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二頭の蝶は舞い上がる。  作者: 靄詩真輝
第零章 アゲハとクロハ
3/9

初陣

「ん……殺せる」


「俺達ならな」


 そう宣言するアゲハとクロハを、クロードはどう見たのだろうか。


 苦し紛れの命乞いか--否。

 ただの冗談、妄言か--否。


 この二人のような目を、クロードは幾度となく見てきた。

 猛者強者、クロードは数多くの『戦士』と剣を交え、闘志を交え、力を認め合ってきた。

 側に立つセルも然り。


 アゲハとクロハは、その『戦士』とは少し違えど、確かに、『強者』の目をしていた。

 いや、少し語弊があるかもしれない。この兄妹が持つ目は--喩えるなら、蛇であろう。

 目を離すことが出来ない。油断する事は許されない。


 そんな緊張感を持たせてくる目だった。


 クロードは、その目を知っている。

 昔、ただ一人。蛇の如し目を持ち、クロードの思想と相反し、衝突し、剣を交えるまでに至ってしまった者。


 --まあ今は、関係ない。


「……こいつらの縄を解いてやれ。有事の際は、私が責任を持つ」


「クロード!」


「落ち着けセル。背に腹は変えられないのだ。こいつら……特にアゲハの顔は気に食わないが、確かに『力』を持っている。分かるだろう?」


「それは……」


 クロードからの説得に、セルは言い淀む。

 セルも戦士だ。この兄妹にどこか違和感を感じているのだろう。


「まあ……俺が、というより、その道具に力があるんだけどな」


 冴えない兵士に縄を解いてもらいながらだが、アゲハが口を挟む。


「確かにそうかもしれないな。俺はその道具をどう使うのかは知らない。だが、それを使いこなす『力』を持つ……違うか?」


「……ものは言い様だな」


 クロードとアゲハの間に、そんな会話が交わされる。

 隣で未だ座っているクロハは、瞑想……だろうか、目を瞑っている。こんな騒々しい所で、瞑想が出来ているのかは甚だ疑問だが。


 アゲハは立ち上がると、右手を一度にぎにぎして、感覚を戻す。

 まあ実際縛られていたのは手首であり、拘束されていたのも数分なため、その行為に意味があるのかは分からないが……。


 あるいはそれは、アゲハなりのルーティーンなのかもしれない。


「クロハ、起きて準備しろ」


「ん……りょーかい」


 瞑想……から目覚めたクロハも立ち上がると、やはり彼女も一度、手をにぎにぎする。しかし彼女は、左手だった。




「……それは、何だ?」


「気にしなくていい。お前は戦況把握、維持に専念しろ」


「……承知した」


 淡々と準備をする兄妹に、見たことの無いフォルムの物に、戸惑いを隠せないクロード一行。

 しかしアゲハの注意によって我に返ったクロードは、再び指揮へと戻る。


 準備自体は、数秒で完了した。

 まあ当然といえば当然なのだが、準備程度で時間を無駄に消費するなど、二流にも成りえない。

 ……問題はここからだ。


「俺達の目標はどいつだ?」


 アゲハは崖の上で戦況を見渡しているクロードの元に歩いていき、問いかける。


「見えるかは分からないが、森の中に向こうの拠点らしきポイントがあるだろう?」


「……ああ確かに。テントが立ち並んでるな」


「その中心で指示を飛ばしている奴が頭だ」


 クロードの返答に、アゲハは自前の双眼鏡を覗いてから理解する。


 敵軍が攻めてきたであろう方向に、木々が生い茂っている森がある。

 しかしその中央には木々が一切生えていない大きなスペースがあり、そこに堂々と拠点が敷かれている。


 高所を取っているこちらに対してただ舐めているようにしか見えないが、クロードに聞くと、奴らはそのスペース一体に、目に見えないが、結界を張っているらしい。


 何とその結界は、『魔法による干渉が結界内にあった場合、より強固な壁を築く』らしい。


「何だそのザル警護は……」


 つい、アゲハは呆れたようにそう呟いてしまう。

 まあ無理もないだろう。

 『魔法による干渉、攻撃で無ければいい』。つまり、物理的な……魔法による攻撃でなければ、ガバガバな警護だということだ。剣や弓などで突撃されたら、結界による防御は無意味。

