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第73話 災害対策の魔宝具

ご覧いただき、ありがとうございます。

 あれから約二週間後の九月十日。

 我が国の王宮内の王宮魔術師塔では、バルケリー卿の口添えによって、ルチアの祖父であり魔宝具の祖であるテオが出入りをするようになった。


 テオは半世紀以上前に、理不尽な理由で王宮を追放をされて以来、強い遺恨を王族や王宮魔術師たちに抱き、二度とこの地に踏み入れることなどないと思っていたそうだけれど、バルケリー卿の強い意向により彼が出入りすることが実現できたのだ。


 もちろん、他の王宮魔術師たちには時間をかけて説明をし、全員が納得したとはいかなくても黙認させるぐらいまでにはできたようね。


 ただ、テオは当時の王宮魔術師たちの働きによって名誉は回復されていたのだけれど、それでも尚、現在でもテオのことを快く思っていない王宮魔術師たちもいるようだ。

 なので、魔術師塔内にテオ専用の個室を用意し、極力彼らとは鉢合わせをせずに済むように最大限の配慮をバルケリー卿の手配でしているとのことだった。


 わたくしが入室すると、すでに室内にはテオと、テオが来宮する際に必ず同行をしているルチア、それから公務を終えてから駆けつけて来たレオニール殿下がそれぞれ同席し、災害対策の魔宝具の設計図の作成を行っているところだった。


「テオさん、もしやこれは……」


 レオニール殿下はテオに対して明るい表情で話しかけた。

 お召し物も、上着のウエストコートを脱いで白のシャツ一枚と言うラフな格好でいらして、随分この場に打ち解けていらっしゃるわ。


「ああ、そうだな。……これで完成だろう。試作品の製作に移っても問題はないはずだ」


 途端に殿下はテーブルに両手をついて立ち上がり、しばらくは放心状態なのか、立ち尽くしたまま身動き一つ取らなかったけれど、テオが殿下の背中を労いの意味でなのか何度か叩くと殿下は自身の右手を突き上げた。


「──やりましたね! テオさん!」

「ああ、やったな! それにしても殿下は、王弟にしておくのは勿体ないな」

「そう言ってもらえると嬉しいです!」


 王弟として非常にあるまじき発言だけれど、ここにはわたくしたちしか居ないし、何より殿下の弾けるような笑顔を見ているとこちらまで嬉しくなってくるので、少しくらいの無作法もよいのではないかと思った。


 ◇◇


 設計図が完成して一週間が過ぎた頃。

 中庭でオリビアと共に散策をしていると、例の設計図の試作品が完成したとの報せを書簡で受け取った。

 すぐさま王宮魔術師塔へと赴くと、テオ専用の個室には陛下のみがいらっしゃっていて、これまで見たことがない構造の魔宝具が室内の中央に浮かんでいた。


 それは、最近他国で開発された鉄鋼を原料にしているとのことで、大きさは手のひらに乗るくらいの立方体だった。


「これは、どのような効果の魔宝具なのでしょうか……!」

「ああ、これは竜巻を防ぐ効果のある魔宝具だ。正確には、竜巻の発生を感知すると自動的に魔宝具自体が動き、該当の箇所まで移動して風系の魔術を発動させる。それによって事前に竜巻を防ぐことが可能だ」

「そのようなことが……」


 思えば開発中の魔宝具の詳細は最重要機密ということで、陛下を始め極僅かな者にしか知らされていなかったのよね。

 尤も、わたくしも教えてもらうことはできたのだけれど、ついうっかりと言うこともあるかもしれないので、今日まで控えていたのだ。


「とても素晴らしいですね」

「ああ、そうだな」


 すでに室内にいらっしゃったアルベルト陛下が小さく頷かれた。分かりにくいけれど、その瞳は少し潤んでいるように見える。


「これで、国内の災害事情が改善するとよろしいですね」

「ああ、そうだな」


 陛下のその言葉通り、この後もテオとレオニール殿下の魔宝具の開発予定は進み、農作物をありとあらゆる害から守る魔宝具や、農作物の成長を促進する魔宝具等を三週間ほどの期間に同時進行で開発を行う予定とのことだった。


 ただ、この魔宝具を国全体に普及させるには時間がかかるとの見立てだった。

 というのも、それに見合った属性の魔石が国内では不足をしているらしく、多くの数の魔宝具をすぐに量産するのは難しいらしい。


 けれどそう言う事情があっても、実際に製作したことは本当に凄いわ。

 魔術学園にテオが怒鳴り込んで来た時には、まさかこのようなことになるとは思いも寄らなかったけれど、ことが好転してくれて本当によかった。


 ◇◇


 それからの一週間、わたくしは忙しく動いていた。

 というのも、貴婦人方を対象にした寄付を主としたサロンの準備を行っていたからだ。


 以前に開催したわたくし主催のお茶会がきっかけで、フォール侯爵夫人から奉仕活動を行っている貴婦人方のリストを手紙で送っていただいていた。

 そのリストは早速陛下にお渡しして精査していたわ。


 そして、陛下に日々サロンでお茶を一緒にしている時に相談をし、わたくしのティーサロンで、寄付を主としたお茶会を開催することができることとなったのだ。

 準備は大変だったけれど、いざ開催して王都や各領地の災害による現在の状況をお伝えすると、皆真剣に聞いてくださり積極的に活動をすると仰ってくれた。

 その場で寄付金も集まり速やかに市民団体に寄付を行えたわ。


 よかった……。

 これがきっかけで貴族の間でも国内で起こっている災害や危機について今よりも認識してもらうことに繋がるかもしれないわ。

 もちろんわたくしも、自分の私財から寄付をしたけれど、何よりも出席してくれた方々の目が真剣だったのが嬉しかった。


 気がつけばわたくしは、前回の生の時には考えられないほど、自分自身の意思で生きていると強く実感していた。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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