第40話 セリスの真実
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わたくしがアルベルト陛下の隣に腰掛けると、バルケリー卿は綺麗な姿勢で立ち上がりその場で跪いた。
「妃殿下、心よりお礼を申し上げます。貴方様にご配慮をいただいたことで、リビアの容疑を晴らすことができました。誠にありがとうございました」
「バルケリー副魔術師長、頭を上げてください。そもそも副魔術師長の魔術がなければことを成すことは不可能だったのですし、わたくしは殆ど何もしておりませんので」
心からそう思った。わたくしの方こそ、バルケリー卿には感謝をしてもし切れない程なのだから、そのような言葉はわたくしの身には余ると思ったのだ。
「いいえ、決してそのようなことはありません。それに丁度、妃殿下が陛下に対して私が直接動けるようにと直訴をしてくださったと、陛下から伺っていたところだったのですよ」
バルケリー卿は、わたくしの言葉通り頭を上げると、ゆっくりとカウチに腰掛けた。
それ故に卿は、わたくしに対して恩のような感情を抱いてくれたのかしら。
思えばそれは、卿がオリビアのことを強く思ってくれたからこそ、成し得たことでもあるのだし、……そう思うと、何だか微笑ましくなってきたわ。
「確かに、わたくしは陛下に対し提言を致しましたが、それを快く引き受けてくださったのは陛下です」
陛下の方をチラリと見やると、真剣な熱い眼差しをわたくし向けていた。
瞬く間に鼓動が打ち付けてきたので思わず視線を逸らした。頬が熱くなってきたし、このまま陛下の顔を見ていたら会話どころではなくなってしまうわ……。
「……ただ、そうですね。副魔術師長。あなたの言葉はしかと受け取りました」
「有難き幸せにございます」
何とか絞り出した言葉に、バルケリー卿は感慨深そうに頷く。すると、コホンと隣に座る陛下が咳払いをした。
「……それでは、そろそろ本題に移りたいのだが、良いか」
「……ああ、そうだな」
それにしても、どうして卿は陛下に対してこのような言葉遣いなのかしら。直接、卿に聞きたいけれど、今は聞ける雰囲気ではないわね。
そう思いつつ卿の方に視線を向けると、卿は真剣な眼差しをわたくしに対して向けていた。
「妃殿下。単刀直入にお伝え致します。貴方様は、大変豊富な魔力を持ってこの世に生を受けた方なのです」
今、バルケリー卿は何と仰ったのかしら……。
しばらく彼の言葉の意味を解釈しようと思考を働かせるけれど、何故かしら、思考が働かない。
それどころか、急に意識が遠のいて来たようにも感じる……。力も入らなくなって来たから、このままではカウチに座っていられなくなってしまうわ……。
「セリス」
右手に温もりを覚えた。とても温かくて安心のできる温もりで、……その温もりを感じていたら段々落ち着いて来た。
「副魔術師長。……正直なところ、貴方の言葉の真意を図りかねています。……わたくしは幼い頃に、魔術師様から魔力は殆ど無く才能も無いので魔術の鍛錬は必要がないと伝えられ、これまでそのように認識して来ました」
言葉にしたら大分気が楽になって来たわ。けれどバルケリー卿は大きく溜息をついて首を横に振った。
「その魔術師はとんだエセですね。……或いは、誰かにそう伝えるように強要されていたか」
『あら、それは相当……。いいえ、何でもありません。それでは失礼致します』
バルケリー卿の言葉を聞いたら、ルチアの言葉が鮮明に過った。
もしかして、あの時ルチアも同じことを伝えようとしていたのかしら……。
「……もし仮にそうだとして、どうして副魔術師長にはそれがお分かりになるのですか?」
「感じるのです。この国では、大方の魔術の才のあるものは幼き頃から魔術師専門の学園へ通いますが、そこでは他の人間の魔力を感知できるように初等部の頃から訓練をするので、大抵の魔術師は他人の魔力を察知をすることができるのです」
感じるもの……。
「だとしたら、わたくしは……」
正直なところ、幼い頃から魔力が殆ど無いと周囲から言い聞かされて来たので、実は魔力が高かったのだと聞いても、自分のことのように思えなかった。けれど、本当にそうだとしたら……。そうだとしたら……。
「大事はないか?」
陛下が心配そうにわたくしの顔を覗き込んで、そっとハンカチを手渡してくれた。ああ、わたくしはいつの間にか涙を流していたのだわ。
「……ありがとうございます」
何とか振り絞って言葉を返したけれど、涙は後から溢れ出ししばらく止まりそうもない。
「戸惑うのも無理もありません。これまで、正しい知識を妃殿下に伝えることが叶った者はいなかったのですから。……それは私も含めてですが」
それはどこか自嘲するかのような色を含んでいた。その様子を見ていたら、何とも言い難い感情が湧き上がって来る。
「……副魔術師長は、何か事情を知っているのでしょうか」
「……これはお伝えするべきか迷ったのですが、……妃殿下に対して、魔術師が近づいてはならないと殆どの魔術師は下命されているのです」
思わず背筋が凍ったけれど、不思議と思考は働いた。そのような指令を下せるのは、権力を持ち合わせている人物でなければ不可能だわ。……それに加えて、相応の理由も。
恐らくその人物は、この国の宰相であるバレ公爵、……わたくしのお父様だわ。
「父が命令を下していたのですね」
「聡明な妃殿下ですから、すぐに察していただけると思っていました」
バルケリー卿は表情を変えずに、姿勢を正した。
「そのとおりです。閣下は魔術師に対し各協会や組合、魔術学園にまで『娘に近づかないように』と下命されておりました。そのため、これまでわたしたちは妃殿下に真実を伝えたくてもそれができなかったのです」
お父様が命令を下していたと聞いて大方は察したけれど、まさかここまでだったとは……。
けれど、そういう事情があったのなら、わたくしにそれを打ち明けても良いのかしら。
「この事実を打ち明けることができたのは、ひとえに陛下のお引き立てがあったからなのです。御自身のことで、隠されている事実があるのは妃殿下にとってよろしくないことと仰っていただきました。まあ、先程は独断で陛下には相談せずに打ち明けようとも思いましたが、妃殿下のお立場を考えて思い直した次第です」
思わず陛下の方に視線を移した。その澄んだ目元は少しだけ哀愁を帯びているけれど、強く頷かれたので、心が温かくなってくる。
「そなた自身のことだ。秘匿があるのは具合が悪いと判断した。だが、そなたには衝撃が強い事実だったようだ。大事はないだろうか」
陛下のお心遣いが嬉しくて、思わず立ち上がって幸せを噛み締めたくなる。けれどその衝動は何とか抑えて、頷いた。
「ご配慮をいただきまして……ありがとうござい……ます」
涙を堪えるので必死で、途切れ途切れになってしまったけれど、陛下がわたくしの手を更に力強く握ってくれたので、明かされた事実から逃げずに向き合う決心が沸々とついてきた。
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