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短編

生きるとは

作者: いまり 鈴


 真っ白な紙にでかでかと書かれたそれを雑な円で囲った。

 余白がこちらを見つめ返す。不意に思い立った文字を刻み込んだ。


 光、欲望、代謝、死、……思い立つものすべてを思いつくままに書き込んでいく。少なくなった余白が鼻で笑うように見つめ返す。いくら書き込んでも、白い空間はなぜかゆとりを持っていた。


 グウと低い声でお腹の虫が鳴いた。机の上に置かれた冷たいマグカップに手を伸ばし、中身がまだ残っているのを確認してぐいと飲み干した。一口にも満たない量だったが、口の中に含むだけでも十分に満たされる。


--水は必要不可欠だが、飲み過ぎても毒になる


 どこかの誰かが言っていた。水中毒になったというよくわからない人も知っている。薬と毒は紙一重という言葉があるが、水が当てはまるなら世に存在する何にでも当てはまるのではないかと本題から外れたことを考え出す。


「寄り道」


 一瞬、用紙をかち割ってネズミ色の靄を払ったかのように思えた。ふと浮かんだそれは、すでに書き込まれたどの文字よりしっくり来そうな気がした。が、書き込むと同時にネズミ色の靄が余白の向こうに戻ってきた。小さくため息をつき、なかなか厄介な題材について突然考え出したものだと自分で自分に苦笑する。


 気づけば外は随分と暗く、穏やかに雨が降っている音がする。そういえばなんだか寒かったなあと思った瞬間、思い出したようにぶるると体が震えた。凍えた体に気持ち程度にしかならないストールを巻きつけ、マグカップに補充した冷たい水を口に含める。少しの間にらめっこをし、さて、と一つ伸びをして立ち上がった。今夜のご飯は何にしようか。



 ちらと目をやると、一つ残された余白はまだ笑っていた。





 

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