 まあ物理攻撃も防ぐことが出来る結界も存在するのだろうが、今はどうでもいいだろう。


「それでアゲハよ。そんな物で本当に仕留められのか?」


 クロードが怪訝な顔でアゲハに問う。

 やはりこの世界には、『銃』という武器は存在しないらしい。

 主な武器は剣や弓、それと『魔法』といったところであろうか。

 何とまあ、アゲハ達が元いた世界では考えられない武器である。


「その事は心配するな、ちゃんとやるから。……それと、一ついいか?」


「何だ?」


「もし成功したら、宿を提供してくれ」


「……? ああ、別に構わないが」


 クロードからの返事を聞き、アゲハは踵を返す。

 右手を綺麗に上に挙げ、人差し指をピンっと伸ばしているクロハの所に戻ると、早速環境把握に入る。


「風はどうだクロハ」


「ほとんど無いけど、少し変な感じがする。……けど、大して弾道に影響しないと思う」


「了解」


 風……現在は吹いていないが、このような情報は大切だ。


 少しでもミスがあれば、目標達成には遠くなる。どの分野でも言えることだ。

 情報収集を行い、それを受けての精査、計画、実行。

 これらの役を担っているのがクロハだ。


 彼女は運動能力はもちろんの事、頭脳……状況判断能力に長けている。

 アゲハが低いという訳では無いが、彼女はそれ以上。

 集めた情報から、アゲハへの的確な指示を行う。アゲハにとってクロハは、家族としても、仕事仲間としても、必要不可欠な存在だ。


「……じゃあ、やるか」


「うん」


 その作戦開始の合図のもと、殺し屋兄妹の任務が開始される。

 アゲハは予めセッティングしておいた『L96A1』のすぐ後ろに素早く伏せ、引き金に右手人差し指を添える。

 銃は前方に取り付けられているバイポッドと呼ばれる二脚でも支えられており、アゲハが構えることで、後方のストック……銃床が上げられて、ようやく撃てる体勢になる。


 引き金から指を離し、一二度空気を人差し指で手の内側に押し込む。

 そしたら次に、引き金の少し上に付いているボルトハンドルを後ろに引き、もう一度前へ押し込むと、ようやく撃つことが出来るようになる。

 再び右手人差し指を引き金に添える。


 これで本当に準備が完了。


 銃の上に取り付けられたスコープ……小型望遠鏡のようなものを覗き、狙いを定める。

 スコープ内の硝子には、レティクルと呼ばれる十字線があり、スコープに付いているダイヤルで上下左右微調整する事が出来る。


 目標を捕捉。


 欧米人顔の、厳格そうな顔をした男。

 鎧は身にまとっているが、頭は脱いでいる。

 結界内の安全地帯にいるため、油断しているのだろう。

 今もずっと、作戦用紙らしき紙が散乱している大きな机を中心に、味方への指示を飛ばしている。


「頭、ガラ空きだぞ……?」


「全く警戒してない。兄さんのタイミングで、いつでもやれるよ」


「了解」


 風はない。

 相手への慈悲もない。


 アゲハは一度大きく息を吸い、止めると、その後間髪入れずに引き金を引いた。


 高い破裂音が、アゲハやクロハ、その周辺にいた兵士達の耳の鼓膜を激しく震わせる。

 たった今発火された7.62mm弾は、バレル内を高速回転しながら通り、銃口より放たれる。

 人ひとりの命を容易く絶命へと追いやることの出来るその弾は、空気を切り裂き、静かに、ターゲットへと迫る。

 戦場の端から端へ、今も尚戦場で死闘を繰り広げている兵士にも、もちろんターゲットにも気づかれることなく、一瞬で移動する。


 弾が、頭蓋を砕き、脳を壊した。

 余程の事がない限り安全地帯である結界内にいた事で、少し、油断していた敵国軍の長は、気づく間もなく絶命した。即死だ。

 倒れた己の指揮官に、大きな声で叫びながら駆け寄る兵士達は、それの頭を見てから、驚愕の顔を浮かべる。

 無理もない。

 一瞬の瞬きの後、次見た時には、頭から血を流していた指揮官が倒れていたら、状況把握も何も無い。


 

