第82話 差し込んだ一筋の光
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「光だわ……」
わたくしが呟くと、ルチアが目をパチクリと見開いて不思議そうな表情を向ける。
「……光……ですか?」
「ええ。今わたくしの目の前に一筋の光が差し込みました」
「思わず、自分の名前を呼ばれたのかと思いました」
目を遠くにするルチアの言葉の意味を図りかねていると、「私の名前って光という意味があるんですよ」と耳元で囁いて教えてくれた。
「……そうだったのですね」
ルチアが光と言う意味を持つのであれば、強ちそれは間違いではないと思った。
何しろルチアの手に持つ魔宝具から、真っ直ぐと伸びた直線の七色に煌めく光が見えるのだから。
「この七色の光は何でしょうか。先程までは見えなかったのですが……」
「七色の……光ですか?」
「ええ。ルチアが握っているその魔宝具から、発光しているのです」
ルチアはそれを観察するけれど、首を傾げていた。
「私には見えないようですが……七色の光……。まさか」
ルチアは目を見開くと立ち上がり、慌てて扉の側まで足速に移動をした。
「王妃殿下。これはもしかしたら、大変な能力の開花なのかもしれません! 至急魔術師長様をお呼びしてきます!」
「……はい、よろしくお願いします」
取り付く島もない様子のルチア対して生返事のような返しをしてしまったけれど、……大変な能力の開花とは、どういうことかしら……?
その後ルチアはバルケリー卿を連れてきて、わたくしは卿から幾つかの質問を受け様々な道具を額に当てられて何かの検査を受けた。
そしてその上で、確信を持ったように卿は深く頷かれた。その瞳の奥には、微かだけれど希望のようなものが感じられる。
「正式な分析結果はこれからですが、今の時点でも九割方相違が無いと思われるのでお伝え致します」
「はい、どのようなことが判明したのでしょうか」
先程から調べていたのは、わたくしが見えている七色の光についてなのだと思うけれど、その光の詳細がほぼ判明したのね。嬉しいけれど、少し緊張するわね……。
「結論から申し上げます。……妃殿下が見ている七色の光は、魔石自身が発光する光のようです。……本来魔石の光は肉眼では決して観測することができませんし、長年各国の研究機関がその光を観測することの可能な装置の開発を行っているのですが、これまでそれを実現するまでには至れなかったのです」
「魔石の光……」
この七色の光が魔石の光だったなんて。
……あら、よく考えてみるとこれはとても重要な発見で、上手くいけば……。
「わたくしのこの力を使って、魔石の場所を予測することができるのではないでしょうか? それに光だけではなく、何か魔石自体から強い独特な気配のようなものも感じるのです」
バルケリー卿は少し表情を固くしてから強く頷いた。
「そうですね。その力をそのように使うことも可能かと思います。……ですがこの力を邪な輩に知られてしまえば、恐らく妃殿下は狙われることとなるでしょう」
狙われる……。確かにそうだわ。
とても恐ろしいし、却って陛下や民の手を煩わすことになるのかもしれない。わたくしはこの力を下手に使わない方が良いのかしら……。
──途端に、先ほどの未来の光景が目前に浮かんだ。
バルケリー卿は亡くなり、オリビアは未亡人となった。多くの民は犠牲となり、わたくしは子供を産むことができない身体になってしまった……。
この力であの未来を少しでも変えることに繋がらないかしら……。
悪用などされずに、正しく使うことができれば……。
──そうだわ。
「今から陛下にお会いしてきます」
「妃殿下、無闇にその力のことを他人に言い伝えるのは如何かと……」
「そうですね。ですが陛下はわたくしにとって、とても大事な伴侶です。わたくしのことをお伝えするのは当然のこと。加えてお二人は、くれぐれもこのことは他言無用でお願いします」
わたくしは真夜中の海面のように、静かな心中を思い浮かべながら二人の瞳を見渡した。
二人とも息を飲み込んで次第に小さく頷き合う。
「分かりました。私の言葉は杞憂だったようです。……もとより、これまでリビアやスナイデル様、民たちのために一身に動かれてきた妃殿下であれば何の心配もないかと思います」
バルケリー卿の言葉に対して、ルチアは強く頷いた。
「私もそう思います。王妃殿下と出会わなければ、お祖父ちゃんは今頃きっと取り返しのつかないことをしてしまっていたと思います。王妃殿下は私たち家族にとって大切な恩人なんです。そんな王妃殿下のお決めになったことなら、私は全面的に協力します!」
「ああ、それは私も同調する。私にできることなら何でも協力させていただきたい」
二人の笑顔はとても柔らかくて、見ているだけで心が癒されるような、まるで陽だまりに包まれているような気持ちになった。
「……お二人とも、ありがとうございます……! おそらく、お二人にはすぐに協力をお願いすることになるかと思います」
「ええ、分かりました。これから身辺の整理をして待っていますので」
「私もいつでも声を掛けてください!」
「……よろしくお願いしますね」
涙が滲んできて溢れそうだったから、一礼するとすぐに退室した。涙を手で拭うと意識を新たに持つ。
──さあ、やらなければ……!
◇◇
それから、わたくしは早急に陛下の執務室へと再び移動し、陛下にことの事情を説明した上である提案をした。
「……そなたが魔石の光を認識することができるようになるとは。……これがもしや、魔術師長が以前に言っていたそなたの真の力なのだろうか」
「真の力ですか……?」
「ああ。そなたには莫大な魔力が生まれつき備わっているが、その奥に何か更に秘められた力があると言っていた。……ただ、その真の力はその時の状況に合わせて発現したのだろう。……セリス。そなたの提案を慎んで受けたいと思う。むしろこちらから頭を下げて願いたい案件だ。もちろん、そなたの安全は一番に考え行動するつもりである」
陛下は最初は驚いていたけれど、今は柔らかな笑顔を向けてくださっている。
「提案をお受け入れてくださりありがとうございます、陛下。……さあ、早速動きましょう。この国の民のために」
「ああ、そうだな」
そしてわたくしたちはすぐにバルケリー卿とルチア、それからレオニール殿下とテオにも事情と守秘義務を提示し加わってもらい、ある魔宝具の開発と作製を行ったのだった。
その開発に当たってレオニール殿下とテオに共同で設計図を作成してもらい、試作品はなんと一週間後には完成した。
ただし、それだけではまだ未完成でその器にわたくしが両手の手のひらを翳して「光よ留まれ」と呟くと、七色の光がその器に吸い込まれて行きそれで完成だった。
バルケリー卿からの説明によると、どうやらわたくしの発現した力は「魔石の発見能力」であり、この魔宝具はそのわたくしの能力を留める役割を果たしてくれるとのことだった。
また殿下は、わたくしがいなくてもその七色の光を留めておけるような魔宝具を追々製作したいと仰っていた。
そうしてわたくしたちの渾身の魔宝具は完成し、希望の光がまた一つ差し込んだのだった。
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