役立たずだと追放された私に頭を下げてももう遅い!
(お前を追放する!)
なんて私に言ったクセにこいつは泣きながらペコペコ頭を下げている。
なーーっさけない。
「俺が悪かったよぅ。……助けて。死にたくないよぅ」
「私はいらないんでしょ?役立たずなんでしょ?私を追い出したのは誰だっけ〜?」
「頼むよぅ。頼むよぅ」
「どうする?殺っちまうか?」
黒装束に身を包んだ骸骨。死神族のマルスが男に鎌を向ける。
「私の大事さが分かったみたいだしさ。今回だけは助けてやってくれない?」
「……おいおい。お前嘘だろ?こいつはお前に地獄を見せた男だぞ」
「それでもさ」
親父が死んで俺は妻と子供と実家に帰った。
おふくろを守るためってのは口実で、本当は実家を乗っ取る為だった。
家賃を払わなくて済むし、家事はおふくろがやってくれる。
実家は俺達家族にとってパラダイスだった。
「……由美さんや」
「私には話しかけないでって言いましたよね?」
妻とおふくろは仲が悪かった。
息子の妻として少しは家事をやってほしいおふくろとおふくろを召使いだと思っている妻。
俺は妻の味方をした。
「ねぇ。レイちゃん?ばぁばのお財布から一万円が無くなってるんだけどねぇ」
「はぁっ!ババア!私の事疑ってんの!?サイテー!」
30超えて未婚で無職の娘がおふくろの財布からちょくちょく金を盗んでいるのを俺は知っていたが、俺は娘を庇い、おふくろを責めた。
おふくろは俺達と暮らし出して半年で身体と心を崩した。
妻と子供両方の勧めで俺はおふくろを老人ホームに『追放』する事にした。
「なぁおふくろ。家事も出来ない奴を家に置いておく訳にはいかねぇんだよ?」
「はぇ?なんだってぇ?」
「駄目だこりゃ。同じジジババと仲良くやれよ」
困ったことにおふくろがいなくなって家庭でのヒエラルキーの最下位は俺になってしまった。
仕事をして家事までしているのに妻と娘はタッグを組んで私を毎日罵った。
やがて妻は男を作って出ていき、娘は引きこもり、糖尿病になった。
おふくろが死んだのはこの頃だった。
妻も娘も葬儀には来なかった。
娘は足が腐って歩けなくなっていたし、妻は家に顔は見せてくれたが、顔面がエグれてスキンヘッドになっていたので出席させなかった。
相当なサディストに惚れられたらしい。
復縁を迫られたが離婚した。
そんなヤバい男に目をつけられたらたまらない。
不幸ってのは畳み掛けて来る。
俺にスキルス癌が見つかった。
「やりたい事をやってみたらどうですか?」って医者の言葉が忘れられない。
つまり俺は長くないって事だろ。
俺はおふくろと親父の遺影に祈って祈って祈り倒した。
最後に頼れるのはやっぱり親だ。
「死にたくないよぅ。助けてぇ!お父さんお母さーん!」
「うるさいうるさいうるさーい!」
娘が奥の部屋で怒鳴っている。
もう俺に余裕はない。
罵声には罵声で返す。
「うるさいのはお前!うるさいのはお前!うるさいのはお前!」
「うるさいジジイ!ジジイ!ジジイ!ジジイ!出てけ出てけ出てけ!」
「俺の家だよ!働けよてめぇよおお!誰の金で透析出来てると思ってんだぁ!」
「毒親があぁぁ!育児放棄だ虐待だぁぁ!インスリーン!」
「……いやあ。死神の俺も認める地獄だね。あんたは生前の行いが良いから息子も孫も殺せるぜ?頑張って生きたご褒美だよ。その為に俺は来たんだ。なぁ。殺っちまおうよ」
「いんや。二人共見逃してくれよ」
「わーかんねぇな。あんなひどい目にあわされたのに」
「あんた子供は?」
「死神に子供なんているかい」
「私は息子も孫も産まれてすぐに抱っこした。あん時の温もりを思い出すとね。二人共可愛い時期はあったし、優しい時もあった。どんな扱いされても憎みきれないもんよ。親ってのはそんなもんさ」
「ふーん」
「そろそろ行くよ。盆になったらまた来る。それまでにこの二人が私と旦那をもてなしてくれなかったら……その時考えるよ」
「くそっ!上等な悪人の魂2つ食いそこねたぜ」
「おあずけさ」
「盆までだからな!」
この世から追放された私はあの世へ向かった。
旦那が待っている。
あんたらはまだ来るんじゃないよ。
か




