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閑話 執務室にて ⭐︎

ご覧いただき、ありがとうございます。

今話は三人称となります。

 時は遡り、アルベルトとセリスが婚儀後、初めて二人で晩餐を共にした日から五日が過ぎた日の昼頃。


 現在アルベルトは、自身の執務室で政務長官であるモルガン・シーラーと、ラン王国における魔石鉱山の現状についての打ち合わせを行っている最中であった。

 モルガンは栗色の短い髪と切れ長の目が印象的な青年である。


「……よって、我が国の魔石の産出量は安定していると言えるでしょう」

「そうか。ならば国内での消費分は問題はないな」

「はい。加えて他国への輸出分に関しましても供給量を確保できる見通しです」

「そうか。……ならばひとまず安堵した。……だが」


 それ以上の旨は口外しなかったが、モルガンはすぐに察したのか懐から懐中時計を取り出すと、そのダイヤルを回した。


 ──すると、たちまち発光し、二人の周囲に目視不可の膜が張られスッと消えていく。


「これで、滅多なことでは我々の会話は外部に漏れないでしょう」

「ああ」


 先程、モルガンが取り出した懐中時計は「魔宝具(まほうぐ)」であり、それは対象の人物らの会話の盗聴を防ぐ効果があるのだが、その効果は十分ほどで切れてしまうのだった。


「陛下、手短にお伝えいたします。隣国ドーカルの動きが芳しくありません」

「やはりそうか」

「はい。ドーカル王国から間者が複数潜んでおり、その何名かを捕らえられたのですが、彼らは直接国の中枢に指示を与えられている訳ではないので、中々司令塔を炙り出せないでおります」


 アルベルトは小さく頷くと、既に他の筋から報告が上がっている情報と照らし合わせていく。


「どうやら、我が国の内にも間者が入り込んでいるようだな」


 眼光を光らせるアルベルトに対して、モルガンは背筋を凍らせたが、意を決して頷いた。


「はい。私供の調査では、ビュッフェ家が第一に疑わしいと睨んでいます」

「ビュッフェ家か」


 アルベルトは思わず動きを止め、小さく息を吐いた。


「ビュッフェ侯爵家の長女カーラ嬢が、約三ヶ月後に妃殿下付きの侍女となる予定ですが、自身の子女をこの時期に王宮に潜らせるということは、おそらく……」

「魔石や魔宝具に関する、機密情報を探らせる為だろう」

「はい。……ですが、下手に手を出せば言いがかりをつけられたと、国内の貴族派らを刺激することになりかねません。どうにか、婚儀後すぐに妃殿下付きの侍女にと言うあちらの希望を阻止することはできましたが……。とは言え、こちらも策を立てないわけにはいきませんが、あまりその方法があるとも言い難いのが現状です」

「……王妃に危害が加わるようなことは、決してなきようにしなければならない」


 珍しくアルベルトが拳に力を入れているので、無表情に見えて動揺をしているのだとモルガンは思った。


「恐れながら陛下。妃殿下に前もってこのことをお伝えしてはいかがでしょうか」

「……駄目だ」

「それは、なぜでしょうか」

「前もって王妃に知らせたことにより、ビュッフェ侯爵令嬢に対し王妃が警戒をするようになるやもしれない。そうなれば、不自然に思われ反対に身が危うくなる可能性もある」


 そうは言っても、間者が王妃の侍女として紛れ込んでいる状況は芳しくないとモルガンは思ったが、対抗策を中々見出せずにいた。


「そもそも、魔石や魔宝具に関する情報は我が国の機密情報の中でも最上位だ。その情報を不正に入手したともなれば、極刑が下されることになる」

「やはり、間者をあぶり出すのですね」

「ああ。そのためなら、たとえ私自身が身を削っても構わない」

「陛下。滅多なことは……」


 発言なされなきよう、と小さく呟いたあとモルガンは黙した。

 目前に覚悟を決めたような表情をしているアルベルトがいたからだろうか。


「ともかく、王妃に危害が加わるようなことを避けるためにも、こちらも充分対策をしておく必要があるな」

「仰るとおりでございます。それでは、早速今から秘密裏にことを進めますがよろしいでしょうか」

「ああ、くれぐれも頼む」

「かしこまりました」


 モルガンが頷くとほぼ同時に、再び白光が二人を包み込んだ。魔宝具の効果が切れたのだ。

 それに伴い、アルベルトは話題を変更することにした。


「ときに、王妃がそろそろ公務を始めたいと言っておってな。ついては、王妃の体調に合わせた公務を調整してくれないか」

「妃殿下がですか?」


 途端にモルガンの表情が訝しげに歪んだので、アルベルトは不快に感じる。


「何か問題があるのか」

「恐れながら、妃殿下は晩餐会後にお倒れになられてからあまり日は経ってはおりません。まだ御公務をなさるのは時期尚早かと」

「誠に理由はそれだけか?」


 見透かされたと思ったのか、モルガンは肩の力を抜いた。


「恐れながら、妃殿下は陛下との初夜の儀を行っておりません。まずはそれがお済みになられてから御公務に励まれたらいかがでしょう」

「……初夜の儀か」


 アルベルトは再び小さく息を吐き、今度は軽く目も瞑った。


「何か、気乗りされないご理由があるのですか?」

「……そう言うわけではないのだが。了承した。心得ておこう」

「はい。……ただ、三日後に王都の大広場で炊き出しがありますので、その規模でしたら恐らく今の状況でもご参加いただけるかと存じます」

「そうか。ならば後ほど、詳細を王妃に説明しておくように」

「かしこまりました」


 モルガンはそのまま一礼をすると、退室をするべく扉へと向かった。


「……シーラー卿」

「はい」


 モルガンは動きを止め、向きをアルベルトの方へと戻し執務机の方へと寄った。


「……提案なのだが、来月の頭に行われる王宮魔術師長の就任式典における開会の儀での祝辞を、本来ならば私が行う予定だったが、王妃に改めるのは如何(いかが)か」

「妃殿下にですか?」

「ああ。……王妃は先の婚儀の晩餐の際では、堂々とロナ王国の使節とロナ語で会話をしていた。本人も強く公務を行うことを希望しているので提案をしたのだが、検討してはくれぬか」

「……そうですね。祝辞の文は既にこちらで用意したものがありますし、妃殿下にとって婚儀後初めての公式のご行事ですから私も最適と考えます」

「それではその通り進めてくれ」

「かしこまりました」


 モルガンは一礼すると、速やかに退室していく。

 それを確認すると、アルベルトは深く執務椅子に腰掛け、先程初夜の儀の件を持ち出したモルガンの言葉が過り思案した。


 ──まだ少年だった頃、初めてセリスと出会ったあの庭園での出来事が思い浮かんだ。


(セリスは幼き頃から虚弱体質ゆえ、初夜の儀は遅らせた方がよいと判断していたが、……実のところ、近頃の彼女を見ていると、胸が熱くなる)


 その後、アルベルトは便箋を取り出し言伝を書き始めたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。

次話から一人称に戻ります。


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