第25話 ルチアとの出会い
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「ともかく、貴方たちには彼女を近くの教会に連れて行ってもらいます。その間にお医者様を手配しましょう」
「御意」
わたくしの提案にフリト卿は頷き、素早く他の近衛騎士と共にデービス夫人の近くまで移動をした。
更に、二人の近衛騎士が彼女の両の肩を抱え、様子を確認しながらゆっくりと教会の入り口の方へと移動をしていく。
そして、すでに修道女が教会内の看護室の用意をしておいてくれていたので、滞りなく彼女を寝台に寝かせることができた。
先程、わたくしの近衛騎士と侍女が教会で管理をしている乗用馬でお医者様を呼びに行ったから、これで少しは不安を拭えることができただろうか。
「うう……。妃殿下、申し訳……ありません……」
「何も心配しなくてよいですからね。何よりも、貴方ご自身のお身体が大事なのですから」
「妃殿下……」
他にも何かを言いたそうだけれど、代わりに涙を流して目を閉じた。わたくしは、そっと彼女の手を握る。
目前で苦しんでいる彼女を見ていると、何もできない自分が歯痒く感じる。今のわたくしにも、何かできることはないかしら。
「ううう……!」
「大丈夫ですか⁉︎」
突然、激しく苦しみ始めたので、慌てて付近で待機をしている侍女と修道女に声をかけた。
皆で、悲痛な表情を浮かべる夫人の傍に近寄り様子を窺い、何かできることがないかと問いかけたけれど、必要な処置はお医者様でなければ行うことができないと修道女に助言を受けた。
なので、桶に人肌に温めた湯を張り布を絞って夫人額の汗を拭うと、後は彼女の手をそっと握って神に祈るのみだった。
「……私の所有する魔宝具が、彼女に使用することができれば良いのですが……」
フリト卿がポツリと呟いた言葉が、とても気にかかる。
「フリト卿、その魔宝具とはどういった物なのですか?」
「はい。実はこれは『治癒魔術』を使用することができる物なのですが、所有者である私のみの使用に限られるのです」
「所有者にしか……」
何故かその言葉を聞くと、直感的に以前に街の図書館でたまたま目にした魔術書の一文が脳裏に過った。確かその一文は……。
「フリト卿。今から、他の近衛騎士や侍女たちに魔術師が広場にいないか捜索をし、本人の承諾を得られたらこちらにお連れして来てくれないかしら」
「魔術師をですか?」
「はい。もちろん、身分証や持ち物検査等は万全にし、こちらでことが終われば報酬も渡してください。上手くすれば、デービス夫人の体調を安定させることができるかもしれません」
「かしこまりました。すぐに手配を致します」
「よろしく頼みましたね」
「御意」
本来ならば、王宮魔術師に依頼をした方が安全性も確保できるし確実ではあるのだけれど、ここから王宮までは馬車で三十分以上かかるので、一刻の猶予もない今は適切ではないと判断をしたのだ。
それから、フリト卿は速やかに室外で護衛をしている近衛騎士に詳細を伝え、皆速やかに行動をしてくれた。加えて報酬に関しては、わたくしの私財から充てられる手筈にした。
そして、一時を程た頃に室内にノックの音が響き渡った。
「妃殿下。こちらの要請に応じた魔術師を連れて参りました。身分証の確認や予め持ち物調査等は済んでおります」
「ご苦労様でした。早速入室していただいてください」
「かしこまりました」
そして扉が開かれ、慎重な足取りで一人の女性がこちらの方へ歩みを進めた。
彼女は、亜麻色の髪を綺麗に一つにまとめた色白の女性で、白のブラウスにベージュのスカートを穿いている。
簡略的に頭を下げてから無言でベッドに横たわる女性を観察すると、フリト卿の方に視線を移し再びわたくしの方に視線を戻した。
「王妃殿下に、お初にお目にかかります。私は魔術師のルチアと申します。女性の状況が芳しくないように見受けられますので、手短にご進言致します」
中々言葉には言い表せないけれど、彼女からは不思議な気配を感じるし、……何故だか目が離せないわ。
「こちらの要請に応じていただき、誠にありがとうございます。よろしくお願いしますね」
「はい。失礼ですが、騎士様の剣の柄に装着されている魔宝具ですが、そちらは『治癒魔術』系統の物と見受けられます」
「……如何にも、その通りだが」
フリト卿は小さく頷き、わたくしの方に視線を合わせた。
「実は、そのことで魔術師の方を探していたのです。以前目にした書物には、『魔術師の中には魔宝具の流れを変えることができる』とありましたので、それができるかどうかを確かめていただき、可能であれば実行していただきたいのです。もちろん、報酬はお支払い致しますので」
「報酬は結構ですが、分かりました。早速確認しますので、もし差し支えがなければ騎士様の魔宝具を利用させてもらいたいのですがよろしいですか?」
「ああ、構わない」
そしてルチアは、すぐにフリト卿が差し出した中剣を手に取るとその柄に取り付けられた魔石を注意深く確認し始めた。
ルチアの澄んだ濃褐色の瞳を見ていたら、どうにも吸い込まれそうになるような、……不思議な感覚だわ。
「とても純度の高い魔石です。これなら問題ないですね。女性の様子も芳しくないようですし、始めてもよいですか?」
「もちろんです、よろしくお願いします」
「はい」
ルチアは頷くと、目を閉じて掌を夫人に向けて翳したのだった。
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