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二頭の蝶は舞い上がる。  作者: 靄詩真輝
第零章 アゲハとクロハ
4/9

セテルメント国

「……ろ。……きろ。起きろ、二人共」


 身体を揺すぶられ、アゲハ、クロハ兄妹は目を覚ます。

 

「おう……おはようクロード」


「ああ、おはよう。荷馬車の揺れ心地はどうだ?」


 寝惚けた声で挨拶をするアゲハに、クロードは少しダルそうな声で、嫌味っぽく返す。

 アゲハは瞬時に意識を覚醒させ、周りを見渡した後、返答をした。


「……吐き気がするな」


 と。


 暗殺任務達成から数時間が経過し、アゲハ達が寝ている間に事は全て済んだらしい。

 セテルメント国軍は、敵国軍のリーダーが死んだ事による動揺の隙をつき、一気に進軍、制圧まで行ったという。


 アルミラ国。

 今回セテルメント国が侵略、制圧した国の名前である。

 幸いというか、セテルメント国軍兵士の戦死者は少なく、アルミラ国制圧後の警備の方にも、人材を割く事が出来た。

 それ以外の兵は今、荷馬車や、各々馬に乗っての帰国中である。つまり、このアゲハ達が揺られているこの荷馬車は、セテルメント国へと向かっているのだ。


「クロハ、起きろ」


「……んん」


 アゲハがクロハの肩を揺すりながら声をかけるも、目を覚まさない。


「すまないクロード。こいつは向こうに着くまで寝かせてやってくれ」


「別に構わないさ。それとアゲハ、お前には頼みがあるから先に起きてもらった」


「はあ……まあ知ってたけどな。で、何だ?」


「お前達には、国王様への謁見をしてもらいたい」


 胡座で座り、脚に寝ているクロハの頭を乗せているアゲハに、頭を下げるクロード。

 少し変な構図であったが、クロードは真剣だ。


 今回の進軍は、アゲハ達の力無しでは果たすことは出来なかった。

 一軍のリーダーとして、己の力で勝利へと導く事が出来なかったのは、悔しい気持ちを感じてしまう。


 だが彼ら兄妹は救世主だ。


 もしかすると、セテルメント国救済の大きな一手にも繋がる可能性がある。

 実際それほどまでの実力が兄妹にあるかは別として、大きな刺激になる事は間違えないだろう。


 救世主として、そして新たな刺激剤として彼らを国へ認めてもらうための、王への謁見。


 そんな風な思惑があっての、提案。

 それを知ってか知らずか、アゲハはクロードから目を逸らすことなく、返答する。


「まあ、王へ会うのは構わない。だが、祭り上げるような事はやめてくれ。そういう事は嫌いだ。俺も、こいつもな」


「……承知した」


 アゲハは未だに熟睡中のクロハに視線を落とし、頭を優しく撫でる。

 彼らはヒーローとかとして祭り上げられるのは嫌いだ。彼らは日陰者で、日を浴びてはいけない。

 スポットライトなんて、当ててはいけない。人を殺しまくる奴なんて……。

 一生暗闇に生きていくのがお似合いだろう。


「ま、宿を提供してくれたらそれでいいんだ。仕事も頼まれたらするしな。お前に任せるよ」


「すまないなアゲハ。それとお前の素性については、国王様の前で話してもらう」


 そう言うとクロードは、身につけている鎧、甲冑をカタカタと鳴らしながら立ち上がり、荷馬車の隅の方へと歩いていくと、再び座った。


 恐らく彼も休息をとるのだろう。


 暑苦しく、見てるだけで重く感じてしまう甲冑を脱ぎ、腰に短剣を刺しただけのラフな装備で眠りについた。

 アゲハはそれをボーッと少しの間見つめた後、荷馬車前方の垂れ幕に向かうと、それを開き、馬を操っている騎士に声をかける。


「後どれくらいで着くんだ?」


「……三十分程度だ」


「ほ〜ん。どうも」


 受け付けたくないと言いたげな表情をされたが、問いには答えてくれた。アゲハは騎士に軽く礼を言い、戻る。

 戻ると、先程まで横になって眠っていたクロハが起き上がっていた。

 アゲハは挨拶をする。


「おはようクロハ」


「お、おはよぅお兄さん」


 少し寝惚けた様子で返してくる。目を擦ってから、アゲハを見る。


「今、俺達が助太刀した国……セテルメント国に向かってる」


「そう……なんだ」


「そうだ。後、クロードに頼まれたんだが、国王に会って欲しいそうだ」


 なるべく簡潔に、ザックりとした現状況の説明を行う。

 まだ寝惚けているものの、ある程度の事状況は理解したクロハは、すぐにパンパンっと己の顔を叩き、意識を覚醒させる。


