2話 新しい環境
話がトントン拍子に進み、捺芽が職場の仲間になった。
しかし、相変わらずマスターの寛大な人柄には本当に頭が上がらない。
「あっ今日のケーキとコーヒー代はサービスだから、代金は要らないよ。それと、今日は時間あるかな? もうすぐ店も閉店だからせっかくだし、捺芽ちゃんの歓迎会を催そう」
この店は朝9時開店、閉店は19時。そういや、俺も入った時は歓迎会をして貰ったな。捺芽は目を輝かせ、二つ返事でオッケーサインを出していた。
店も閉店し、凪先輩が早速料理を作り出す。俺はと言うと飲み物の買い出しに行かされている。何故か捺芽も付いていく事に。
「ねぇ、あんた本当に大丈夫?」
「勇気...木幡勇気だ! 大丈夫だから気にしなくていい」
そういや、自分の名前を名乗ってなかったな...自己紹介をし、捺芽が俺の怪我を心配してくれている。ついてきた理由はこれか。
買い出しを済ませ、店に戻るが後から痛みがじんわりと、ボディーブローの様に痛み出す。そのせいか、俺の足がいつもよりおぼつかない。
「じゃあ、勇気、やっぱり大丈夫じゃないじゃん!」
いきなり、下の名前で呼び捨てか...確かに大丈夫じゃない。昼間の事をいつまでも尾をひきづっては困ると思い、ひた隠しにしていたが、それでも俺は大丈夫だと言いきった。そんな矢先途中でドラッグストアに立ち寄る捺芽、湿布薬を購入してきた。
「はいっこれ! 痛い所に貼って!」
湿布薬を手渡され、店に戻り怪我した所を見ると、やはり足に青アザが出来ている。結構行ったな、痛いわけだ。
捺芽を先に店の中に入れ、自分は一服したかったから、煙草を吸いながら幹部に湿布薬を貼りつける。尖っているなと思いつつ、優しい所もあるんだな。
「マスター準備完了です」
凪先輩が作った料理が並べられ、俺が作ったお店の売れ残りのケーキとプリンを用意。と、言っても凪先輩が作ったのはサンドイッチやパスタの軽食、これがまた美味い。
そして、一斉に捺芽の歓迎を祝して乾杯。
「凪さん、このパスタ美味しいですー」
「お姉さん自慢のパスタだぞー」
「因みに、このケーキとプリンは、何と木幡君の手作りよ」
「えぇっ! 嘘でしょー!」
まぁ、当然の反応だな。何で俺がスィーツ作りが得意かはそれはまた追々話すとして、捺芽はケーキを口に運んではじろじろと俺を見る。
「単に無愛想じゃなかったんだねー」
「悪かったな...」
珍獣を見るかの様な眼差しで、こっちを見ては料理を頬張る捺芽。片付けをし、本日はお開きとなった。
「木幡君、夜道危ないから捺芽ちゃんを送ってあげてね」
「えっ?」
そう言い残し、凪先輩はそそくさと店を後にする。なんたって女の子を一人で夜道を歩かせるな! と釘を刺されてしまったから。
終始無言のまま、捺芽と帰宅する俺。この雰囲気苦手だ...だって女子と二人きりだぞ! こんな境遇人生二十年初めてのイベントだからだ。
「ひ、陽向さん...」
「捺芽! 捺芽と言いなさい! 私もあなたの事勇気と呼ぶから...じゃないと口きかない」
「じ、じゃあ、捺芽、方向こっちでいいのか?」
「うん、いいよ」
住宅街に入り、一軒家やアパートやらマンションが並ぶ住宅街。そういや、捺芽はアパート住まいとか言ってな。就職も決まったし家賃問題は解決した事だし、めでたしめでたし。
「ありがとう...ここでいい」
俺は目を疑った。一軒家の隣のアパートに捺芽が住んでいるなんて...そして、その隣の一軒家こそ俺の家だ。俺の両親は共働きで海外赴任しているから、現在俺は一人暮らし。
「偶然て怖いな...」
「えっ? お隣さんだったの!」
捺芽が何で一人暮らししているのかはわからないが、俺は今の現状を捺芽に話す。
「じゃあ、今日から同じ職場で、お隣さん同士だね! 改めてよろしくね」
「あぁ、よろしく」
こんな偶然てあるのか? と思い俺は疲れて眠り果てた。