 仕事を終えたアゲハは、大きく息を吐き、立ち上がる。


「……やったぞ」


 誰か特定の人間に言うでもなく、一度クロードら兵士達の方を一瞥してから、さっさと銃の片付けに入った。

 クロハはあくびをしながら、片付けの手伝いに入る。


 驚いて誰一人声を発しないセテルメント国拠点にいる兵士達の中で、一番最初に口を開いたのは、クロードだった。


「どういう……事だ」


「あ?」


「何をしたのだと聞いて--いや、今はいい。後で聞く」


「……賢い選択だな」


 クロードは何かをアゲハに問おうとして、やめる。

 何を聞こうとしているのは明確だが、今は事態の収拾が先決だ。


「ここからは全員で一気に攻め落とす! 進めー!」


「おぉぉぉーー!」


 いくらリーダーが死んだからといって、戦が終結する訳では無い。

 あくまで敵国の制圧が目的であって、殺す事が目的では無い。戦争はだいたいそんなものであろう。

 ただ殺す事が目的なのであれば、それはただの殺戮に過ぎない。自分の故郷の為に、命のやり取りを行うのが戦争だ。

 決して、間違えてはならない。


「ふぅー。テントで休憩しながら待つか」


「そうだね」


 全員が戦闘に駆り出されたため、兵士がいなくなったセテルメント国軍拠点に二人で残されてしまったアゲハとクロハ兄妹は、仕事の後片付けを済ませると、いくつか設置されてあるテントのうち、仮眠用と思われるテントに入って、暫しの休憩をする事にした。


「頭が痛てぇな……」


「うん……私も」


 端に置いてあった寝袋を下にして二人並んで座り、頭を抑える。

 この世界に来てからというもの、ずっと頭痛に悩まされていた。

 ずっと……というのは、どれくらいの長さを指しているのかは不明だが、まあ、ずっとである。

 原因不明の頭痛。

 特に仕事に支障が出る程のものでは無いので気にしないでいたのだが、気が緩んでしまうと、どうしても気になってしまうのであった。


「それに、何か忘れてる気がする」


「だよな〜」


 クロハの呟きに、アゲハが同意するように答える。


「機動隊に追われてた所までは覚えてるか?」


「覚えてる。そこから記憶が飛んで……いつの間にかあの草原にいた」


「草原にいた時からしか記憶が無いのに、何か少し前からこの世界にいる気がしてならないんだよな……」


「……よく分からない」


「本当だよ」


 そこまでの事実確認から、後はこれから何とかなるかもしれないという結論に至り、一度仮眠をとる事にした。

 如何せん頭を行使しすぎて疲労が溜まってしまっている。

 兵士たちが帰ってくる前に少しでも回復しておいた方が、後々楽だろうという考えだ。


 各々、下に敷いていた寝袋に入り、仮眠をとる姿勢に入る。

 直ぐに頭がボーッとし始め、視界が微睡んでいく中、アゲハが呟く。


「何で……戦場のド真ん中に来たんだ俺達は」


「さあ……ね」


 アゲハは十九歳で、クロハは十四歳。

 いくら暗殺稼業で身体を鍛えてきたとはいえ、これ程のイレギュラーな事態が連続で起きてしまえば、疲労も相当なものだろう。


 勝手に寝袋を使った事は、クロードとかいうあのリーダーの兵士に後で怒られるとして……。

 とりあえず、休息を……。

亀更新です(二度目)。

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