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第84話 拍手喝采

ご覧いただき、ありがとうございます。

 それから一週間の間で、瞬く間に様々なことが行われた。


 まずアルベルト陛下は、我が国の臨時議会を開くように内閣に促し議会を開くと、ミラーニ侯爵の協力の元、魔石にかかる関税率の引き下げの法案を成立させることを実現した。

 ただし、それはあくまでも緊急時の仮の効力ではあるのだけれど、ドーカル王国やロタ王国等、近隣諸国と直接の話し合いの場を設ける手札としては充分だった。


 陛下の狙いは始めから、我が国が関税率の引き下げを行うことを条件に、各国間で魔宝具に関しての交渉をする「話し合いの場」を設けることだった。

 それは果たされ、手札を上手く使って交渉した成果もあって、会議の場は我が国で設けることとなった。


 そして二週間後。


 王宮内の会議室に各国の要人を招き、粛々とその会議は開催された。大陸中の要人が集まるので、今回の会議は通称「大陸会議」と銘打たれた。

 本来なら、女性はこの場には不釣り合いだと見なされるので、わたくしは参加をすることはできないのだけれど、参加をしたいとのわたくしの申し出に陛下は快諾してくださり、出席をする運びとなった。


「それでは会議を開催致します」

「よろしくお願い致します」


 進行役のロナ王国の外務大臣は、コホンと咳払いをしてから書類を手に各国の代表たちを見回す。


「……さて、本日の主題はラン王国における関税の引き下げに関する説明だと聞いております。まずはラン王国側から、説明を聞かせていただきたいと思います」


 これも事前に照らし合わせていたことで、陛下がこの会議で最初にある提案をすることこそが我が国が戦争を回避し、大国からの影響を受けずにいられることに繋がる──わたくしたちはそう考えていた。


「忙しい中、各国の首脳には招集に応えてもらい痛み入る。さて、早速本題に入らせてもらいたい」


 陛下はスッと立ち上がった後、会議室中の隅々に通るハッキリとした声で言った。


「私どもは、我が国が他国に魔石を輸出をする際にかかる関税を引き下げる代わりに、ある魔宝具を各国に取り入れることを提案する」

「ある魔宝具?」

「ああ。……それは魔石を探索することができる魔宝具である」


 途端に会場内が(どよ)めき立ったけれど、陛下は構わずに話を続ける。

 陛下は実際にその魔宝具を一堂に見せながら、ゆっくりとした口調で説明を始めた。特に魔宝具が魔石を感知し、虹色の光を発したさまを目にした人々は皆驚愕しているようだった。


「製造方法に関しては、こちらが整い次第公開するつもりだ。だが権利を放棄するわけではなく、管理は我が国で念を入れて行っていく。ただ、それはあくまでも設計図を不正に入手させたり偽造品を流出させないための対策であり、こちらの利益を得るためでは無い」


 再び会場内が響めきたつ。そしてドーカル王国の政務官が挙手した上で立ち上がった。


「……失礼ながら、そのような画期的な発明をしておきながら、どうして利益を追求しないのですか。何か裏があるとしか思えないのですが」


 陛下は、政務官の灰色の瞳に真っ直ぐ視線を向けながら頷いた。


「そう思うのは当然だ。……だが、我が国が求めることはただ一つ。それは今後一切、魔宝具や魔石に関連した国家間、国内外での戦争を引き起こさないことである。そのために本日招集に応じてくれた貴国の代表と是非議論を行い、争いの無い、戦争のない未来へと繋げていきたいと考えている」


 瞬間、会場内が静まり返った。

 皆息を飲み込んでいて三十秒経っても、一分が経っても顔を見合わせるばかりで、誰も発言をしようとはしなかった。

 おそらく、戦争を回避するという大きな責任が問われる事柄に、自分の意見を述べるのを躊躇っているのだわ。


 陛下の言葉に落ち度はなかった。

 ……けれど、このままでは何の成果もなく、この会議が終わってしまうのかもしれない。

 折角ミラーニ侯爵を説得してこの場を設けることができたのに、それを無駄にするわけにはいかないわ……‼︎


「皆様、魔石には各属性があるのをご存知でしょうか」

「属性ですか?」


 わたくしの質問が突拍子もないものだったからか、向かいの席に座るドーカル王国の政務官が言葉を返してくれた。


「はい。魔石には火・土・水・風・闇・光の六つの属性がありまして、その属性はその土地の特性に合わせて土の中で変化して生成されるそうです」

「左様でしたか。……それで、それが本件と何か関わりがあるのでしょうか?」


 政務官は呆気に取られたような表情をしていたけれど、次第に眉間に皺を寄せ始めた。


「はい。……つまり魔宝具に使用する魔石は、その用途により属性や純度などを合わせるのですが、我が国の魔石は主に光属性のものが多いのです。よって魔宝具の開発も光系統のものが主でした」


