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3話 勇気の過去

 変な時間に目が覚めた。煙草を吸いながら、物思いに(ふけ)っていた。

 それは中学三年生の3月。高校受験も終わり、卒業を間近に控えていたある日の放課後。部活も入ってなかった帰宅部だ。帰ってする事もないし、何か本でも読もうと図書室へと足を運ぶ。


「あっ木幡君」


 一人の女子生徒が声をかける。

 彼女の名前は羽切彩也香(はぎりさやか)セミロングヘアーで猫のヘアピンがトレードマークの女の子。


「羽切さん奇遇だね」


 お互い受験も終わり、お互い違う高校に進学する。彩也香は成績が良く、進学校へ進む。対して俺は普通の公立へ進学。

 ぶっちゃけて言うと、女子の中では一番話す相手。俺は彼女に恋心を抱いていた。


「勇気ここに居たのか探したぜ!」


 直ぐ様、男子生徒が入ってきた。彼の名前は緒方恵介(おがたけいすけ)同じくクラスメートであり、俺の親友と言うか、幼なじみの腐れ縁かな。恵介は俺とは違って、運動神経抜群のサッカー小僧。将来はプロに入るのを夢見ていた。


「恵介どうしたんだ?」

「部活の後輩達の練習見ながら、最後の挨拶をしていて終わった所だから、一緒に帰ろうぜ」

「あぁ。羽切さんまた明日」

「うん、二人ともまた明日ね」


 彩也香に別れを告げ、帰宅中恵介からは高校入ったら部活はどうするんだ? とか、好きな子いるのか? など他愛もない話をして帰宅する。


 思い返すと彩也香を好きになったきっかけは、文化祭の実行委員会でペアになってから。文化祭まで実行委員会の仕事があったので、お互い他愛もない話をしながら一緒の時間が多かったからだ。

 俺はこの時間が凄く有意義に感じ、次第に彩也香への恋心が大きくなっていた。

 彩也香への想いが止まらない。この気持ちどうやって伝えよう...卒業式前に告白しようと考えながら、布団に入っていた。


「よし、決めた」


 何を考えたのか、彩也香にお菓子をプレゼントしようと思い付く。ホワイトデーに渡そう...女子からバレンタインのチョコレートを貰った事ないけど、男子からホワイトデーに何かを渡すのもありなんじゃないか? と思っての行動。

 手軽にクッキーでも焼いてみるかと母親に教わりながら、調理に取りかかる。普通のチョコレートとホワイトチョコレートをコーティングした二色のクッキーの完成。


「我ながら素晴らしい出来だ」


 これをきっかけにパティシエへの道を夢見る第一歩となった。思えばこの出来事がなければ、俺の進路はどうなってただろうな...。

 ホワイトデー当日、俺は彩也香に告白しようと緊張していた。昨日作ったクッキーを大事に鞄にし舞い込んで、放課後図書室で告白しようと決意した。

 休み時間、俺のスマホに着信音が鳴り響く。画面を確認したら、相手は彩也香だった。メール内容はと...。


「放課後、図書室へ来てください。話したい事があります」


 まさかの、向こうからのお呼びだし。これはワンチャンあるかな? と期待を膨らませ、二つ返事で彩也香にメールを返す。

 放課後、図書室へ。中には彩也香と恵介が待っていた。


「呼び出してごめんね...」

「あぁ、構わないよ」


 沈黙が続き重たい口を開く彩也香。何故か恵介も下を向いたまま。


「あ、あのね...木幡君と緒方君仲良いよね? それで木幡君にも知って貰おうと思ってね」


 嫌な予感がした。身体中金縛りにあった気分だ。


「私達、付き合う事にしたの」

「すまん、勇気。お前にだけは話しておこうと思ってさ、羽切さんの事二年の時から好きだったんだ。思い切って昨日告白したらさ」

「全部言わなくていいさ」


 俺は全てを察した。彩也香も恵介の事が好きだったって事に。

 金縛りにあったかと思えば、稲妻に打たれた気分に陥った。


「話しはわかった。俺はこれで帰るよ」


 焼いたクッキーを渡せず、俺はクッキーを自分の胃袋に収めた。次第に涙が止まらない。このやるせない気持ちは何なんだ。

 その後、俺は中学卒業まで恵介と彩也香から距離を置く事にした。素直にあいつらを祝福してあげたかったがな。

 まるで何かから逃げるように、高校へ進学しても恵介とは連絡を取る事はなく、高校へ行ってもクラスメートとは上辺だけの付き合いで高校生活を過ごす。


 月日は流れ、俺はパティシエを目指そうと製菓専門学校へ進学した。















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