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第41話 ペンダントの真実

ご覧いただき、ありがとうございます。

 バルケリー卿は一時程、わたくしが落ち着くのを見届けてから話を続けた。


「では妃殿下。貴方様が今置かれている状態についてご説明をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 陛下の手を握り返してから頷いた。


「はい、もちろんです」

「では、まず結論から申し上げますと、妃殿下は現在、大変危険な状況におかれております」

「危険な状況……」

「はい」


 バルケリー卿は深く頷き、姿勢を正し続ける。


「妃殿下は、強力な魔力を持っておられますが、その魔力の量は本来生身の人間が耐えられるものではないのです。加えて妃殿下の魔力は歳を重ねるほど強くなったと推察されます」

「生身の身体では、耐えられない……」

「はい。ですので、それが幼き頃から身体に現れていたのだと考えます」

「虚弱体質……」


 ポツリと呟くと、妙に腑に落ちた。

 わたくしはこれまで自分の体質をどうにかしようと、複数のお医者様に診ていただいたり、毎日の規則正しい生活、庭の散策等、様々なことを実践してきたけれど、そのどれもが殆ど功を奏さなかったのだ。


 けれど、それが「内包する魔力が強すぎて身体が耐えきれなかったから」とバルケリー卿から告げられると、これまでの全てのことが説明がつくように思えて、腑に落ち納得をすることができた。


「はい。……正直なところ、妃殿下の持つ魔力はそれほど強力なのです。本来なら虚弱体質どころか、とうの昔に命を落としていてもおかしくはなかったと思います」

「副魔術師長、その言い方は聞き捨てならない」

「……失礼」


 陛下がバルケリー卿を窘めたけれど、包み隠さずに伝えてくれたので、わたくしには有り難かった。……けれどそうだとしたら、どうしてわたくしは今まで存命することができたのだろうか。


「ですがそうではなかった。……これは私の推察に過ぎませんが、妃殿下は常に何かを身につけてはいらっしゃいませんか?」

「身につけている物……」

 

 何かあったかしら。……そうだわ。


「ペンダントなら、常に身につけておりますが」

「失礼ですが、それを今拝見させていただいてもよろしいでしょうか」

「はい、構いません」


 首元からペンダントを外して、ローテーブルに置くと、卿はそれを受け取り、息を漏らした。

 そうだわ。そもそも卿には元々このペンダントの解析を依頼したいと思っていたので、不意ではあるけれどそれが叶って安心したわ。


「これは、……非常に精巧な魔宝具ですね」


 途端に鼓動が強く打ち付け始める。


「魔宝具……ですか?」

「はい。ここまで精巧な魔宝具は、滅多に見受けることはできません」


 ペンダントが、……魔宝具……だった?


「失礼ですが、こちらはどのような経緯で入手されたのですか?」

「これは……、亡くなったお祖母様から贈っていただいた物ですが、……このペンダントに付けられている石は魔石ではありませんし、わたくしには魔宝具には見えないのですが……」

「そうですね。魔術師であってさえも、一見してこのペンダントは変哲のないペンダントに見えるかと思います。ですがそれがまたこの魔宝具の精巧たるところなのです」


 今度は鳥肌が立ってきた。……魔宝具とは悟らせないような魔宝具? まさか、そう言った物があるなんて……。


「そのペンダントが魔宝具だったとして、それは王妃にどのような効果をもたらしているのだ?」

 

 陛下が低い声で訊ねた。その声は落ち着いているようだけれど、どこか急いているようにも感じる。

 バルケリー卿は小さく頷くと、改めてわたくしの目を見てゆっくりと話し始めた。


「このペンダントは、妃殿下ご自身の高い魔力を抑え込む、いわば制御装置のようなものです」

「制御装置?」

「はい。先ほど説明した通り、妃殿下ご自身の内包する魔力量は膨大です。それを、その状態のままにしていたら妃殿下のお身体が耐えられません。……ですが、どうやらこの魔宝具は、身につけているだけで妃殿下の魔力を抑え込み身体の負担を減らす役割を果たすようなのです」


 そうだったのね……。

 けれど、事実を受け止めることで精一杯で、言葉を発することが難いので、代わりに小さく頷くことで意思表示をした。


「……ですが、ただ魔力を抑え込んでいただけでは、生命力を維持することは困難です。まだ詳しく解析をしていないので推測に過ぎませんが、これは『生命力補助』の役割も担っているようです」


 生命力補助? それは、つまるところ言葉通り生命力を補ってくれるということかしら? 

 そうだとしたら、このペンダントは、わたくしにとってなくてはならない物だったのね……。


「左様でしたか……。このペンダントを贈ってくださったお祖母様に、改めて心から感謝を致します」


 呟いたと同時に、ペンダントが眩く光った光景が目前に過った。

 そうだわ。ペンダントが制御装置、かつ生命力補助装置なのだとしたら、どうしてあの時ペンダントが反応し、時間が巻き戻ったのかしら。

 てっきりわたくしは、あれは全てペンダントの秘められた力だと思っていたので、そうでなかったとしたらその理由は見当もつかないわ。


 ──貴方様は、大変豊富な魔力を持ってこの世に生を受けた方なのです。


 先ほどの副魔術師長の言葉が過る。

 ……まさか、時が遡ったのは……、わたくしの膨大な魔力が関係をしている……?

 けれど、わたくしはこれまで魔術の鍛錬をしたことが全くないので、あの時それを使用することができたとは思えないわ。


「……ですが、いくらこのペンダントが優秀な魔宝具といっても、根本的な解決をしなければ、妃殿下のお身体がこの先も魔力の脅威に晒されている事実は変わりません」


 その言葉に、ふと漠然とわたくしの中にあった疑問が湧き上がった。


「そうなのですね。……副魔術師長、一つ質問をしてもよろしいでしょうか」

「はい、もちろんです」

「実は、予てから疑問に思っていたのですが、わたくしの体調に波があるのはどうしてなのでしょうか。というのも、今のように何かをしても然程疲れない時もあれば、少し動いただけでも疲れてしまう時と幼き頃から分かれるのです」

「なるほど。……おそらくそれは、魔力にも波があるからでしょう。魔力学的に、人は強時と弱時とを繰り返してその内包する魔力を身に保つと考えられているのです」

「そうだったのですね」

 

 今まで胸に支えていた何かが、ストンと落ちたような気がした。


「……こちらの魔宝具ですが、気になることがありますので個人的に調査をさせていただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか」

「はい、もちろんです。よろしくお願いします」


 このペンダントを贈っていただいたお祖母様の真意はもうお亡くなりになられているので聞くことができないけれど、お父様になら可能かしら……。


 お父様は威圧的なので苦手意識はあるけれど、ともかく今度、わたくしを魔術師から遠ざけていた理由も含めてお伺いしなければ。そう思い、手のひらに小さく力を込めた。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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