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ヒーローの苦悩

作者: 秋川真了

電話音が部屋中に鳴り響く。アールはそれに数秒遅れて気づいた後、急いで受話器を取る。

「はい。こちらアールです」

「アールさん。今A市郊外に怪人が現れたわ。幸い、周りに住宅地はないけれど、間違いなく武装してるから気をつけてね。詳しい場所は~…」

「はい。直ちに向かいます」

本人としても久しぶりのヒーローらしい活動。気合の入った声でアールは返事をする。アールはロッカーからヒーロースーツを取り出し急いで着替える。ヒーローにも昔は本部があり、怪人が現れる度五人組で出動していた。しかし近年、科学技術の発達によるヒーロー一人の戦闘能力の向上、また人手不足の煽りを受け、こうして自宅から一人で現場へ向かう形となった。一応扱いは公務員であるのだが、人気は高いどころかむしろ低い。

「よし、行くぞ」

アールはこれから起こることに気合を入れ家からでる。刹那、喧騒がアールを包む。目に映るのはたくさんの人と、「ヒーロー制反対」と書かれた多数のプラカード。所謂ヒーローに対するデモだ。

「ヒーロー制はんたーい」

「悪しきヒーロー文化を許すなー」

「怪人にだって命はあるぞー」

そんな罵詈雑言を背にアールは特別配送車に乗り込み、サイレンを鳴らす。

「よかった。今日はいなくて」

たまに行き過ぎたデモ活動者が配送車の発進を邪魔しようとしてくることがあるが今日はいないようだ。

A市郊外まで少しある。アールは憂鬱な気分を少しでも紛らわそうとラジオをつける。

「えー、次はですね。怪人でありながら著名な親人派である~さんに今話題のヒーローについてですね」

そこでアールはラジオを切る。どうせまたヒーロについての批判だ。

「なんでみんな、ヒーローを批判するんだろうな」

アールは一度怪人に殺されかけた。その時にヒーローが助けてくれたおかげでアールは生きている。だからこそアールはヒーローになろうと思えたし、今もこうして続けられている。

もともとヒーローという職業は昔から存在している。ヒーローは今とは違い怪人による人間世界の侵略から守る民衆の憧れであった。

そんな状況近年大きく変わり始めた。理由は一部の怪人の友好化だ。少し前まで人類の憎き敵であったはずの怪人が今では様々なメディアに出演をし、注目を集めている。

しかしそんな怪人も一部である。未だに多くの怪人は人間を襲っている。なのにメディアは怪人の友好化ばかり報じ、民衆の大多数がほとんどの怪人が友好的だと勘違いしてしまっている。

民衆は知らない。なぜ怪人の凶悪事件が年々減っているか。なぜそんな平和ボケしたことを大声で言えるのか。

それは決して怪人の友好化などではない。

僕たち、僕たちヒーローのおかげなのに…

なのに、なぜ自分達が犯罪者のように扱われるのだろう。ヒーローは怪人と戦うだけではない。災害の時には救助活動だってしている。なのに彼らはそれを平然と無視する。まるでそれがなかったかのように。

もうこのまま命令を無視しようか。

アールはあまりの憂鬱さにそう思う。しかしそれでも決してそんなことはしない。

アールは知っているからだ。人間は本当は、賢く、温かい生き物だと。



「A市の郊外に送った怪人がやられました」

「そうか。でもまあいい。怪人などいくらでも作れる」

伝えられたのは下っ端の死。しかしそれは計算内。わざわざ人目につかない郊外に怪人を送ったのだ、これでメディアも情報を改竄しやすいだろう。

今やメディアや企業にも怪人の力は及んでいる。元はといえばデモ活動も人間に化けた怪人にやらせていたのだが大成功。見事お花畑を一本釣りすることができた。

「しっかしなんで人間てあそこまで他のやつに干渉してくれるんすかねえ」

幹部の一人が尋ねる。

「そんなの愚問だよ。自意識過剰だからさ」

「自意識過剰?」

「ああ自意識過剰さ。人間は優しいから弱者を助けるのではない。弱者に手を差し伸べる自分に惚れ惚れしているなさ」

「うーん。そんなもんなんすかねえ」

あの人間どもは知らない。なぜ、我々が人間ごときにに笑顔を振りまくか。なぜお前らが平和ボケしているのか。

それは決して怪人の友好化などではない。

「まあ後は、不安なんだろうな。なにか良いこと_をしていないと気が済まんのだろうな。自分の正義感によって誰かが犠牲になっているとも考えずに...」

怪人は遠くに見える人間たちの笑顔を見た後「人間は優しいのでは」というあらぬ考えが浮かぶが即座に否定する。

なぜなら怪人は知っているからだ。人間は実際愚かで、冷たい生き物だと。



その後の人類がどうなったかはご想像にお任せしよう。

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