましたけれど、僕の……つ、妻に! 変なことを言わないでください。言いたいことがあれば僕が聞きます」

「わかったわかった、悪かったよ、からかっただけだ。私はルパートのことが好きだからな、お前の顔を見るとついついからかいたくなるんだよ、悪かった。嫁さん……じゃない、ミントも悪かったな」


 ふん。

 私はそっぽを向きながら、


「まあ、別にいいですわ」


 と言った。


「それで、アリオン様、乳母とはいったい……?」


 アリオンは笑顔のまま、私の問いに答える。


「今から教えるが、他言無用だ。言いふらしたりなんかしたら、許さんからな……」


 笑顔は笑顔なんだけど、凄みのある笑顔だ。

 圧倒されて、


「はい……」


 と素直に返事してしまう。


「ふふ。いい子だ。……ドラゴンの乳には特別な力がある、と言われている。だから、……とある高貴な血筋のものは、赤子のときにドラゴンに乳を分けてもらって育つのだ」

















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