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【書籍化・コミカライズ】二度目の人生では、お飾り王妃になりません!  作者: 清川和泉
第9章 運命の日

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閑話2 貴族たちの密談 ⭐︎

ご覧いただき、ありがとうございます。

今話は三人称となります。

 セリスが魔術学園での生活を終えてから、三日後の夕刻。

 王都内に立ち並ぶガード伯爵のタウンハウス内の応接間では、ラン王国の貴族派に所属をする貴族らが集まっていた。


「ところでビュッフェ侯爵。ドーカル王国のラム伯爵は何と仰っておられるのですか」


 一人掛けのカウチに背筋を伸ばして腰掛けているのは、この屋敷の主であるガード伯爵である。

 彼は、赤茶けた髪に力のある眼差しが印象的なカーラの婚約者の青年である。


「ああ。やはり、我が国の魔石鉱山の利権に関する事案であった。現在、魔石鉱山の大半は王太后の実家のミラーニ侯爵家が所持をしておる。ドーカル王国は、ミラーニ侯爵家が王太后の実家であるのにつけ込んで、魔石の輸出に掛かる関税額を魔石一つの樽につきエルステア銀貨二枚分と高額にしているのが気に食わないらしい」

「……そうですか。やはりそれでは」

「ああ。元々ドーカル王国と我が国は隣接国ゆえ、この何世紀の間、幾度となく戦争が起こっている。現在でこそ国交を持ってはいるが、鉱山を狙っての本格的な宣戦布告となるのは時間の問題だ」

「その目的のためには、王妃が目障りなのですね」

 

 飛躍した結論のように感じたが、その場にいる者は皆一様に頷いている。

 そして、ビュッフェ侯爵の代わりに、一番奥の上座の席に座るラン王国の丞相であるエトムントが口を開いた。彼は、その黒褐色の瞳で鋭く一堂を眺めている白髪頭の初老の男性である。


「ああ、そうだ。王妃の秘めたる膨大な魔力はその弊害になる可能性が高い。ドーカル王国は、宣戦布告と同時期に内部から私たちが現王族を始末することで、私たちに新生ラン王国での確固たる地位を築くことを約束した」


 エトムント侯爵はコホンと咳払いをすると、改めて話を続けた。その目は哀愁を含んでいるように見える。


「元々小国に過ぎぬ我が国が、大陸で随一の大国であるドーカル王国に目をつけられた時点で、血が一滴も流れないわけがないのだ」

「ドーカル王国は鉱山の主権さえ手に入ればよいのですからね。ですが、我が国の王族側にも動きが見られるようです」

「ああ。特に国王は常に危険を感知し、それに対し対処をする能力に長けていて中々隙を作らない。……そこでだ」


 エトムント侯爵は中央の卓に小降りの石を懐から取り出して置いた。一見すると何の変哲のない魔石のように見える。


「これは偽物の魔石だ。ロナ王国で大量に生産し密かに我が国に運搬した。この偽物を、鉱山内で発掘された一部の魔石とすり替えドーカル王国に輸出をするのだ。よってラン王国の魔石事業の信用は落ち、ドーカル王国は賠償を持ちかけることができる」

「ドーカル王国の宣戦布告の口実にもなり得る、と言うわけですね」

「ああ、そうだ。すでに偽魔石の入手経路の偽造も完了している。足取りを追うことは難儀であろう」

「とすれば、ゆくゆくは私たちが王族やそれに連なる貴族になれるのですね」

「ああ、そうだ」


 エトムント侯爵はガード伯爵の意気揚々とした顔を目にすると内心舌を巻いたが、特にそれについて言及しなかった。


「ただ、流石に手の内がそれだけでは心もとない。例の魔宝具師の懐柔も重要だろう」


 ビュッフェ侯爵は深く腰掛け直して頷く。


「はい。その魔宝具師は元々王族には強い怨恨がありますからね。特に問題はないでしょう」

 

 ガード伯爵も頷いた。


「彼からはすでに王妃の膨大な魔力に関して情報は引き出してありますし、我々を裏切ることはしないでしょう」

「ああ、そうだな」

「しかしながら、王妃の魔力に関してはあちら側も掴んだようですし、王妃は最近まで頻繁に魔術学園を訪ねていた様子です」

「王妃が力をつけて、万が一我々を牽制し始めたら身動きが取れなくなってしまうかもしれぬ。計画の実行を早めなければならなぬかもな」


 彼らが密談をしている室内に、トレイを持ってお仕着せを着た侍女が入室した。

 彼女は慣れた手つきで紅茶をテーブルに置き空のカップをトレイに乗せると、速やかに退室して行った。亜麻色の髪の侍女──本来はセリスの侍女であるルイーズである。


 そうして、それからも彼らの密談は深夜に及ぶまで続けられたのであった。


 ◇◇


 そもそも、(くだん)の魔宝具を取り巻く事情は複雑であり、それゆえ国内に貴族派のような火種が生まれたのである。


 というのも、ラン王国は大陸の内陸国に位置し、従来その主たる産業は農作物や絹織物等の生産であったが、半世紀ほど前に当時の王宮魔術師であったテオ・スナイデルにより魔宝具の開発と実用化が行われてからは、国の主な産業は魔宝具産業へと塗り変わっていったからだ。


 また、それよりも以前から採掘されていた魔石鉱山の開発がミラーニ侯爵家により活発になり、それらが相まってラン王国は魔宝具輸出国として大陸の小国から列強国へと台頭していったのだ。


 だが、魔石鉱山で得られる利益は、実際にはその利権を持っているミラーニ侯爵家にほぼ独占をされている形であり、これまで主に農業等で得られた各領の領民による租税を主な収入源としている貴族との間に、格差が生まれてしまった。

 それを是としない者たちが貴族派として結束を固め、彼らは長年様々な画策を行ってきたのだがそれは功を奏さなかった。

 

 だが、数年前に隣国ドーカルの国王であるトーマ国王が自国産の魔宝具がラン王国の物と比べて価格が高く、国民の間での売れ行きが低いことを懸念して、原料の魔石にかかる関税率を引き下げるようにラン王国に持ちかけたが、その交渉は決裂し次の一手を考えていた際、先の貴族派とビュッフェ侯爵家を通じて接触したのだ。

 

 ビュッフェ侯爵家の前当主、つまり現当主のカーラの父親が、元々ドーカル王国の男爵家の次男だったことが繋がりを築くきっかけとなったのである。


 そのような事情があるので、ドーカル王国とラン王国の貴族派の一部の貴族は結びつき、魔石鉱山の利権を狙い、果ては戦争を起こしてそれを有利に進めるために、王族の暗殺までをも企てているのであった。


 だが、元々幼き頃から人を信用しないように国王であった父親から教え込まれてきたアルベルトは、いち早く貴族派の思惑に気がつきその勢力を長年抑え込んでいた。加えて、貴族間の不平等を埋めるべく対策を提案してきたのだが、とある事情でそれは実現に至っていない。

 そして幸いなことに、今まで生命を奪うような粛清は行われてはいなかったが、このままではそれを行わなければならなくなるのは時間の問題かと、アルベルトは常に気を張っていたのである。


 その矢先に、二ヶ月ほど前にアルベルトとセリスの婚儀が行われたのだ。

 今生では、セリスが自身の意思で動き出したことでアルベルトの心は和らぎ、セリスと共に進むことを選んだことで、時間が巻き戻る前の世界とはまた別の未来へと時は流れているのである。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話も、お読みいただけると幸いです。次話から一人称に戻ります。


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