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【書籍化・コミカライズ】二度目の人生では、お飾り王妃になりません!  作者: 清川和泉
第2章 一歩踏み出して

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第13話 食事の有り難さ

ご覧いただき、ありがとうございます。

 その後食事は滞りなく進み、待望のメインディッシュの牛ヒレステーキが運ばれて来た。

 ……正直、コルセットの締め付けがキツくて身体が悲鳴を上げているようにも感じるけれど、……そんなことは全く関係がないわ……! 


 これまでは、使節の方と時折会話を交えながら食事をしてきたけれど、このメインディッシュはできれば黙してゆっくりと落ち着いてじっくり味わって食したい……。

 そして、声に出してその味を称賛したい……!

 

 はやる気持ちを抑えながら、ナイフとフォークで丁寧に一口大に切り、ゆっくりとヒレステーキを口元に運ぶ。


 ……ああ、赤ワインを使用したソースはこくがあって、牛ヒレ肉の旨味をより際立たせている。

 付け合わせのバレイショ芋のバターソテーもステーキと合っていて、わたくしの心を満たしてくれる……。


「実に美味(びみ)そうに食べるのだな」


 隣の席に座っているアルベルト陛下が、声を掛けてきた。

 ……あまりにも不意打ちだったので、思わず握っていたフォークとナイフをお皿の上に落としそうになったわ。

 

 なんと答えるのが正解なのか……。

 本来なら、食事の際に表情を崩すなど王妃としてはあるまじき姿であり、謝罪をしなければならないのかもしれないけれど、……何も具体的に悪いことはしていないものね。


「はい。非常に美味なものですから」

「……そなたは兼ねてから少食で、ほとんど食事を摂らなかったはずだが」


 そうだわ。

 以前のわたくしは何を食べても味を感じず、食事に対して楽しみを見出すこともなく、食べられるという行為自体がどれほど有難いことなのか理解をすることもできなかったのだ。

 なぜ、あの頃のわたくしが食事の味がしなかったのかは今もわからないけれど。


 ──いいえ、きっと以前のわたくしは常に陛下や周囲に合わせて気を張って生きていたから、その皺寄せでどこか精神的に影響を及ぼされていたのかもしれない。

 ……それなのに、留置所での食事は味がしたのだから、皮肉なものね。

 

「食事の有りがたさに気がつくことができたのです。今、このような食事を摂ることができることがどれだけ有難いことなのか、食前に天の恵みに感謝をすることの真の意味も、わたくしは今まで理解をすることができていなかったのです」


 言ってしまって、陛下の先ほどの質問と噛み合っていないことに気がついた。

 けれど、誤魔化したり謝罪をすることでもないと判断をし、再び食事を摂ることにした。

 フォークを握ると、ふと視線を感じたのでその先を見てみると、陛下が憂いとも困惑とも見て取れる表情をしている。


「……そなたは、このところ随分と様子が変わったのだな」


 ゾクリと背筋に冷たいものが過った。

 

 ……食事も美味しいし、けれどコルセットの食い込みも痛いわ。

 流石に今はここが夢の世界だとは思ってはいない。

 だから、今わたくしが生きているこの場所や自分自身は現実であり、──時を遡って一年前に戻ったのだと認識した方がよいのだと思う。

 なぜ時を遡ったのか、その原因は分からないけれど……。


 そうだとすると、わたくしはこの一年の間に様々な……地獄を見てきたから、その分以前とは、考え方や立ち振る舞いが違うのかもしれない。

 けれど、陛下からしてみたら以前にわたくしと会ったのは今から数日前のはずだから、様子が違うと訝しげに思うのも無理がないわ。


「本日から陛下の伴侶として、王妃としてこの国のために生きていくのですから、心構えを変えないといけないと自戒したのです」

「……そうか」


 わたくしの説明に納得をされたのかは分からないけれど、陛下は少しだけ頷くと、再び前方に視線を戻された。


 わたくしも続いて視線を前方に移すと、皆それぞれに食事をしたり、思い思いに会話をしていた。

 わたくしが気を遣って話題を振らなくても自然と皆の会話は進む。

 以前はそれは少し寂しいと思ったけれど、今はそれが不思議と心地がよいのだ。

 

 獄中での食事の時間は、一人でパンをかじっていたので周囲に食事をしている人がいることに今更ながら違和感を覚えるけれど、同時に心が震えてくる。

 

 わたくしは、食事の有り難みにも気がつくことができたけれど、周囲に人がいてくれることの心地よさにも気がつくことができたのかもしれないと、漠然と思った。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。



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