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第69話 アルベルトとの約束

ご覧いただき、ありがとうございます。

 お茶会当日の夜。

 晩餐の場でアルベルト陛下に今日のお茶会で貴婦人方からの交流で得られた情報や、侍女のルイーズからの言葉を伝えると陛下は神妙な表情をされた。

 特にルイーズの言葉には何か心当たりがあるのか、深く頷かれた。


「……そうか。非常に有益な情報であった」

「そうであればよろしかったですが、その真意はどういったものなのでしょうか」

「……まだ、目立った動きはないが、……特に注意を向けることにしよう」

「はい」


 陛下は何か心当たりがおありのようで、眼光を鋭くする。


「……ところで、例の件だが来週の土曜日の二十五日に決行予定だったな」

「はい。その件に関しては、何度もレオニール殿下と打ち合わせを行い準備を進めておりました。ただ、日取は先方の予定により変更となる可能性もありますが」

「そうか。本音を言えば私も赴きたいところだが、王族が何名も市井に赴くことは警備の都合上行うことは難儀なのだ」

「お心遣いをいただきありがとうございます。ですが、そのお気持ちがとても嬉しいのです」


 陛下はそっと目を細めて、わたくしに対して優しげな眼差しを向けた。


「くれぐれも、慎重に警備を行うように近衛騎士に改めて伝えておく故、……気をつけてな」

「はい。ありがとうございます、陛下」


 そっと微笑まれた陛下を見ていると、胸の鼓動が高鳴り胸がギュッと締め付けられるように感じる。

 

 このまま、陛下に抱き締めてもらいたくなる欲求が湧き上がってきたけれど、それは今は叶わないので、ともかく目前のニザダイのパイをフォークで掬って口に運んだ。

 ああ、柑橘のソースが爽やかに香って、その後に芳醇なバターと白身魚のニザダイの淡白な味が良く合っていて心地がよいわ。


「……このニザダイはロナ産でしょうか」

「ああそうだな。ときにそなたは、ロナの使節と婚儀の際の晩餐で会話をしていたな」

「はい。あの時は会話をすることに夢中になりましたが、使節はお元気にされているでしょうか」

「そうだな。使節が息災であることを願う。……ロナか……」


 陛下は神妙な表情をされて、ニザダイを丁寧にナイフとフォークで切り分けると口に運んだ。

 その表情がいつになく曇っているように感じたので不安を覚えたけれど、わたくしと視線を合わせるとその表情は柔らかくなる。


「……たまには、そなたと遠出をしてみたいものだな」

「遠出ですか?」

「ああ。他国のロナとは行かなくとも、国の直轄地の別荘へ避暑や秋の植物の観賞に赴くなど、……そうだな、様々な案件が一段落ついたら考えてみないか」


 陛下と遠出をする。

 ……つまり旅行をなさりたいと言うことなのでしょうけれど、……想像しただけで涙が込み上げて来たわ。

 陛下自ら旅行に誘ってもらえる日が来るなんて……。


「もちろん、ご一緒をさせていただきたいです」

「ああ。……そのためには一層気を引き締めなければな」


 そう言った陛下の目は何か堅い意志のようなものを感じ、呟いた言葉も何処か自戒のようにも思えた。


 陛下の様子に少し不安を覚えたけれど、その瞳は透明で何処か輝きのようなものを放っていて、自然とわたくしの不安は消えていた。


「ときに、そなたが実家に戻る、いや、一晩だけ戻る件だが話は進んでいるだろうか」


 あえて言い直したのは、ご自身の言葉がまるでわたくしがそのまま実家に戻ってしまうように感じたからかしら……。


「はい。実家には既に書簡を送っており、承諾の返事ももらっております。……つきましては、日程を調整したいのですが、よろしいでしょうか」

「ああ、構わない。……そうだな、九月の最初の週の土曜日はどうだろうか」

「はい。わたくしは都合が付きますので、後ほどそのように便りを出しておきますね」

「ああ」


 そう言って微笑む陛下からは、少しだけ寂しさのようなものを感じた。やはり、わたくしが一晩留守にするのはお寂しいのかしら……。

 そうだとしたら、こんなこと思うのもなんなのだけれど、……嬉しい……。

 そうだわ、後ほどのティーサロンで陛下にとっておきの茶葉を出して、少しでもゆったりとしていただきたいわね。


「……さて、これからティーサロンへと移動しようと思うが、如何か」


 思案をしていたら、いつの間にか食事が終わっていたようね。

 最近は、お茶やデザートはティーサロンで摂っているので、晩餐時では予め省いてもらうように伝えているのだ。


「はい、もちろんです」


 給仕が椅子を引いたので立ち上がり、そのままゆっくりと食堂を退室し陛下と並んでティーサロンへと向かった。

 その際背後には、侍女のオリビアと近衛騎士のフリト卿がすかさず付いて来てくれている。


「……今日はそなたの好きそうな菓子を用意してあるのだ。そなたの口に合えばよいのだが」

「まあ、それは楽しみです」


 陛下の微笑んだお顔を見ていると、先ほどわたくしが陛下のために茶葉を用意しようと思い立ったことを思い出した。

 何だか心が通じたようで嬉しい……。


「どうかしたのか?」


 不思議そうにわたくしの顔を覗き込む陛下を見ていると、愛しさが込み上げて来たので、わたくしはそっと微笑み返してこの幸せを噛み締めたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話も、お読みいただけると幸いです。


また、セリスが実家に戻るエピソードは番外編で描かれております。


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