第11話 食前の祈り
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十九時頃。
窓の外に視線を移すと、現在は初夏なのでつい先ほどまではうっすら空は明るみを帯びていたけれど、今では暮れなずんだあとに闇に包まれている。
尤も、近年我がラン王国における魔術技術の向上において、「魔宝具」と称される「魔石」を装着し魔術の心得がないものでも魔術の力を発動し使用をすることのできる器具が開発されたことにより、それまで蝋燭の灯を頼りに夜を過ごしていた生活は一変した。
よって、闇が支配するはずの夜中であっても、ガラス細工に光系統の魔術を施した魔宝具が天井に直接多数取り付けられているので、まるで昼間のような明るさで過ごすことができるのだ。
そして、それはここ半世紀の間の発展であり、以前まで我が国はこのエルステア大陸で然程取り立てて目立った産業もなく、主に絹織物や農作物の貿易で生計を立てていた小国に過ぎなかった。
けれど、魔宝具を開発した技術者が我が国の王宮魔術師であったこと、加えて魔石の多くが我が国の鉱山から発掘されることもあり、我が国は魔宝具を製造する組織や工場等を整えると、瞬く間に成長を遂げ近隣国に影響を及ぼすほどの列強国となっていった。
そのため、今日のわたくしたちの婚礼の儀や、これから行われる晩餐会には、大陸中の列強国の要人らが招待に応じ参加をしている。
「それでは、これからアルベルト・エメ=フランツ陛下、セリス妃殿下の婚姻を祝し、晩餐会を行いたいと思います」
宰相であるわたくしの父バレ公爵が祝杯を右手に持つと、すでに立ち上がって待ち構えていた他の参加者らが一斉に祝杯を持った。
ときに、わたくしたちは国民へのお披露目のあと、それぞれ控室に戻り晩餐会用の衣装に着替えていた。
わたくしはシルバーが基調の、全体的に見事な薔薇の刺繍が施されたローブデコルテを身につけており、アルベルト陛下は燕尾服に衣装替えをしている。
先ほどまで身につけていた軍服とは、随分印象が違うので思わず見惚れてしまったけれど、すぐに思い直し深呼吸して改めて周囲の様子を眺める。
……そもそも、このお姿を見るのは初めてではないのに、どうもわたくしはまだどこか陛下に対して捨てきれていない情があるのかしら……。
王宮内の舞踏室に晩餐会用の支度をし、向かって中央の席にはわたくし達二人の席が設けられており、それを挟むようにそれぞれ二列に縦長のテーブルが平行に置かれている。
いずれも純白のテーブルクロスが掛けられ、見事な白や真紅の薔薇が花瓶に生けられ等間隔に置かれている。美しいわ。
すでに目前にはナプキンや食器類が置かれ、わたくし達の席の傍に座る方々──主賓である他国の使節の方々、我が国の主要貴族が交互にお互いを挟むように座っている。
他国の晩餐会ではどのようにしているのかは残念ながら分からないのだけれど、我が国の晩餐会では他国の使節の方を平等に──貴族の位の上下はあるけれど、お迎えするべくこのような席次になっていると妃教育の際に習ったわ。
「天の恵みに感謝いたします」
クロノス教会の大司教であられるルドフ様が祈りを捧げると、皆各々祈りを捧げ始める。もちろん、わたくしも両手を組んで祈りを捧げた。
……食前に祈りを捧げること自体は、牢獄の中でも変わらず行っていたことだった。
……こうしてお祈りを捧げると、心が洗われるようね。
普段の晩餐の席で神父様がお祈りを捧げてくださることはなく、これは貴重なことなので、わたくしはより強く享受できる糧について感謝を捧げるべく念入りに手を合わせたのだった。
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