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番外編 第7話 家族との晩餐

ご覧いただき、ありがとうございます。

「家族全員が揃って食事を共にするのは、久しぶりですね」

「ええ、左様ですね」


 お父様とお母様と会話をしてから約一時間後。わたくしは藍色のナイトドレスに着替えてから、食堂のかつての自席へと座っていた。

 ミトスがお父様の隣の席に座り、向かって対面の席にそれぞれお母様とわたくしが座っている。婚前は体調不良のことが多くて食事は殆ど自室で摂ることが多かったから、食堂で家族四人が揃って食事をすることは本当に久しぶりだった


 だからなのか、側に控えている公爵家の使用人たちから戸惑いの色が感じられる。

 幸いわたくしの目線の先にはオリビアがついてくれているので、それだけで安心することができた。


 目前のメインディッシュの合鴨のロティには柑橘類のソースがかかっていて、その香りが漂うだけで食欲が湧いて来るようだった。

 丁寧にナイフで切り分けフォークで口元に運ぶと、途端に豊かな風味が広がって心が弾んでくる。


「お姉様は、とても美味しそうに食事をなさるのですね」


 向かいの席のミトスが、食器をお皿の上に置くと目を見開いている。

 

「ええ、食事がとても美味しいので思わず顔が綻びますね」


 思えば以前のわたくしは、少食であったし何を食べても殆ど味がしなかったので、このような表情をすることもなかったはずだわ。だから、ミトスや周囲の人たちは意外に思っているのかもしれない。


「そうですね、とても美味しいです」

 

 ミトスは他にも何か言いたそうだったけれど、静かに食事をしているお父様とお母様を横目に見ると、再び食器を持って食事を再開した。


 そして晩餐は順調に進み、食後のお茶の品目のみとなった。

 お父様は意外にも甘いものが好みなので、紅茶に角砂糖を三個も入れてよくかき混ぜている。反対にお母様はコーヒーにミルクのみを入れて飲んでいて、ミトスは紅茶に二個の角砂糖とミルクをたっぷりと入れている。


 総じてバレ家の男性は甘党なのだけれど、思えばこれまで家族の嗜好について気にすることはなかったので、わたくしはどうやらこの場に大分馴染んできたようだわ。


「ときに、セリスのそのネックレスですが」


 隣に座るお母様が、遠慮がちに切り出した。


「はい。このネックレスですか?」

「ええ。とても素敵な真珠ですね。一目見ただけでも、輝きが他のものに比べて群を抜いていると思いました」

「……左様でしたか。このネックレスは、今夜の蒼色のドレスに良く合うかと思い選びました」


 お母様は普段から公爵夫人としてこの家を切り盛りしているので、本物を見る目が養われているのだわ。


「ええ。……ひょっとして陛下からの贈り物でしょうか」


 お母様の言葉に、席を挟んで座っているお父様やミトスはもちろん、周囲に控えている使用人たちの動きもピタリと止まった。

 周囲の反応を受けて、言葉を選んで答えなければならないと思いながらも、特に隠したり誤魔化すことでもないと判断をする。


「はい、その通りです。先日陛下からいただきました」


 このネックレスの先端には、わたくしと陛下の思い出の花である白の薔薇の飾りが付けられている。

 本音を言うと、久しぶりの家族との晩餐に緊張をしていたので、少しでも陛下に勇気を分けていただこうと思って身につけたのだわ。


「……そうか。やはり陛下は、妃殿下のことを大切にされておいでなのですね」


 感慨深く目を細めたお父様の口元は、少しだけ綻んで見えた。目前のミトスも深く頷いているし、お母様も優しげな表情を見せてくれている。


 贈り物をもらったからと言って、それが直接愛情に結び付くとは思わないけれど、おそらくお父様の言葉の真意はそれだけではないと思うので、否定はせずに小さく頷き微笑み返すことにした。


「わたくしは、あなたが王宮で幸せに暮らしているようで安心しました」

「……お母様……」


 もう晩餐も終わりに差し掛かっているし、家族四人が揃うことも早々無いことだから、この機会を逃したらきっと次は無いのだわ。


「わたくしは、今日この家に帰省しお父様とお母様、それからミトスと話すことができて心から良かったと思っています。普段は中々会うことは叶いませんが……、これからも家族の幸せを祈っています」


 それは本心だった。今日ここに来ることができなければ、もしかしたらわたくしは家族に対して一生遺恨を残していたのかもしれない。


「お姉様、僕もです。お姉様とお話をすることができて心から良かったと思っています」

「セリス、手紙を書きますね」

「はい」


 ミトスとお母様は少しだけ何かを堪えているかのような表情をして続けたけれど、お父様は相変わらず口元一つ緩める様子はなかった。


「セリスのティーサロンに、我らを招待することは可能だろうか」


 そのお父様の呟きは思ってもみなかった内容だったけれど、わたくしは考えるよりも先に、気がつくと頷いていた。


「はい、分かりました。必ず折りをみて招待をさせていただきます」


 そう言ったわたくしに、お父様は静かに頷きお母様とミトスは目を見開いてからお互い顔を見合わせてから頷く。


「王宮のお姉様専用のティーサロンか、素敵なんだろうな。とても楽しみです」

「よろしくお願いしますね」


 二人の言葉に思わず大声で返事をしそうになったけれど、はやる気持ちをどうにか抑えながら返事をした。


「ええ、必ず招待状を送りますから」


 そうして、和やかな空気のまま久しぶりの家族四人での晩餐は終了したのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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