第39話 オリビアとの歓談
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バルケリー卿から何か大事な要件があるとのことで、この後に時間を取ることになったのだけれど、その前にオリビアと話をさせて欲しいと申し出て、少しの間人払いをしてもらった。
「オリビア、大事はない?」
何と声をかけて良いのか戸惑ったけれど、ともかく今はオリビアの精神状態の把握と彼女と会話をすることが先決ね。
「はい、わたくしは問題ありません。カインの話によれば、わたくしにかけられていた容疑はとりあえずですが晴れ、明日にでも仕事に復帰することができるとのことでしたから」
そう言って笑ったオリビアの表情は、何処か無理をしているように見えた。
やはりまだ、恐ろしさは抜けきっていないのね。それは無理もないわ。
だからわたくしは、震えるオリビアの手をそっと両手で握った。こうすることで、少しでもオリビアの震えが治まってくれれば良いのだけれど……。
「仕事の復帰に関しては、ティアによく伝えておくので何の心配も要らないわ。それに、オリビアは用事があって一時的に実家に戻っていることになっているから、口裏を合わせてもらえれば問題はないはずよ」
「妃殿下、温かいご配慮をいただきまして、ありがとうございます」
オリビアはそっと微笑んだ。握っているその手から温もりも伝わり、震えも少し落ち着いたように感じる。
「それにしても、オリビアはバルケリー卿と随分親しいのね。わたくしの目には恋人同士にしか見えなかったわ」
自分から発言した傍から顔が熱くなってきたけれど、これは言わずにはいられなかった。
それに何故か二人を見ていると、市井で流行っている「恋愛小説」をしばらく読み漁って堪能したい衝動に駆られるのよね……!
「い、いえ、カイン……バルケリー卿とわたくしの関係は、決してそのような甘いものではありません……」
「お互いをファーストネームや愛称で呼び合っている時点で、わたくしの中では相思相愛のようにしか思えないのよね」
ますます顔が熱くなってきた。ああ、微笑ましい……。
「そ、そうでしょうか? ま、まあ、腐れ縁の上、今まで散々振り回されてきましたが、……彼がここに来てくれたことに、心から感謝しています……」
そう言って一筋の涙を流すオリビアに、わたくしは念のために持参しておいた小物入れからハンカチを取り出して、そっと手渡した。
ここには侍女を連れて来るわけには行かなかったから、小物入れを持参してきていて正解だったわ。
「ありがとうございます。……ただ、妃殿下にこのようなお心遣いを賜り、申し訳が立たない心持ちです」
「どうか気にしないでね。……それよりも、貴方の潔白が証明されて本当によかった。……ただ」
「……はい」
オリビアはハンカチをテーブル膝の上に置くと、真剣な眼差しでわたくしの方に視線を向けた。
「あまり考えたくはありませんが、あの場にいた妃殿下付きの侍女の誰かが、白湯に何かしらの魔術薬を混入させた可能性が高いのかもしれません」
「……あの場にいたのは、貴方以外だとマリアとルイーズだったわよね。どちらかが、混入させたのかしら……」
それはできれば、あまり考えたくはない。
ただ、わたくしが飲んだ魔術薬がどういった物だったのかはまだ分からないけれど、……初夜の場で陛下に対して、あの無性に湧き上がって来た黒い感情が関係があるのなら、その薬はもしかすると……。
目的はやはり陛下の言っていたとおり、初夜の儀を失敗に終わらせることで、わたくしの信用を失墜させるため、なのかしら……。
「ともかく、これからバルケリー卿に陛下と共にお会いして、お話を聞いてくるわね」
「バルケリー卿とですか?」
「ええ。何でも卿が折り入ってわたくしに何かの話があるそうなの」
「何かの……。そうです、妃殿下。良い機会なので、その場で予てからのご用件もお伝えしたら如何でしょうか」
予てからの用件……。そうだわ、ペンダントのことね! この短期間で様々なことが起こったから、すっかり失念していたわ。
「そうね。ありがとう」
「これで、妃殿下の気がかりが解決すれば良いのですが」
「ええ、そうね。……それではそろそろ時間なのでお暇するわね」
わたくしが椅子から立ち上がる前に、オリビアはすぐに立ち上がってわたくしが腰掛けている椅子を引いてくれた。この心遣いが嬉しかった。
「妃殿下、本当にありがとうございました」
「今はゆっくり身体を休めて。また明日、貴方がわたくしの部屋に来てくれるのを待っているわ」
「はい、必ず」
強く頷くオリビアを安堵した心持ちで見やった後、わたくしは退室した。
後ろ髪を引かれる思いだけれど、バルケリー卿との約束を反故にするわけにはいかないわ。
廊下に出ると、近衛騎士達と共に廊下を真っ直ぐと進み、その先に見える扉の前で立ち止まる。
「陛下、副魔術師長様、妃殿下をご案内致しました」
「……ご苦労であった。入室を許可する」
その言葉に近衛騎士の一人リーゼ卿が頷き、静かに扉を開いたので、わたくしはゆっくりと入室した。
すると、目前には二人掛けのカウチが二台置かれていて、既に陛下とバルケリー卿はそれぞれのカウチに腰掛けている。どうやらここは応接間のようね。
「子女と話は済んだか? もうしばらく時間を設けても良いのだが」
「お心遣い痛み入ります。ですが、充分に話すことはできましたので、このまま本題に入っていただいて結構です。大変お待たせを致しました」
アルベルト陛下のお言葉がとても優しい……。
まだ完全には慣れないけれど、それでもその心遣いに大分馴染んできている自分もいる。
その良不良の判断はまだつけられないけれど、口元が思わず綻んだから、わたくしはきっと今とても嬉しいのね。
そう思い、自然と陛下の座る向かって奥に置かれたカウチに腰掛けた。
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