断念と名前
《土曜日・昼》
俺は帰宅する事を諦めた。
そして客室には布団を畳んだ俺と立河さんが2人で沈黙している。
残る事になったとしても……クラスメイトの家でしかも女子の家とか気まずい。
それに彼女も凄い意識してて俯いてるし。
空気が重い……
「体調…大丈夫?」
「多分?大丈夫だと思うんだけど」
「そうなんだ。でも私もまだ五十嵐君の顔色悪いから返すのは心配かな?…」
「その…心配してくれてありがとう」
その言葉に顔色が悪い事は本当なのだろうと思った。
でもこのまま泊まりだとしたら
「行けないな……」
結子の病院に行くのも恐らく止められるだろう。
「何処に?」
「嫌!何でもないから気にしないで」
心配させないようにしたつもりだが甘かった。
「嘘でしょ?」
「何で…分かったの?」
「嘘なんだ」
「は?」
言ってる意味が分からなかった。
もしかして俺が勘違いして白状した?
「で何処に行きたかったの?」
「…」
扉からノックと共に紅葉が入ってくる。
「楓にお願いあるんだけど…海斗君を病院に連れて行ってくれない?」
「診察?」
「違うわよ……お見舞いよ」
「お見舞い?」
「貴方が毎日学校終わりに結子ちゃんの御見舞に言っている事は既に聞いてるからね」
「え……」
唐突に告げられた事実に驚く楓とそれを娘の楓の前で声に出されると思って無かった海斗はお互いに心臓の鼓動が速くなる。
「それと海斗君は結子ちゃんの件を自分の責任だと思っているでしょ?」
「あの時守れたのは俺だけです……それをしなかったんだ」
「その場に結子ちゃんといなかった貴方に守れる筈無い事くらい分かるでしょ…」
「結子は何時も一緒にいてくれた!!助けてくれてたんだ…いるだけでどれだけ助けられていたか分からない程に。それなのに俺は肝心な所で何も出来なかったんだよ」
「それが貴方の貧血の理由の1つかしらね」
横で見てる楓は話の意味が唐突過ぎてある程度の情報から内容を予測していた。
「貴方の話に出てきた行きたい所って今日も結子ちゃんのお見舞いに行きたかったんでしょ?」
「それは……」
その紅葉の一言を聞いて楓も少し話が見えて来た。
学校が終わり誰よりも先に準備をして誘われても断ってお見舞いに来る人が今日来ないなんて事がそもそもありえない。
「許可します。しかし楓を連れて行きなさい」
「えぇ!!何でお母さん!」
「何でも何も彼一人で行かせてまた倒れても連絡出来なきゃ困るでしょ」
「あ…」
確かに病み上がりの彼を1人で行かせるのは危険かも知れないと理解した。
「それが嫌なら行くのは諦めなさい」
「はい……諦めます」
確かに行きたいと思った。
しかし、立河さんは結子の事を知れば美彩と未寄子に教えてしまうかも知れない。
ここで真実を増やす訳には行かない。
「良いの?」
「仕方ないよ」
聞いてくる立河さんに大丈夫だと答える。
「で?呼び方はどうなったの?」
「は?」
「ちょっとお母さん!」
慌てる立河さん。
「別に結婚しろって言ってる訳じゃ無いんだし別に問題ないでしょ?」
「そうだけど!そうじゃないよ!!」
別に名前で呼ぶのに問題でもあるのか?
結子も美彩も未寄子も名前で呼んでるから余り立河さんの言ってる事が分からない。
「五十嵐君は呼べるんじゃない?」
「普通に名前で呼ぶだけですよね?」
「そうね…こんなに恥ずかしがって何?間違いでも起こすつもりなのかしらこの娘は?」
「楓はどうするの?」
「楓…」
「…………………………………………は?」
初めて男子から名前で呼ばれて処理能力を限界まで使っても楓の頭はショートした。
その時楓は思った。
何であって数日の彼に名前で呼び捨てにされてるの?としかし機能が半壊した頭では答えに辿り着かなかったのだった。
機能が戻って楓からも海斗を呼んでみることにして勇気を振り絞る。
「えっとねそのえっと……海斗君??」
「そうだけど?何か変な所ある?」
お互いが名前で呼び合ってるこの状況が変だと言いたいが結局言えなかった楓だった。




