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【書籍化・コミカライズ】二度目の人生では、お飾り王妃になりません!  作者: 清川和泉
第3章 ペンダントの謎

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第15話 アルベルトの気遣い

ご覧いただき、ありがとうございます。

 暖かな日差しに包まれた王宮内の中庭で、(うずくま)って泣いている少女がいた。

 少女は、ブロンドを三つ編みに結って後ろで束ね、白い小花が幾つも象られたバレッタを付けており、紫色のレースが施されたドレスに身を包んでいる。

 

 なぜだろう、彼女のことがとても懐かしい。

 なぜ、あなたは泣いているの? 酷く胸が苦しくなる……。


『大丈夫か?』


 黒髪のスラリと背の高い少年が少女に対して手を差し伸ばした。その手には絹のハンカチと一緒に、白い薔薇が一輪握られている。

 震えていた彼女の身体は次第に落ち着きを取り戻し、少年からハンカチと白い薔薇を受け取った。


『ありがとう』


 そう言って微笑み涙を拭く少女に、少年は自身もその場に座り、彼女の背中をさすってあげたのだった。


 ああ、思い出した。これは……。


 ◇◇


 気がつくと薄暗い部屋の中にいた。

 ぼんやりと何も考えずもう一度瞼を閉じると、どこかからか小鳥のさえずりが聞こえてきた。

 ということは、今はもう朝なのかしら? 

 そういえば、普段よりも断然枕の感触が柔らかいような気がするし、寝台(ベッド)の感触もとても心地がよいように感じる。


 重たい身体を何とか起こして周囲を見渡してみると、頭上に見慣れない天蓋が見えた。

 わたくしは、どうやら今までこの寝台で寝ていたようだけれど、ここは一体どこだったかしら……。

 

 普段は、冷たい牢獄の中に置かれた固い簡易的な寝台に、申し訳程度の薄い毛布に包まって寝ているから、環境の変化に追いつけないでいる。

 とはいえ、目が冴えてもう一度眠る気にもなれないし、そうなると身支度をしなければならない。


 獄中でしていたように、起き上がって自分自身で身支度を行えばよいのだけれど、身体が思ったよりも重たくて寝台から出ることさえできそうにないのだ。

 加えて、頭も重くて中々思考することができず、やはりもう一度横になろうかと思うと、ふと目線の先に金色のベルが置いてあることに気がついた。


「ああ、よかった」


 思わず口に出してから、寝台のサイドテーブルに置いてある「魔宝具(まほうぐ)のベル」を手に取り鳴らした。

 ──たちまち、チリンという心地よい音が周囲に響き渡る。

 このベルを鳴らすと、ベルの「受信機」を置いてある部屋に受信機が鳴らすベルの音が鳴り響き、発信者に所用があることを知らせてくれるのだ。


 トントン


 一分も経たない内に、扉からノックの音が聞こえた。


「おはようございます、妃殿下。入室してもよろしいでしょうか」

「はい、構いません」


 静かに扉が開かれ、速やかに部屋中のカーテンを開けて回る侍女と、こちらの方に向かって来た侍女と合わせて二名の侍女が入室した。

 こちらに向かって来た彼女の名前は、そう、マリアだったわね。


「改めておはようございます、妃殿下。及び、心よりご結婚のご祝福を申し上げます。わたくしは、マリア・ルスと申します。これからどうぞよろしくお願い致します」


 結婚……。

 そうだわ、わたくしは昨日アルベルト陛下と婚儀を行ったのだわ。わたくしにとっては、二度目の婚儀なのだけれど……。

 本来なら、昨夜は初夜の儀だったのだろうけれど、見たところ陛下はいらっしゃらないようだし、そもそも晩餐会が終わってからの記憶がほとんどないのよね……。


「マリア、こちらこそよろしくお願いしますね」

「はい。ご体調はいかがでございますか?」

「……会話をするのは問題ありませんが、まだ身体が重たく、実のところベッドから起き上がることも難しいようです」

「左様でございますか。昨夜は大変お疲れのようでしたから、わたくし共も皆心配をいたしておりました。すぐに朝食とお医者様の手配をいたします」

「ありがとう。……不甲斐ないのだけれど、わたくし昨夜の記憶がほとんどなくて。こちらにはどのようにして移動したのかしら」


 マリアは少し表情を和らげ、微笑みながら答えた。


「昨夜は、陛下御自ら妃殿下をこちらの私室までお連れいただきまして、その後、わたくし共がお世話をさせていただいた次第です」


 ……陛下が、御自ら……?


 その事実を知った途端、急速に昨夜の感触が蘇ってくる。逞しい腕、鍛えられた胸、温かい体温、強い鼓動……。

 そうだわ。不本意ながら、わたくしはそれを心地よいと思ってしまったのだ。


 実のところ、前回の生ではほとんど寝所を共にすることもなく、初夜の儀ですら婚儀の一ヶ月後に行われたのだ。なので、わたくしは陛下の温もりをあまり知らない。

 だから、昨夜陛下がわたくしを抱えてこちらまでお連れくださったと聞いても、正直疑心暗鬼でいるわ……。


「加えて、陛下からのご伝言も賜っております」

「陛下から……ご伝言?」


 耳を疑ってしまった。

 あの陛下が、わたくしに……伝言?


「はい。こちらの書簡をお預かりしております」


 未だに信じ難いけれど、恐る恐るその封筒の封を開けて便箋に書かれた文字を読んだ。


『しばらく公務のことは気にせず、ゆっくり休み快癒に努めるように』


 公務のことは気にせず……? 

 わたくしの記憶の中の陛下は、「不調で公務を欠席することがなきよう、日頃から体調管理は気にかけるように」と仰っていたはずだけれど、どうしたのかしら……。

 この伝言は本当に陛下からのものなのかと思ったのだけれど、筆跡が陛下の物なので間違いはなさそうだわ……。


「それでは妃殿下、わたくしは朝食を運んで参りますので、一度失礼いたします」

「はい、よろしく頼みますね」


 マリアは一礼すると、速やかに退室して行った。

 状況を確認しようと周囲を見回してみると、すでにもう一人の侍女の手で部屋中のカーテンは開けられ、換気のためか所々窓が開けられている。

 頬に絡む風がとても心地がよい。


「妃殿下、おはようございます。これから簡易的ですが、身支度をさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか」


 思わず涙が溢れそうになる。昨日からとても涙腺が緩いけれど、同時にそれは仕方がないとも思う。

 何しろ、彼女の仕事とはいえ、そのような心遣いを受けることは久方ぶりだし、特別なことだと知っているから。


「はい。よろしく頼みますね」

「かしこまりました」


 柔かな表情で頷き速やかに動き始めた侍女を見ていると、再び涙が滲んできたけれど、堪えるためにギュッと手のひらを握った。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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