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【書籍化・コミカライズ】二度目の人生では、お飾り王妃になりません!  作者: 清川和泉
第6章 セリスの真実

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第46話 謀計の先 ⭐︎

ご覧いただき、ありがとうございます。

今話は三人称となります。

 セリスが自身の真実を知った翌日の七月四日未明。


 ビュッフェ侯爵家のタウンハウス内の私室で、カーラは照明系統の魔宝具の灯りを頼りに長椅子に腰掛け、小さな便箋に目を通していた。

 現在は夏とはいえ、まだ夜が明けておらず肌寒いためなのか、黒のネグリジェの上に茶色のストールを羽織っている。


「……そう。失敗したのね」


 カーラはその便箋をグシャリと右手で握り潰すと、宙に放り投げてそれに向けて人差し指で払うような動作をした。


「燃えなさい」


 瞬間、燃え上がる様子や痕跡すら残さず便箋はカーラの目前から消えていった。

 一連の動作を終えるとカーラは小さく息を吐き、卓上に置いてある魔宝具のベルを手に取り鳴らした。たちまち部屋中にチリンと耳感触の良い音が鳴り響く。

 すると、寸刻も経たずに扉からノックの音が四回響いた。


「カーラお嬢様、御用でしょうか」

「入りなさい」

「失礼致します」


 殆ど音を立てずに、お仕着せを着たカーラの専属の侍女が入室する。


「……何か、飲み物を持って来てくれるかしら」

「かしこまりました。……それでは温かいジンジャーレモンティーはいかがでしょうか」

「ええ、それで構わないわ」

「只今お持ち致します」


 侍女は一礼してから速やかに退室をし、それを確認すると再び長椅子に今度は深く腰掛けた。


「……初夜の儀は滞りなく行われた」


 ボソリと呟くと、卓を叩きたくなる衝動をどうにか抑えながら掌を握り締める。

 

「薬の効き目が充分では無かった? もしくは元々白湯には薬の混入がなされていなかった。いいえ、薬の効果は幾度も確認をしたし、魔宝鏡で混入する様子を見ていたわ。……では、薬が効いたのにも関わらず、初夜の儀は滞りなく行われた?」


 呟くと、自身の言葉を理解したちまち焦燥感が込み上げて来た。


「何故? あの薬には、服薬者の負の感情を最大限に引き出し露呈する効果があった。特に蜂蜜酒を飲んだ後に作用をするように仕掛けてあったわ。蜂蜜酒は飲まれたようだし、なのにも関わらず滞りなく行われたということは……、あの女には元々アルベルト様に対して後ろ暗いところが一切無かった、とでも言うの?」


 カーラは口元に指先を当てて思案するが、すぐに首を横に振った。


「いいえ、そんなはずはないわ。あの女はわたくしと同様、幼き頃からアルベルト様を想って来たけれど、今まで殆ど相手にされなかったはず。どんな人間でも、その過程で後ろ暗い感情を抱かないわけがないのよ」


 まるで、それは自分自身に諭すように呟き、少しだけ哀愁を含むような笑みをした。


「カーラお嬢様、お茶をお持ち致しました」


 思案中に、突然自分以外の人間の声が響いたので奇を衒った形になったが、すぐに息を吐き出すと表情を戻した。


「入りなさい」

「失礼致します」


 侍女は静かに扉を開くと、無駄な動きを一切せずに静かに入室して、カーラが座る席の目前の卓に音を立てずにティーカップを置いた。

 途端に温かな湯気に混じって爽やかなレモンと生姜の匂いが立ち、カーラの吊り上がっていた眉が少しだけ緩んだ。


「ご苦労だったわね。もう下がっていいわ」

「それでは失礼致します」


 深く辞儀をし、侍女は速やかに退室して行った。

 それを見届けると、早速目前のティーカップを手に持ち一口紅茶を口に含む。すると途端に爽やかな匂いが身体中に染み渡るような感覚を覚えた。


「ふう」


 紅茶をある程度飲み終えると、身体が温まり気持ちも落ち着いたように感じ、ふとカーラの脳裏に幼き頃のことが過ぎる。


「わたくしは幼き頃、我が領に視察に訪れていたアルベルト様に、猛獣に襲われていたところを救っていただいた」


 そっと紅茶を覗き込み、まるでそれに何かが映っているかのように眺めた。


「アルベルト様があの時救ってくださらなければ、わたくしはとうにこの世にはいなかったでしょう。元よりこの命はあの方に捧げる覚悟なのよ」


 そして雑念を消すべく瞳を閉じるが、途端に半月程前に行われた婚礼の儀でアルベルトがセリスの額に唇を寄せた場面が過る。

 思わずカーラは自身の拳で目前の卓を叩いていた。


「……自分がこんなにも感情的だったなど、思いもよらなかった」


 思いの内を露呈すると、深く長椅子に腰掛けた。


「駄目よ、あの女では。この国に迫る闇から、アルベルト様を救って差し上げることができるのはわたくしだけなの。幼き頃のご恩を真の意味でお返しできるのはわたくしだけ。あの女に少しでも心を許せば、迫り来る闇からあなたを守ることができなくなるかもしれない」


 そしてカーラは、しばし思案すると小さく頷き、再びティーカップを手にし一口含むと口角を上げた。


「あの女から情報を入手するのも失敗したとあったし、そうね。せめて、明日の魔術師長就任式であの女が何かを仕出かせば、アルベルト様を失望させあの女に向けられる関心を少しでも減らすことで……ゆくゆくは、正しき道に誘導することができるのかもしれないわ」


 そこまで呟くと、カーラは満足そうに残りの紅茶も飲み干したのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次話から新章となり、一人称に戻ります。お読みいただけると幸いです。


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