「気が緩んでるんじゃないか? いつも浅い眠りにしておけと言っているだろ」


「ごめんお兄さん。もうこんなミスはしない」


「まあ仕方がないかもしれんがな。こんな状況だし……気をつけろよ」


「うん」


 殺し屋たるもの、いついかなる時でも己の命が狙われているか警戒しなければならない。

 人を殺す大罪を犯して、自分はゆっくりと寝ようなど、虫のいい話だ。

 アゲハ達なりのプライドというか、意地というか、深い眠りにつくことは意識的に避けている。


 まあこの殺し殺されが当たり前のような世界に来た今では、大してそのプライドのようなものを守る必要性も感じないけれど。


「見えてきたぞ」


 クロードから、声が掛かる。


 兄妹はそそくさと前方の方に行き、外を覗く。すると確かに、進行方向のすぐ先には、高い石壁が見えた。

 おそらくあれは、国境の代わりみたいなものなのだろうか?

 目測で高さ四十メートル。無駄に高い気もするが、防壁の役目も果たしているのであれば、まあ高いに越したことはないだろう。


「大きそうな国だね」


「いや、そうでも無い……セテルメント国は、他の国々に比べれば、とても小規模な国だ。大きくはない」


 クロハの呟きに、クロードが説明をいれる。


 セテルメント国は、人口一万人の小さな国だ。それに比べて他の国々……例えば先程まで戦闘をしていた相手国、ウル国は、五十万人の人口を要している。故に、戦力差が激しい。


 セテルメント国の人々の中で、軍隊に所属する兵士に割ける人材など、五千人程が限度だ。それに対してウル国は、二十万人程の兵力。

 元々勝ち目のない戦だったが、アルミラ国の圧倒的に消極的な戦術、そしてアゲハやクロハといったイレギュラーな存在の介入によって、ひとまず、収めることが出来た。

 そして、これからのセテルメント国の方針についてだが--


「今後の方針については、王城で話すとしよう。付いてこい」


 国内に入り、馬車を降りると、クロードが先導して兄妹を王城へと案内する。

 少し後ろから、セルが常に短剣に手を添えながら付いてきている。


「まあ、信用出来ないわな」


「当たり前だね」


 兄妹は、セルの行動にふむふむと納得、感心しながら、常に背中を狙われている状態で歩く。


「すまないな二人共。必要最低限な警戒だ」


「お前もナチュラルに信用してないアピールやめろ」


 五分程、それから歩いていると、王城の門が見えてきた。

 でかい。城の縦の高さは言わずもがな、横も無駄に長い気がする。

 クロードは、槍を持った門番らしき人物の所へ行き、告げる。


「セテルメント国軍リーダー、クロード・ケルディだ。後ろの二人は、此度の戦の協力者だ。我らが王に、功績を報告せねばと馳せ参じた次第。通してもらうぞ」


「は!」


 彼の気迫の入った声に、門番達は同じくらいの声量で返事をし、槍を退ける。

 クロードはスタスタと……いや、カチャカチャと進んでいく。アゲハは一度カバンをからいなおしてから、クロードの後に続いていく。クロハも、兄の後に続く。


 広いエントランスから、大階段へと進み、ひたすら上ると、更にまた大きな扉があった。

 再びクロードは声を張り上げる。


「王よ! クロード・ケルディでございます! 吉報をお持ち帰り致しました。どうか、この門をお開けください」


「おぉ! 帰ったかクロード! 無事で何よりだ! さあ、今すぐ入ってくれ!」


 そんな声が扉の奥から聞こえたと思うと、ギギギッと音をたてながらゆっくりと開かれる。


 王室。

 

 派手過ぎず、地味過ぎす。

 そんな庶民的な印象を持つことが出来る王室に、大きめな椅子に腰掛けているセテルメント国国王がいた。


「よく帰った我らがセテルメント国の英雄達よ! 貴殿らの帰りを待っていたぞ!」


 そう椅子から立ち上がって声高々とクロードら兵士達の帰りを祝福する国王は……とても若そうな、美少年だった。

 アゲハと同じくらいの年齢に見える、美少年だった。

 アゲハは決して、絶対、美少年では無いが、国王は、美少年だった。


 アゲハとクロハは、正直、目の前の光景に目を疑った。

 王様のイメージはというと、少しぽっちゃりした、初老の人物がやるものかと思っていた。だがしかしどうだ、目の前でクロードと話している、王冠を被っているのは、美少年だった。

 信じられず、つい、アゲハとクロハは、呟いてしまった。


「あれ? 若くね?」


と。


亀更新です(三度目)。

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