乗馬
「うっわぁー!!!!広いっ!!!敷地内にこんな広い乗馬コースがあるなんてっ!!!夢みたいっ!!!」
目をキラキラと輝かせながらリオンは大はしゃぎをしていた。そんなリオンをげんなりとした顔でレイは見ていた。
「はぁ。なんで僕がこんな目に……。」
レイはつい先程の出来事を思い返した。
突然扉をドンドンと叩かれて扉を開けると、目をキラキラさせたリオンが急に自分の手を握ってウキウキしながら乗馬に誘ってきた。
(なんだこいつ。)
そう思って
「いやだ!」
と言って扉を閉めようとしたが、扉の間に足を入れられ閉める事ができない。
「おい!足どけろよ!」
「ダメダメ!!乗馬するって言うまでどけませんよ!!ねっ!!お願いですから!!僕、楽しみにしてたんですからぁ!!!」
「はぁ?そんなの1人でしろよ!!!」
「レイ様居ないとダメなんですって!お願いですからぁ!!」
押し問答が続いたが、ふと入り口の近くに置かれていた空になったカップを見たリオンが、
「あ!昨日はよく寝られましたか?全部飲んでくださったんですね!!」
と言い、いらないと言っていた手前気まずく思い黙り込んだレイに、
「ね!よく眠れたなら、次は運動ですよ!」
とにこりと笑いかけた。そしてとうとうレイは乗馬コースへ付き添う羽目になったのである。
「しかし、久々だな……。」
レイは久々に見る景色に昔を思い出した。幼い頃、よく父親と共に馬に乗り散歩していた。学園に通うようになると、かつての親友に乗馬レースで勝つためにしょっちゅう練習した。
レイはちらりと隣で興奮しているリオンを見た。
「……似てるな。」
「えっ!!?何か言いました?」
親友を思い出しボソリと呟いたレイに、リオンは顔を向けて聞き返した。
「……。いや、お前も上手いのか?僕はもうずっと乗ってなかったから、乗れなくなってるだろうな。」
「なら、一緒に乗りましょう!」
「……はぁ?」
そしてレイは信じられない事に、リオンから「ほらほら!!」と後ろを押され、まるで子供みたいに前側に無理やり乗せられた。すぐに後ろにリオンが乗り込み、自分を包み込むように後ろから手綱を持って進み始めた。
「……。」
「大丈夫ですか?ちょっとゆっくりにしましょうか。」
最初はゆっくり歩き少しだけ速度を早めていったリオンだが、無言のレイが気になり、再度速度をゆるめようとするも、レイがそれを止めた。
「……いや、これくらいで良い。」
「……そうですか。すみません、ちょっと前見づらいんで。」
リオンは後ろからレイをさらに抱きしめるようにして、顔をレイの肩の横からひょこっと出しさらに密着させた。
リオンは女性の中では背は高い方だったが、それでも男のレイよりは低いため、レイを前に乗せると前が見えにくかった。
ポタッ。
何かが自分の手の近くに落ちたような気がして、ふと、リオンがレイの顔を覗き込む。
レイは前をずっと見つめながら、涙を流していた。
リオンは見なかった事にして、レイの涙がおさまる頃までひたすら無言で馬を走らせた。
乗馬を終えたリオンとレイは無言であった。
(ヤバいぞ。)
リオンはビクビクしていた。
(もしかしたら子供扱いして前に乗せたのを怒ってるのかも。それとも泣いてるの見ちゃったから?)
俯き表情の分からないレイをちらりと見て、なんと声をかけようか悩んでいると、レイから話しかけてきた。
「……お前、よくも僕を子供扱いしたな。」
(あ、やっぱりソレがダメだったかっ!)
「それに、……僕が泣いてるの、見たな。お前、どうなるか分かってるんだろうな。」
(ぎゃっ!そっちも!?)
「あ、えと、その、」
あたふたするリオンを、レイは顔を上げて笑った。
「ふっ!うそだよ。」
顔を上げたレイの顔は、憑き物が取れたかのようになぜか清々しくさっぱりとした表情であった。
「レイ様?なんか、顔、変わりました?」
「はぁ?……あぁ、でも、なんか久々に笑ったな。」
レイは自分の心が軽くなり心地良く感じていた。ずっと部屋に篭っていた。恐怖、怒り、苦しみ、嫌悪、殺意、空虚、恨み、恥……。そんな感情にずっと囚われていた。どんよりとした心が、少しづつ解放されていく。
伸びてボサボサしている髪を掻き上げ、
「髪も、切るか。」
とレイは呟いた。
レイの変化にリオンは喜び、急いでクラウスの所へレイを連れて行き、そのまま庭でクラウスにレイの髪を切って整えてもらった。
「うわぁ!レイ様、本当格好良いですね。」
惚れ惚れとリオンはレイを見つめた。
髪を切りセットされた金髪碧眼のレイは、物語の王子様のようであった。
「……。そんな、見つめるな。」
照れて顔をふいっと背けるレイに、クラウスは驚き、そして大笑いした。
「はっはっは!!!こりゃすごい!たった1日でここまでとはね!!こりゃ本当にあり得るな!」
「何がだよ!?」
じろりと睨みつけるレイに、
「いや、こっちの話ですよ!」
とクラウスは言い、「じゃ!俺、ちょっと本邸に用があるんで!」と、鼻歌を歌いながら行ってしまった。
「くそっ!何か知らないがバカにされてる気がする!」
「そうですか?ただ喜んでるみたいでしたけど?」
「お前は……あ、いや、えっと。」
レイはリオンを見て、そして急に気まずそうに目を背けた。
「え?何です?」
急に気恥ずかしそうにしながら、レイはボソリと呟いた。
「その、リ、リオンは、クラウスの事よく知らないから。」
お前呼びが、急に名前を呼ばれるようになり、リオンはパァっと笑顔になった。
「えっ!もしかして、今、僕の事リオンって呼びました!?やった!そうですよ!僕、お前じゃないですから!リオンですよ!リ・オ・ン!やっと呼んでくれたんですね!!」
「……。うざ。」
ハイテンションになるリオンを冷めた目で見るレイだったが、でもどこか心は穏やかだった。