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【書籍化・コミカライズ】二度目の人生では、お飾り王妃になりません!  作者: 清川和泉
第3章 ペンダントの謎

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第21話 アルベルトとの晩餐

ご覧いただき、ありがとうございます。

「……そなたと対面をするのは、久方ぶりであるな」

「陛下におかれましては、毎朝の贈花、及び書簡をいただき恐悦至極に存じます」

「……ああ」


 アルベルト陛下は、無表情で目前の席でポタージュスープを綺麗な動作で(すく)って口に含んだ。

 正直なところ、非常に生きた心地がしない思いで眺めるけれど、視線が合わないようにするためにすぐさまわたくしもスープを口に含む。

 

 ああ、トウキビの新鮮で豊かな味が広がってとても幸せ……。

 食事は美味しいし、晩餐自体は楽しいのだけれど、……問題は一緒に食事を摂っているのが陛下だということね……。


 晩餐の招待を受けたあの後、すぐさまその場にいた侍女たちに晩餐で着用をするドレスの相談をした結果、病み上がりなのもあるので、あまり飾り立てないベージュのシンプルなイブニングドレスを選んだ。

 侍女たちは気合を入れて準備に当たってくれたのだけれど、始終わたくしの心は暗雲が立ち込めているようだった。


 ……正面に座る陛下の方をチラリと見やる。

 黒の宮廷服を着用したお姿は、とても凛々しくて素敵ね……。

 

 いけない。わたくしは何を考えているのだろう。

 陛下はわたくしを見限り裏切った憎い相手なのに、心が揺らぐことはあってはならないことよ。

 毎朝贈花をしていただいていたから、情が移ってしまっているのかもしれないわ。正気を保たなければ。 

 それに、あの件も相談をしなければならないし……。

 

 どう切り出してよいものか考えあぐねていたら、食事は順調に進み、既にデザートの後の紅茶の品目となっていた。


「時にそなたは」

「……はい」


 陛下はティーカップをソーサーに置くと、会話を切り出した。

 ……何かしら。とても緊張するわ。


「医者からは快癒したとの報告があったが、実のところ体調はどうなのだ。まだ不安なところがあれば無理をせず、公務のことは気にせず療養に努めてもらいたい」


 …………。


 お、思わず自分の耳を疑ってしまった……。

 あの陛下が、公務のことはよいからわたくしの身を案じて療養することをお勧めになられた……?

 し、信じられない。前回の生での陛下はわたくしの体調を気遣うこともなかったし、そもそも、公務を休んで療養するという発想が陛下の中にあること自体が驚愕ね……。


 お言葉自体は嬉しいけれど、目の前に座っているのは本当にわたくしの知る陛下なのか、つい疑ってしまう。

 そもそも前回は、陛下はいつもお忙しくて、結婚当初から共に晩餐など片手で数えられるほどしかしていなかったのだ。


「……陛下のお心遣いに痛み入ります。ですが、自身の役目を常に意識するためにも、少しずつできる範囲で公務を行って参りたいと思っております」


 これは本心だった。

 お披露目の際に目にした国民の顔が目前に浮かび心が揺らぐ。

 前回のわたくしは、果たして王妃として民の役に立つことができていたのだろうか。

 

 そもそも、わたくしは婚儀から半年を過ぎたところで捕縛され牢の中に入れらてしまったので、民のために時間を使うどころか、王妃として動ける貴重な時間を無駄にしてしまったのだ。

 ……再び捕らえられてしまったら、民のために動けないどころか今度こそは……。


 そう思うと非常に不甲斐なく、恐ろしいし歯痒いわ。今回は自分の時間を大切に使いたい。そうよ、そのためには……。


「陛下。折り入ってご相談があるのです」

「何か足らぬものがあるのなら、遠慮せず侍女頭に申しつけると良い。そなたに割り当てられた予算があるのだからな」

「いえ、衣服や調度品等は、わたくしには身に余るほど充分に足りておりますので」

「そうか。では何だろうか」


 表情を変えることなく凝視されるので、とても切り出しづらいわね……。


「実は、わたくしのペンダントのことでご相談をさせていただきたいのです」

「ペンダント?」

「はい」


 前もって外しておいたペンダントを陛下に託すために、近くに控えている給仕を右手を上げて呼び、それを託して手渡してもらった。


「実は、このペンダントは幼き頃にわたくしの祖母から贈っていただいた物なのです。中々形容はし難いのですが、最近になり何か不思議な力を感じるといいますか、普通のペンダントとは思えないのです」

