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第55話 アルベルトからの贈り物

ご覧いただき、ありがとうございます。

 先日のティーサロンでの一件により、わたくしの体内の魔力は中和され、その日を境に体調は徐々に落ちつき始めていた。

 あれから一週間以上が経ち、虚弱体質についてや、カーラがわたくし付きの侍女になることの懸念事項も一先ず気にかけずに済んでいるので、ここのところのわたくしの精神状態は安定している。


 またアルベルト陛下とは、先の一件で想いを通じ合わせることができたので、あれからは時折一緒に晩餐後にティーサロンでお茶を飲み、他愛のない話で花を咲かせ穏やかな時間を過ごすことができている。

 このような享受は、前回の生のときにはとても及びもつかなかったわ。本当に有難くて、毎日幸せを噛み締めている。


 また、陛下はわたくしの身体を気遣ってくださっていて、夜に陛下の私室に呼ばれることは今のところはないのだけれど、それには少し寂しさも感じていた。

 少し前には、そのことに対して嫌悪感すら抱いていたのに、自身の身勝手さも感じつつ、心境の変化を好ましくも思っていた。


 とはいえ、この一週間の間は再び王都の広場の炊き出しに参加をしたり、ティアや王太后様に相談に乗ってもらいながら、わたくし主催の茶会の準備を行う等、常に何かの用事をこなしていたわ。

 以前のわたくしではおそらく体調を維持することができなかっただろうから、身体の支障をきたさない現状はとても有り難く、健康でいられることに感謝の念が絶えない。


 そして、いよいよ魔術学園に通う日となったので、今朝からは普段よりも気を引き締めて身支度をしている。

 

 従来であれば、魔術学園には専用の制服が用意されているとのことなのだけれど、わたくしは正式に入学する訳ではないので私服で通うことになっている。


 また、国民や王宮の者たちには、わたくしが魔力の調節のために魔術学園に一時的に通うことを極力悟られない方がよいと、陛下とバルケリー卿がご判断をなされた。

 そのため体面的には、あくまでもわたくしは公務の一つとして、魔術学園に内部の現状把握のための視察として赴くということになっており、魔術学園の殆どの講師たちには予めそのように伝達がなされているとのことだった。


「妃殿下、良く着こなしておいででございます」


 侍女頭のティアが、姿見の前でわたくしの衣服の乱れを正しながら穏やかな表情でそう言ってくれた。


 今日のわたくしは、この間の炊き出しの際に身につけたようなレースが施された白のブラウスに膝下までの黒のスカートを身につけている。

 これならば、制服ではなくても魔術を学ぶのに支障がないはずだわ。


「ありがとう、ティア。今日から魔術学園に通うこととなり、民の前に姿を現す機会も増えるので身を引き締めなければなりませんね」

「妃殿下ならば、何も案ずることはなきことでしょう。慎んでご同行を致します」

「頼みましたね」

「はい」


 そして軽く朝食を摂り再度身支度を整えると、ティアとオリビアを連れて室外へと移動し、わたくし専属の近衛騎士であるフリト卿とリーゼ卿もすぐさま合流をして、王宮の生活棟の玄関へと向かった。


 玄関ホールへと到着すると、そこには待ち受けていると予想だにしていなかった人物──陛下がいらした。

 わたくしはすぐさま、陛下に対して辞儀(カーテシー)をする。


「陛下、おはようございます」

「ああ、おはよう」


 陛下は優しく微笑んでくださって、思わず顔が熱くなってこの場で(うずくま)って幸せを噛み締めたくなった。


 今日のお召し物である紺の宮廷服もとてもお似合いで素敵ね。

 思わず見惚れてぼんやりとしてしまいそうだけれど、周囲に侍女や近衛騎士たちがいるのだし、気を引き締めなければ。


「本日からそなたの魔術学園での生活が始まるのでな。公務の兼ね合いで毎日とはいかないが、初日ぐらいはそなたを送り出したいと思ったのだ」


 少しだけ気恥ずかしいのか、頬を指でなぞる陛下の仕草の一つがとっても愛らしかった。


「温かいお心遣いに痛み入ります。陛下のお顔を拝見できたお陰で緊張が解けたようです」

「そうか、ならばよいのだが。……加えてそなたにこれを手渡そうと思ってな」

「あら、何でしょうか」


 何か陛下から、魔術学園の学園長宛てに言伝かしら。

 そう思い身構えていると、不意に首に優しい手つきで何かが掛けられた。思わず手で触れて確認をすると、どうやら銀の鎖のネックレスのようで、その先端には真珠と白の薔薇の飾りが付けられていた。


「陛下、これは……」


 見たところ、とても高価そうな代物だけれど……。


「予てからそなたに贈りたいと思っていたものだ。……とても良く似合っている」


 陛下のお心遣いがとても嬉しくて、涙が自然と溢れ、嗚咽となって言葉を紡ぐことは難しかった。


「気をつけてな。そしてまた晩餐の時にでも今日の話を聞かせてくれないか」

「…………はい」


 嗚咽をこらえながらなんとか返事をした。

 それを受けての陛下の柔らかい表情を見ていると、今夜の晩餐の時間がとても待ち遠しく感じられた。

お読みいただき、ありがとうございました。

明日もお読みいただけると幸いです。


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