第24話 緊急事態
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とはいえ、これ以上この場にいては周囲に迷惑をかけてしまう可能性があるので、王宮に戻ろうと思い立つと、ふと声をかけてくれた女性の身体が気にかかった。
お腹が大きく膨らんでいるように見えるので、もしかして身重の方なのかしら。長く隣にいたけれど、よく見ないと気がつかないことなのかもしれない。
「あの、慶事なのですね。おめでとうございます」
「い、いえ。そんな……」
女性は、目を逸らして気まずそうにされている。
「ひょっとして違いましたか?」
「いえ! 違いません。そうです、もうすぐ産まれる予定なんですよ。祝福のお言葉をありがとうございます!」
今度は満面の笑みを見せてくれたわ。よかった。
最初は言いにくそうにしていたけれど、……もしかして、わたくしは陛下と結婚したばかりなので、子を成すことを強く望んでると考えて気を遣ってくれているのかしら。
「わたくしのことは、お気になさらないでくださいね。本日は炊き出しにご参加いただき、ありがとうございます」
「……温かいお心遣いをありがとうございます!」
「お身体は大丈夫ですか?」
「ええ。身体は重いですけど随分慣れましたし、もうすぐ産まれる予定なので。それに、子供に会えるのが楽しみで少しくらい身体が辛くても平気なんです」
そう言って笑ってくれた。とても素敵な笑顔だわ。
「ただ、妊娠初期の頃は悪阻が酷かったですし、近頃は慣れたとはいえ、やはり歩くだけでも中々ままならないこともあります。それに出産後は中々こういった活動も行えませんし、なので今のうちに行っておこうと思って今日こちらに参加したんです」
とても高い志だわ。虚弱体質で中々ままならない自分自身が歯痒くなる。
わたくしは、自分を卑下しているのかしら……。
けれど、実際にそうなのだから、その事実ときちんと向かい合わなければ。
「とても立派な志です。あなたのような民がいることを誇りに思います」
「そのようなお言葉をかけていただいて、光栄です」
涙ぐむ彼女に、何故か罪悪感を抱きながらも別れの挨拶を交わすと、その場から離れた。
そうよね。身重の身体では中々ままならないこともあるわよね。
……もし。いえ、これはただの仮定で実際にそうなる可能性は低いとしても、……今身籠ったら……、これから貶めてくるであろうカーラに立ち向かうことなどできるのかしら。
……そうよ。それにもし無事に子供が産まれても、出産後間もなくは普段通りにはいかないだろうし、第一子供が狙われてしまったら……。
そう巡らせていると、気分が落ち込み目眩がしてきた。
ここで蹲って誰かの手を煩わせるわけにもいかないし、今はともかく王宮に戻って考えをまとめましょう。
となれば、ケリー夫人にご挨拶をしてから戻りたいのだけれど、どこにいるのかしら。
「大丈夫ですか⁉︎」
夫人を探していたら、不意に背後から叫び声が聞こえたので、反射的にその声の方に身体を向ける。
声の元を辿ってみると、先程までわたくしが参加をしていた炊き出しを行っていた場所だった。
そして咄嗟に小走りで向かってみると、先程の身重の女性がその場で蹲っていた。
「どうしましたか?」
「……お腹が痛くて……。まだ予定日には一ヶ月程早いのですが……」
大変、それはいけないわ。けれど、どうすれば……。そうだわ!
「フリト卿。この近くに療院はあったかしら」
「恐れながら、妃殿下。この辺りには専門の医者のいる療院はなかったはずです」
「馬車でしばらく行った先にはあるのですが」
心配そうな表情を浮かべたケリー夫人が教えてくれた。加えて、倒れた女性の名前がデービス夫人ということも教えてくれたわ。
「そう。でしたら、彼女を今すぐわたくしの馬車に乗せて差し上げて。療院にお連れしましょう」
「妃殿下。お言葉ですが、妃殿下の馬車に乗車することができるのは、陛下を始めごく僅かな者だけです。ましてや一国民を乗せることなどあってはならないことです」
何を……言っているの? ……いえ。フリト卿の言葉は正しいわ。
もしデービス夫人が助かっても、理不尽なことに後に咎を受けるのは彼女なのだ。
わたくしの権限でそれを押し通せればよいのだけれど、王妃に即位したばかりの実績の無いわたくしでは、歯痒いけれど、それも現状では難儀なことだわ。
けれど、だったらどうすれば……。そうだわ。早速フリト卿に声を掛けなければ。
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