 これは魔術学園での座学の講義や、テオとレオニール殿下の作業場を見学に行った際に二人から教わった知識だった。


「ですが、各国の地質に合わせて発掘される魔石の属性は異なり、……例えばドーカル王国で発掘されるのは主に土属性の魔石が多いと聞いておりますが、魔石が今よりも発掘され易くなれば、各国で発掘した各属性の魔石を交易し合いそれを生かしていくことも可能だと思うのです」


 わたくしの言葉に対して、ドーカル王国の政務官は息を呑み、少しの間考え込むと強く頷いた。


「……なるほど。それは興味深い考えですね」

「……はい。加えて魔石に関する規則(ルール)作りや、各国間で魔石に関するアカデミーを創設し交換留学を行うなど、魔石に関して各国で切磋琢磨をしていくことで平和的に利用をすることに繋がるのではないかと考えます」


 わたくしの言葉に、会場内の各国の代表たちは「おお」と感嘆の息を漏らした。

 そして、思わず陛下に対して視線を移すと、陛下は納得したかのように強く頷いていた。


「これはあくまで案に過ぎないが、我々はこのような方向で魔石が世界にとって有益で平和的な利用をされることを祈っている。皆には何卒認識していただきたい」


 そうして、わたくしたち二人が合わせて一礼をすると、たちまち室内に拍手が巻き起こった。


「それは、とても興味深い考えですね」

「すぐに自国に報せましょう」

「我が国の魔石は水属性が主ですので、それに合わせた魔宝具の開発が活発に行われれば、国益となりましょう」


 様々な肯定的な意見が交わされ、こうして第一回目となる大陸会議は幕を閉じた。

 

 ……本当に良かった……。これで、戦争が起こらない未来へと一歩進むことができたのかもしれない。


 そう思うと、目前で拍手をしていただいている方々から力強く後押しをしてもらっているように感じて、わたくしはしばらくこの光景を目に焼き付けようと皆を見渡したのだった。


 ◇◇


 それから翌日も会議は続き、昨日よりも具体的な話し合いが行われた。

 それは我が国の王弟であるレオニール殿下が設計し、魔宝具の租であるテオが殿下と共同開発を行い製作をした「災害対策用の魔宝具」のお披露目と各国への普及方法の模索だった。


 レオニール殿下の設計図は各国に無償で提供し、その製作にも協力を惜しまないことを告げたけれど、最初は皆疑問に感じたようだった。

 

 けれど、後に陛下が「代わりに各国の各属性の魔石をより手に入り易くするために、その国特有の属性の魔石に対して関税を一律で低くする」という内容の提案をすると一同納得したのか深く頷いていた。

 その案は流石にその場では審議されなかったけれど、その後定期的に我が国で開かれることとなった大陸会議で直に良い形になって決定することになると思うわ。


 そうして大陸会議は、各国の代表たちが皆(おおむ)ね満足する形で幕を閉じた。

 加えて陛下の予測通り、代表たちが国に戻った後に改めて我が国に対して、魔石の平和利用の同意書や災害対策の魔宝具の協力願いの国書が届き始め、一週間後には前回の生では戦争をしていた相手国のドーカル王国からも、平和利用を約束する同意書が届いたのだった。


 その国書が届いた際、わたくしは招集に速やかに応じて陛下の執務室へと赴いた。


 そしてその国書を陛下から手渡していただき書面を確認すると、わたくしは自分の感情を自覚する前に膝の力が抜けてそのまま床に打ちつけられそうになる。

 けれど、すんでのところで陛下がわたくしの左手首を掴み床に足を着かせてもらうと、そのまま力強く抱きしめてくれた。


「……本当に良かった……」

「はい。……これで戦争が起こる可能性は低くなったのですね」

「ああ」


 陛下の、わたくしを抱きしめる腕の力が次第に力強くなり、わたくしも陛下の背中に腕を回し返した。

 ……これで逆行魔術で見たような未来は、回避することができたのね……。


 陛下の胸から伝わる力強い鼓動を聞きながら、「今わたくしは生きている、これからも生きていける」という想いを強く噛み締め、わたくしたちはしばらく抱きしめ合ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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