第2走 再会
「ふぅ……まぁこんなもんか」
帰宅後俺はすぐさまランニングシューズをもって風呂場に向かい、ありとあらゆる汚れを流し落とした。今日は帰宅後に軽い筋トレもやるつもりだったが、そんなことも言ってられない。
(一応キレイにはなったかな? ……汚れは洗えば落ちるし本当に弁償してもらう必要はなかったんだけどな)
一通り清掃が終わった後はタオルでぬれた髪を乾かしながら急いで朝食づくりを始める。あいにく俺の両親は仕事の都合上海外に行ってしまっているから料理、洗濯、掃除……あらゆることをすべて自分でやらなくてはならない。はじめは失敗も多かったが、今ではそこそこ手早くあらゆる家事をこなせるようになった。
「さてと、はい完成。これ食って学校に行くか」
「……はぁ、学校めんどくさ」
自転車に乗って登校している途中ふと文句と共にため息をつく。
高校生活は俺にとってはあまり楽しいものではなかった。学校に行けば朝から50分の授業を6回も受けさせられ、放課後になっても課外授業だなんだでほぼ強制的に勉強をやらされる。そんなこんなで結局家に帰れるのは夜7時ごろになる。
さらに悪いことに、俺には友達がいないから休憩時間に楽しく談笑してリラックスするなんてことも出来ない。
こんな生活を週5でやるのは正直ツラい。
「……早く次の土曜になってくれ」
たまった不満をぶつけるかのごとく、自転車のペダルを強く踏み込んだ。
学校に到着し、自分の教室のドアを開ける。そして真っ先に自分の席を確認する。
(クソッ、今日も俺の席で誰か話してるな)
これをされると非常に困る。もちろん俺が席に座れないことも問題だが、席をどいてもらうよう頼むことが一番の問題だ。
「なぁ、邪魔だからそこどいてくんない?」
「えっ……ああ、ごめんね。みんな、あっちで続き話そう」
そそくさと退くクラスメイトたちを見届けた後、ゆっくりと自分の席に腰を下ろす。
(ったく、なんでこうなるのが分かってて俺の席に座るんだ?)
彼女らは基本的にいい人なので頼めばちゃんと席をどいてくれる。問題なのは、俺が彼らに対して罪悪感を感じてしまうことだ。
みんなが気分よくお喋りしているところに俺が入るとほぼ間違いなく空気を壊してしまう。別に壊そうとしているわけじゃない。だけどクラスメイト達はそう感じさせる雰囲気を醸し出してくる。これがホントに嫌だった。俺は全く悪くないのに加害者のような気持ちにさせられるからだ。
(ああ……気分悪い。気晴らしにネットサーフィンでもしよ)
スマホの使用は校則で禁止されてはいるが、そこまで監視も厳しくないので授業中以外は基本的に自由に触ることが出来る。
俺はポケットからスマホを取り出しホームルームまでの数十分をネットサーフィンに費やし気ままに楽しんだ。
―ーガラガラガラッ
教壇の近くの扉が開く音。それが聞こえたと同時にスマホをカバンに戻す。
「みなさんおはようございます。ホームルームを始めるので早く自分の席に戻ってください」
担任の立花先生の淡々とした呼びかけ。
だがみんなはおしゃべりに夢中で全く気が付いていない。普通の先生ならもう一度席に座るよう呼び掛けるだろうが、立花先生の場合は違う。
―ードンッッッ
……やっぱりこうなった。
立花先生はこういう時いつも日誌を机にたたきつけ、俺たちに軽蔑したような視線を向けながら無言で腕を組んで教壇に立ち尽くす。
これをされると流石にみんなも空気をよんで会話をやめ、黙って自分の席に戻りだす。
「……あなたたちは幼稚園生なのかしら? こんなことで私に注意されて恥ずかしいと思わないの?」
さっきよりも冷たい口調で説教を聞かされる。
この説教は俺に一切関係ないので軽く聞き流す。まあ、喋ってた奴らもほとんど聞いていないだろうが。
数十分後ようやく説教が終わる。すでにホームルームの時間がほとんどなくなっていた。
先生はため息を一回ついた後、再び口を開いた。
「……もう時間がないから手短に話をします。まだ新しいクラスになってから1週間しかたっていませんが、今日からクラスに編入生が入ってきます。皆さん仲良くしてあげてください」
さっきまでお通夜のような雰囲気だったクラスが一変、先生の報告によってみんな大盛り上がり。
(……さっき怒られたばっかりなのによく騒げるな)
「静かにしなさい!!!」
再びクラスが静寂に包まれる。
「……まったく。待たせてごめんなさい。さっそく入ってきてください」
「は。はい!」
―ーガラガラガラッ
どことなく緊張した声で返事が聞こえた直後、編入生が教室の中に入ってきた。
(……それにしても編入生っていったいどんな子なんだろう?)
