第17話 確認作業
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わたくしは、鍵付きの手帳を開いて「確認作業」を始めることにした。
そもそも、なぜわたくしは刑の執行から一年も時を遡ったのかしら。
……それに、これまで接して来た人たちを見て察するに、どうやら時を遡って来たのはわたくしだけのようなのだ。
あの得体の知れないカーラでさえ、前回の生での記憶を持っていないようだし、……そうだとすると、様々な情報や知識が必要になってくるわね。
ともかく、今は現状で把握をしていることを書きだしていかなくては。
まず、わたくしが捕縛された上に、極刑と処されることになってしまった件だけれど、……駄目だわ。
思い出そうとすると吐き気を覚えて、それどころではなくなってしまう……。
この状態では芳しくないので、ともかく別のことから思案をしていかなくては。
これから、わたくしは王妃として公務に当たることになるのだけれど、公な施策の策定は陛下や閣僚たちの間で行われるので、それらはわたくしが関与ができることではなかった。
ただし、歴代の王妃の中には積極的に施策や政策に関わり、議会にも参加をなさっていた方もいらしたので、通常は男性のみが許されている議会でも例外はあるようね。
とはいえ、わたくしはアルベルト陛下からほとんどど政治や政策に関して意見を求められたことも発することを許されたことはないので、そういったことはほとんど与り知らぬところだったのよね……。
尤も、ラン王国の議会は一月から始まって通常であればこの時期の六月に終わり、今年も例年通りすでに閉会しているはずだわ。
だからこそ、わたくしたちの婚儀が昨日執り行われたという事情もあるのだ。
とりわけ、わたくしが関わっていた公務は、慰問や王都の広場での炊き出しといった慈善活動の参加が主だった。
ただ、その公務も体調不良により参加ができないことも多く、そのため周囲から「お飾り王妃」だなんて揶揄されてしまったのだろうか。
実のところ、刑の前日にカーラからそう言われるもっと以前から、王族派ではない一部の貴族たちにお飾り王妃と囁かれ笑われたことが何度もあった。
思い返してみると、あの頃のわたくしはそう言われてしまうのは公務に中途半端にしか参加ができないことも原因だと考えたけれど、陛下との間に子を授からないことも原因だと思っていた。
実際、王妃として世継ぎを産むことは大きな役目の一つでもあるから。
それもあって、以前は強く子を授かりたいと願ったけれど、……今は……。
──脳裏にカーラが陛下の腕にその腕を絡ませている場面が過り、再び吐き気を覚えて何も考えられなくなった。
……そうね。
きっと今はわたくしの方にも抵抗があるし、そもそも陛下自身がわたくしをご自身の私室に招くことも前回と同様ほとんどないだろうから、そういったこと自体もほとんど行われないのでしょうね。
ただ陛下も世継ぎは必要でしょうから、全く招かれないということはないのだろうけれど……。
大体、たとえ子を成すことでお飾り王妃と呼ばれなくなるのだとしても、そもそも子はそんな身勝手な思惑のために授かるものじゃないわ。命を奪われる者の立場になって身をもって理解をした。
わたくしは周囲の意見に左右されて、いつの間にかそのような考えを持ってしまっていたのね。
世継ぎを産むことが何よりも先決だということは、幼き頃からずっと言い聞かせてこられたことではあるのだけれど、わたくしは人の言葉に流されるばかりで、果たして他に自分にできることを模索することができていたのかしら。
非常に悔やまれる……。
……さて。改めて貶められることになった事件のことを思い返すことにしましょう。
ええ、先ほどよりは気分が悪くならなくなったわ。
『前王妃が、私欲を抑えきれず臣下と不貞をはたらき、共謀の上、魔術に関する機密情報を隣国ドーカルに売ったことは我が国の大きな汚点です』
全く身に覚えがなかった。
恥を晒すようだけれど、前回ではドーカル王国の使節とすら、まともに会話をしたことがなかったのだ。
第一、魔術の機密情報自体は、王宮魔術師が王宮の敷地内に建てられた魔術師塔で厳重に管理をしていて、例え王妃といえども簡単に塔に出入りをすることはできないずだわ。
それなのに、どうしてあのような罪を着せられてしまったのだろう。
いくら考えても思いもつかない。何か糸口はないかしら……。
『周囲に決して一分の隙も見せるな。我々を狙っている者が、いつどこにいるのか分からないのだからな』
瞬間、陛下の言葉が過った。
隙……狙っている者……。そうだわ。あくまでも仮定なのだけれど、カーラ自身が機密情報を持ち出していて、その事実の隠蔽のためにわたくしを利用した……とか。
それが事実だとしたらなんと悍ましいのかしら……。
カーラが犯した罪を不当に被ってしまっただけではなく、極刑にまで処されてしまったのだから。
……けれど、だとしたらカーラはどのようにわたくしにその罪を着せたのだろうか。
カーラはわたくしの侍女だったから、わたくしの情報を持ち出したり反対に何かを持ち込むことも可能だった……?
それにしたって王宮の安全対策は万全で、わたくしの所持品一つ室外に持ち出そうとしたら、警備系統の魔宝具により寸秒で近衛騎士が駆けつけて来るはずなのだけれど……。
その方法は見当がつかないけれど、おそらくなにかしらの方法を用いられたのでしょう。
そのなにかは、残念ながら今のわたくしには、想像だにしないようなことなのかもしれないわ。
加えて臣下と共謀したり不貞を働いたということだけど……これに関しては、……そうだわ。
以前に一度だけカーラがわたくしに公務のことで相談があると臣下の一人、確かフランツ政務官をわたくしのティーサロンに連れて来たのでしばらく会話をしたことがあったけれど……、まさかあれは罠だった……?
あの時はカーラも常に室内にいたし安心しきっていたけれど、それ自体が全て仕組まれたことであったのなら……。
──なぜ、それ程まで巧妙な手段を用いて、カーラはわたくしを陥れようとしたのだろうか。
それは分からないけれど、今確実に分かっていることは、わたくしには頼ることができる人や味方になってくれる人がほとんどいないということ……。
カーラのことを調べたり、あわよくば彼女を三ヶ月後にわたくしの侍女に就任させないように根回しをしてもらえるような味方がいればよいのだけれど、残念ながらいないのよね……。
わたくしのお父様に頼むことは、……先日の式の前に、あれだけ問題を起こすなと念を押されてしまったのだし難しいでしょうね。お父様は元より厳格で何よりも面倒ごとを嫌う方だから……。
第一、カーラの実家のビュッフェ侯爵家はわたくしの実家のバレ公爵家に匹敵するほど力を持っている家門なので、安易に異を唱えることができない……。
そこまでを思考し手帳に細かく筆記をすると、頭が重たくなり身体も疲弊してきたので、手帳に鍵をかけて一度寝台に横になることにした。
しばらく横になると、気分が落ち着いてきたからか、ふとあることが過る。
「そうだわ。おそらく半月後に『王宮魔術師長の任命式』があるわ」
そう呟くと何か糸口が見えたように思い、気持ちが少しだけ軽くなった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次話もお読みいただけると幸いです。
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