第62話 ルチアからの追求
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翌日の正午前。
普段どおり魔術学園での授業を終えて、わたくしはルチアと共に園舎内の面談室へと移動していた。
ちなみに、先ほどまで行っていた中庭での実技講義では、問題なく昨日のように噴水の波紋を止めることができた。
レイチェルの話では、明日からの実技では次の段階の内容を行うとのことだったわ。
「王妃殿下、こちらにお掛けください」
「ありがとう」
室内には長方形のテーブルが中央に置かれていて、ルチアがわたくしに向かって奥の長椅子に腰掛けるように促したので、ゆっくりと腰掛けた。
「王妃殿下、本日はお時間をいただきましてありがとうございます」
「いいえ、気にしないでください。それにわたくしも実はあなたに相談があるのです」
「相談ですか?」
ルチアは不意を突かれたような表情を浮かべたけれど、すぐに背筋を正した。
「はい。ですがわたくしの相談よりも、スナイデル先生の方が先にお話しを切り出されたので、わたくしの話は後で結構です」
「いいえ。……私の話は少々込み入った話なので、よろしければ先にお聞かせ願えませんか?」
「……分かりました」
ルチアの表情は強張っているように感じる。
今更ながら、ルチアの相談とは何かしら。とても気になるけれど、わたくしにはレオニール殿下から言伝られた大切な要件があるのだから、今はその件をキチンと伝える方が先決ね。
昨日、殿下からお預りをした設計図が入っている筒の蓋を開け、中身をゆっくりと慎重にテーブルの上に広げる。
ルチアは先ほど、廊下を歩いていた時からわたくしが手に持つ筒のことは気にかかっていたようだけれど、それが実際に広げられると瞬時に身を乗り出して設計図の隅々まで確認を始めた。
「……とても精巧な設計図ですね。これは農業に関する魔宝具で、主に竜巻や台風等の強力な風や豪雨から農作物を守る物のようです」
「はい、そう聞いております」
昨夜に、殿下から設計図の詳細を細かく訊ねて手帳に書き記しておいたので、多少の質問だったなら対応ができると思うけれど、そもそも基盤となる知識が欠けているので少々不安だわ。
「……これを設計したのは、ひょっとして王宮魔宝技師の方ですか? それもかなり位の高い方の設計と見受けられますが」
ルチアは目を大きく見開き、拳をギュッと握った。
「……この設計図を書いたのは、確かに我が国の王宮魔宝技師ですが、実は彼はまだ見習いなのです。本来ならば、王宮魔宝技師たちに意見を訊くべきだとは思ったそうですが、彼らに意見を訊く前に、是非外部の方に意見を訊きたいとのことで預かったのです。ここは安全対策も万全ですし」
「そうだったのですね……。これが見習いの方の設計……。やはり王宮の技師の水準は高いのですね」
ルチアは納得したのか深く頷くと、ふとわたくしの方に視線を合わせた。
「ですが、その見習いの方と妃殿下とは一体どういった繋がりがあるのですか? 一介の見習いが、中々王妃殿下と接触をするのは難しいと思いますが」
鋭い質問だと思ったけれど、疑問に思うのは尤もだわ。
「実は、その見習いがわたくしの侍女の親族でして、その縁で相談を受けたのです」
これは前もって準備をしていた受け応えなのだけれど、不自然ではないかしら。
「……そうでしたか。事情は分かりました。……正直なところ、もう少し詳しく読み込まなければ分かりませんが、……発想も切り口も構成も、全てとても斬新だと思います」
「そうですか、安心しました。本人にはそう伝えますね」
ともかく、殿下には好感触だったと伝えれば、きっと納得し安心してくださるわね。
「……失礼ですが、妃殿下。もし可能であればでよいのですが、その見習いの方と会うことは可能でしょうか」
「……直接話をされたいのですか?」
「はい。是非、どのような観点でこの設計を成されたのか、お話を聞きたいのです。もし可能であればで結構ですが」
これは予想外の申し出だわ。けれど、今この場でわたくしの一存で決めてしまうわけにはいかないから、一旦持ち帰った方がよいわね。
「分かりました。つきましては本人に確認を取りたいので、後日改めて返事をさせてください」
「はい、お手数をお掛けします」
ルチアが一礼をすると、背筋を伸ばしてまっすぐわたくしの目に視線を合わせた。
「……それでは、あなたのお話を聞かせてもらえますか?」
「……はい」
ルチアはふっと視線を落とすと、深呼吸をして寸秒後、改めてわたくしの目を真摯に見つめた。
「そうですね。何点かあるので、なにからお話をしたら良いのか……」
そう言って思案をすると、意を決したような表情をした。
「妃殿下。単刀直入に申し上げます。妃殿下は以前に、時の流れを操作したことはありませんか?」
「…………」
思いもしなかったルチアの言葉に、わたくしはしばらく声を発することも、身体を動かすこともできなかった。
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