夕食
食堂では1人分の食事しか用意されていなかった。
そこへ案内されるリオン。
「あの?なんで1人分ですか?」
リオンは不思議に思いクラウスに尋ねた。
「あぁ、レイ様はご自分のお部屋で食べられます。なのでこちらではリオン様だけのお食事となります。」
「そうですか……。ちなみに、クラウスさんは?」
急に自分の事を聞かれたクラウスは一瞬目を丸くして、そして微笑んだ。
「私は……、これでも一応執事ですからね。あとからいただきますよ。」
「そんな!僕、1人で食べるの嫌なんです。みんなで食べる方が絶対美味しいから。お願いです!クラウスさん、一緒に食べましょ!それに、レイ様も1人で食べてるなんて良くないです!僕、呼んできます!」
リオンはクラウスに懇願し、そして急いで上の階へと駆け上がって行った。
そんなリオンを驚きながらクラウスは見つめた。
ドンドンドンドン!!!!
リオンはレイの部屋の扉を思い切り叩いた。
「な、なんなんだよ!!!」
驚いて出てきたレイに、リオンは、
「ね!ご飯できてますよ!下で一緒に食べましょ!!」
と誘った。
「は、はぁ???クラウスに聞いてないのか?僕はここで食べる!!」
怪訝な顔でリオンを見るレイであったが、リオンは引かない。
「いえっ!1人で食べるよりみんなで食べた方が絶対美味しいです!さっ!早くっ!」
引きこもって10年。クラウスでさえここまでぐいぐい自分を引っ張り出そうとしなかった。
それを今日会ったばかりの人間が土足で踏み入ろうとする。
レイは怒りを露わにして扉をドン!と叩いた。
「やめろっ!!…………僕に、関わるなっ!!!」
そしてレイは、バンっ!と扉を閉めた。
「……あちゃ。」
やってしまったとリオンは落ち込み、食堂へと帰って行った。
「くくっ!ダメでしたか?まぁそんな落ち込まないで。俺、リオン様のこと気に入りましたよ。さっ!ご希望通り俺も一緒にいただきますから。」
テーブルの上には食事が2人分に増えており、リオンとクラウスは2人で食事をとった。
「へぇ、このスープ美味しいですね!」
「気に入ってもらえましたか?朝晩は冷え込むようになりましたからね。体があったまる薬味も入れてますよ。」
「そうなんですね!確かに少しポカポカしますね。それに濃厚なんでこれだけで結構満腹になります。」
「……レイ様は、この時期はろくに眠れず食事も喉を通らないので、スープの料理が多くなってしまうんですよ。……ちょうど事件のあった季節ですから。」
ふと、クラウスは10年前のこの季節を思い出した。あの夜も冷え込んでいた。あったかくして眠りにつこうとしていた時、屋敷が騒がしくなった。
父のグスタフと急いで騒ぎの元へかけつけると、レイ様の部屋でクロムウェル当主がこの前雇ったばかりのメイドを押さえつけていた。メイドは暴れており、一瞬何が起こっているのか分からなかったが、ベッドの上で、腕を拘束され、口に布を巻かれ裸で震えながら顔面蒼白となって泣いているレイ様を見て、すぐに事態を理解した。
グスタフは当主と共にメイドを拘束し、その間にクラウスはレイ様の元へと駆けつけて拘束と口に巻かれた布を外し、そして体を布団で巻きつけた。
その際、クラウスはレイ様の身体中にできた赤いみみず腫れを見つけ、そばに落ちていた鞭を見て、ぎゅっとレイ様を抱きしめた。
「……!……ん!……ウスさん!クラウスさん!!」
急に名前を呼ばれてハッとクラウスは顔を上げた。
「クラウスさん、大丈夫ですか?」
「ああ。すみません。大丈夫ですよ。」
「……あの、レイ様、よく寝られないんですか?それなら、僕、レイ様に作りたい物があるんです!」
リオンはクラウスに材料があるか確認し、キッチンを使う許可をもらったリオンは食後にキッチンへと向かった。
「なるほど。ホットチョコレートですか。」
「はい。僕、眠れない日は夜にこれを飲むと落ち着いてぐっすり眠れたので。ほんのちょっとだけワインも入れます。」
「そうですか。レイ様にはちょうど良いですね。私はこの量のお酒じゃ物足りませんがね。」
笑いながらクラウスは味見をし、そして頷いた。
「じゃあ僕、レイ様のところへ持っていきますね!」
陶器のコップへ入れて、トレーの上に乗せ溢さないように気をつけながらリオンはレイの部屋へと向かった。
コンコン!コンコン!!ドンドンドン!!!
「レイ様、お飲み物をお持ちしました!これ、僕が作ったんですよ!ぜひ飲んでくださいっ!!」
またもやうるさいノックで扉を開けるレイに、リオンは満面の笑みで持っているトレーを差し出した。
「いらないっ!」
「そんな!せっかく作ったのに!!」
「頼んでないだろ!」
「でも、レイ様を思って作ったんですよ!よく眠れますから!一口だけで良いからっ!」
「僕に関わるなって言ったろ!いらないったら!!」
「んもう!!じゃあ気が向いたらで良いですから!とにかく受け取ってください!溢しちゃうから!!」
今にも溢れそうなコップを見て、ついレイは受け取ってしまった。
「あ。」
「飲み終わったら扉の前にでも出しておいてくださいね!!それじゃあおやすみなさいっ!」
にこりと笑ってリオンは去っていき、トレーを持ったままレイは呆然と立ち尽くした。