午後の調査(2)
コンクリートでできた階段を下りきると、そこは体育館ぐらいの大きさの空間があった。
「ここが避難所……」
ところどころ老朽化している壁以外はこれといった損傷はない。おそらくここで物資の受け取りや集会などをする予定だったのだろう。ライトで照らすと細長いテーブルや、ホワイトボードといったものがあるのも分かった。
だけど一つおかしな点がある。それは……
「ここに人はいたのだろうか……」
あのような緊急事態があったというのに、人はおろか使用された痕跡が一切見つからないのだ。誰も避難できなかった?じゃあ一体なぜ?もう少し探る必要がある。
「あの、あそこに扉がありませんか?」
後ろから彼女が暗闇のある一点を指差した。そこに合わせてライトを向けると、確かにそこには扉があった。
「どうして分かった?」
僕は彼女のほうを見る。こんな一寸先すら見えない暗闇の中で、彼女はいったいどうやって扉を見つけたというのか?
「私、もともと暗視機能が付いているので鮮明にではないですが、ある程度は視ることができるんですよ」
自分の目を指差しながら彼女は答えた。
「めちゃくちゃハイテクじゃないか」
「ま、まあ……」
ちょっと照れた様子の彼女だったが、一瞬にして表情が凍り付いた。
「ん?どうし……」
僕がその理由を聞こうとした瞬間、彼女は僕の口を塞ぎライトを消した。
視覚を失ってしまい、何が起こったのか全く分からなかったが、彼女の息遣いから普通のことじゃないことが分かる。
どのくらい経っただろうか。彼女が「もう大丈夫です」と言うと、ライトを付けてくれた。
明りに照らされた彼女の顔は蒼白して、何か彼女にしか見えないものを見てしまったようだ。
「あの、どうしたんだ……」
恐る恐る彼女に聞く。
「先に出てからお話しますから」
彼女はそう言うと、降りてきた方向を指差した。
「……分かった」
ここにきてやっと自分も第六感ともいえる危機感が働き、彼女の指示通り地上に戻ることにした。