第22話 カーラの企み ⭐︎
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今話は三人称となります。
セリスがアルベルトと晩餐を共にした同日の昼頃。
新緑が茂る街路樹が印象的な王都の中央部に、貴族のタウンハウスが立ち並ぶエリアがある。
その中でも一際目を引く邸宅があり、他の貴族の邸宅と比べると宮殿のようなそれは、群を抜いた豪華さであった。
というのも、それはその邸宅が著名な建築家が設計をし豊富な大理石を使用して建造されているからであり、外観からその家の財力を窺い知ることができる。
──その邸宅は、ビュッフェ侯爵家のタウンハウスであった。
その邸宅の二階には、ビュッフェ侯爵の長女であるカーラの私室があり、室内の家具は上質の木製家具で統一されている。
そして、カーラは青藍のデイドレスを身につけており、カウチに綺麗に腰掛け新聞を開き、一面の記事を読んでいた。
「……何故、アルベルト様のお隣に並ぶのがわたくしではなく、あの女なのかしら」
呟き、新聞の一面に大きく載っている魔宝具により撮影された姿絵を、しげしげと眺めた。
その姿絵は国民へのお披露目時のものであり、王妃セリスが国王アルベルトと並び笑顔で国民に向けて手を振っている様子が描かれている。
「こんな物、こうして差し上げましょう」
カーラが腕を振りかざすと、たちまち新聞は宙に浮かんだ。
「燃え上がりなさい」
そして更に腕を振り下ろすと、次の瞬間には新聞は見る影もなく消えて無くなった。
ただ、微かに燃えカスが絨毯の上に散っているので、どうやらこれは強力な炎で一瞬にして燃え尽きた物のようである。
「そなたの魔術は、相変わらず見事だ」
「お父様」
振り返ると、金糸や銀糸で華美な刺繍が施されたウエストコートを身につけた小太りの白髪の男性が立っており、悠々とした足取りでカーラの側へと近づいた。カーラの父親であるビュッフェ侯爵である。
どうやら、何度かノックをしたのだが、応答がなかったために入室したようだ。
「高温の炎で焼かれたために、殆ど跡形も無く消えたのだな」
「はい。お父様のご教授のおかげですわ」
「……燃やしたのは王妃の姿絵のみのようだが」
「ええ、もちろん」
カーラの手元には、アルベルトの姿のみが残った姿絵が握られていた。
「我が家門の中でも、そなたほど魔術の操作が巧みな者もそういないだろうな。……ときに、王妃を貶める算段はできているのであろうな」
「ええ、それはもう魔術による数多の手段を考えております。全てはあの女からアルベルト様を救い出すためですわ」
妖艶な笑みを浮かべ、ふふ、と笑みを漏らす。
その様子を侯爵は少々冷笑しているように見やるが、小さく頷いた。
「……王妃自身が我々にとっての『脅威』となり得ることは、予想外だったのだ。王妃には気の毒だが、我々の目的のためには消えてもらわねばならない」
「ええ。……あの女は大した努力もせずに、幼き頃からアルベルト様の婚約者だっただけではなく、あのような力を持ち合わせているのですから。……なんて目障りなのでしょう」
軽やかな動作で侯爵の方に改めて向き合い、目を細めた。
「ですが、あと三ヶ月も待たなければならないとは、この胸はもどかしさで満たされてどうにかなりそうです」
「申し訳ないがそれは堪えて欲しい。他の同士も潜伏しておることだしな。……ところで、そなたの婚約者のガード伯爵だが」
「あら、特に交流を行わなくて結構ですわ」
侯爵は小さくため息を吐いた。
「そうもいかないだろう。ガード伯爵とは幼き頃から婚約をしており、そなたも十八となったのだから、そろそろ婚儀を行わなくてはならない。ガード家とは古き時代より我が家門とは深い繋がりがあり、これは非常に重要な契りなのだ」
侯爵は室内の卓に手紙を置くと、扉へと向かった。
「一週間後、ガード伯爵がそなたに面会をするために我が家に訪問をするそうだ。くれぐれも無礼のなきように」
「……承知しました」
カーラが軽やかな辞儀をすると、侯爵は退室して行った。それを見送ると、無造作に手紙を手にし長椅子に腰掛ける。
どうやら侯爵は、娘が婚約者からの手紙を中々受け取らないので、見兼ねて中身を確認した上で直接私室に赴いたようである。
「……あのような、自分の力を過信している小者のことなど興味ありませんのに。婚約とは常々愚鈍なものですわね」
すでに封の開けられた封筒から便箋を取り出し書面を確認すると、大きくため息を吐いて便箋を封筒にしまい、卓の上に置いた。
「わたくしの心は幼き頃からアルベルト様にだけ向いていますわ。……尤も、その想いは残念ながら届いたことはないけれど」
カーラはそっと哀愁を含むような笑みを浮かべ、先ほど片方を燃やした姿絵を手に持ち眺める。
すると、ふと婚儀の際アルベルトがセリスの額に口付けた場面や、晩餐会の際にアルベルトがセリスに対して一助した言葉を思い出し、思わず姿絵を握り潰しそうになった。
「……あの女はしばらく寝込んでいるようだけど、直に初夜の儀を迎えるのでしょう。忌々しい」
言ってから思案し、何かに思い当たる。
「……そうだわ。ふふ、そうすればきっとアルベルト様もあの女に失望をするはず」
口角を突き上げ便箋と羽根ペンを取り出すと、何かを綴り始めたのだった。
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