顔を上げてドアの方を横目でちらっと確認する。
「ッ!?」
編入生を見て俺は動揺した。
トロンとした垂れ目で茶色の瞳、栗色の長い髪を二つ結びにした髪型、小柄でふわふわした可愛らしい雰囲気。まさに見本のような美少女だ。
クラスの男子はみんな彼女のことに興味津々な様子。俺も少し意味合いが違うが、彼女にくぎ付けだった。
(ここが初対面の場ならどれだけよかったか……)
俺はこの子を知っていた。……なぜなら朝にあったからだ。
「それじゃあ悪いんだけど、短めに自己紹介してくれるかしら?」
「わ、分かりました。えっーと……皆さん初めまして。佐倉葵っていいます。東京都から引っ越してきました。これからよろしくお願いします」
自己紹介が終わったと同時に、みんなが笑顔で一斉に拍手をしだす。
「それじゃあ佐倉さんの席だけど……あそこの空席に座ってくれる?」
「はい!」
(……なにっ!?)
先生が指定したのは俺の隣の席だった。そういえば始業式の日から俺の右隣の席がずっと空席だった。まさかこれが彼女の席だったとは。
「隣は……杉下君ね。杉下君、彼女が困ったことがあったらあなたが面倒を見てあげてね」
これはまずい。
俺は急いで顔を彼女と反対側にそらした。今朝あんなことがあったばかりなのに、こんなところで偶然再会したら気まずすぎる。さすがに彼女も俺の顔を覚えているだろうし。
「……杉下君聞いてる?」
それにみんなの注目が集まっている中、顔見知りだとバレるのもやっかいだ。せめてホームルームが終わるまではバレないようにしないと……
「杉下!」
「は、はい!?」
大声で自分の名前を呼ばれ、反射で返事をする。
(……しまった。考え事に夢中で話聞いてなかった)
「聞こえているなら返事をしなさい!」
「す、すみません」
返事をしたと同時に気づく。見られないように伏せていた顔を上げてしまったことを。
……もうこれはごまかしようがないな。
恐る恐る隣の彼女の方に視線を向ける。そしたらなんと彼女も俺を真っすぐ見つめたままフリーズしてしまっていた。
(ま、まずい。このまま見つめあってるのは不自然すぎる。なんとかしないと……)
「……よ、よろしく。佐倉さん」
ここは自然に挨拶をするのがベストだろう。普段クラスメイトに挨拶なんてしないがこのまま見つめあうわけにいかない。これをきっかけに彼女が動いてくれるといいんだが……
「あっ……こ、こ、こちらこそよ、よろしくね。杉下君」
俺の意図に気づいたのか、彼女も瞬時にぎこちない笑顔をうかべて返事をしてくれた。だいぶたどたどしくて怪しい挨拶ではあったが。
(こ、これでなんとかごまかせたかな?)
その後何事もなくホームルームは終わった。
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