「……不思議な力……か」


 陛下はペンダントを手に取ると、しばらく眺めた後に触れたりしてそれを確認していたけれど、やがて再び給仕を介してわたくしに返してくれた。


「残念ながら、私には殆ど魔術の心得が無いので分かりかねるが、要求というのはこのペンダントを調査して欲しいということで相違ないか?」

「はい、その通りです」


 察しがよくて、とてもありがたいわ。けれど、どうにも落ち着かないのは何故かしらね……。

 ただ、陛下は魔術の心得はないと仰られたけれど、反対に武術の心得がおありで陛下の腕前は見事な物だったわ。

 

 結婚前の妃教育の合間や前回の生での結婚後に、陛下の訓練するお姿や騎士たちとの模擬試合での様子はよく見ていたけれど、陛下の剣筋と言ったらとても力強くてキリッとしていて素敵で……。

 いけない、今は陛下とのお話の途中だったわね。

 それにしてもわたくしは気を抜くと、陛下に対して心を許してしまいそうになる傾向にあるわね……。


「……できれば、我が王国の王宮魔術師に要請を願いたいのですが」

「そうだな。……ならば私の方で然るべき人物に調査を依頼しよう」

 

 ここで、わたくしが魔術師を指定するのはとても具合が悪いし、おそらく陛下がご指定をされる方なので信用における人物だと思うのだけれど、……何故かしら。どうにもバルケリー卿でなければならないような気がする。

 これは、オリビアの卿を語る際に見せる穏和な表情から感じた、わたくしの直感のようなものだと思う。

 ……陛下に何か誤解をされても具合が悪いし、ここは正直に事情を打ち明けた方がよいわね。


「実は、わたくしの予てからの侍女のオリビア・リバーと同郷の、カイン・バルケリー次期王宮魔術師長に調査を依頼したいのです」

「カイン・バルケリー?」


 急に目付きが鋭くなって来たので、思わず視線を逸らした。


「何故彼を選出したのか、その理由を問いたいのだが」


 オリビアを巻き込むのは少々気は引けるけれど……。


「卿の為人(ひととなり)をオリビアから伝聞し、卿は信用のおける人物だと判断したのです。正直に申し上げますと、わたくし自身は心得どころか、魔術のこと自体あまり詳しくありませんので、せめて、わたくし自身が信用している人物と親交のある人物ならばと思案をしたのです」

「では、リバー子女とバルケリー卿は元々の知り合いなのか。彼に婚約者はいなかった筈だが」


 そういうことも把握なされているのね。純粋に驚いたわ。

 ……いいえ、そもそも卿は直王宮魔術師長に就任する人物なのだからから、元より様々な噂が耳に入りやすいだろうし、陛下も情報を集めているのかもしれないわね。


「婚約者ではないようですが、頻繁に手紙のやり取りを行なっているそうですし、交流はあるようですよ」

「……そうか。ならば卿には私から説明を行う手筈を整えておこう。公式の面会ではないが、そうだな、リバー子女も必ず同席させる様に」


 承諾……なさってくださった……のかしら?


「……ありがとうございます」

「加えて、公務の件も政務官らや他の者と相談をしておこう。くれぐれも無理の無い範囲で行うように」

「……重ね重ね、ありがとうございます」


 今日の陛下は、やけにこちらの事情を汲んでくださるけれど、どうしたのかしら……。

 そう思い陛下の方を向くと思わず視線が合ったけれど、その表情は少しだけ柔らかく見えたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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