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二頭の蝶は舞い上がる。  作者: 靄詩真輝
第零章 アゲハとクロハ
2/9

問答

色々修正しました


『貴方がアゲハね』


 ……誰だ?


『そして、貴方がクロハ』


 だから、あんたは誰なんだ?


『わたしは――。魔法使いよ』


 ……は?

 なん……は? 魔法使い?


『そうよ。とにかく、ついてきて』


***


セテルメント国領土 シルド草原


 その草原には、鎧に身を包んだ人間の雄たちの咆哮と、金属が打ち合う時に鳴る不快で高い音が響いていた。


 雄たち……勇敢な兵士たちは、互いの国の領土と人権をかけて戦っていた。


自分の帰りを待ってくれている家族のために、ただただ目の前の敵に剣を振っていた。


両軍入り乱れる中、向かって左の軍勢、つまり西側に拠点をおいているセテルメント国軍は、押されていた。


「進め! 我々には後が無いのだぞ! 早く敵軍の長の首を獲るのだ!」


『オオオオーー!』


 セテルメント国軍の長、『クロード・ケルディ』は、その頑丈な鎧越しでも耳を思わず塞いでしまうくらいの声を張り上げ、戦いの指揮をとっていた。


「クロード、私も行こうか」


 長……指揮官である彼の後ろから、セテルメント国軍唯一の女性剣士で、副リーダーでもある、『セル・イルメッド』が、自分の腰にさしてある剣に手をかけて、そう問いかける。


「いや、お前はまだここにいろ。然るべき時に、ちゃんと指示を出す」


「く……分かった」


 クロードは彼女の方を見ず、戦況把握をしながら返答するが、セルは納得いかないといった顔で、踵を返す。

 ……顔は鎧で覆われていて見えないが。

 戦場では、常に頭を回せ。少しの判断ミスが命取りとなる。

 そのことを分かってはいるが、セルは自分の力を使ってくれないクロードに不満を抱いていた。


***


「クロード殿! そこの茂みに、怪しい者共がおりました!」


「なんだと!?」


 混戦極まる中、セテルメント国軍陣営で動きがあった。

ある一人の冴えない兵士が、怪しい黒ローブ姿に身を包んだ男女二人を拘束したのである。

クロードは素早くその怪しげな二人組に駆け寄ると、愛剣『ソル・サーベル』を抜刀して男の方の首にたてる。


「貴様ら、何者だ」


「……」


 後からやってきたセルは、女の方に剣をたてる。

 二人組は、問いかけに応えない。


「応えないのであれば、その首を撥ね飛ばすことになるぞ」


「……アゲハだ」


 クロードからの脅しに、ようやく応える男――アゲハ。


「そうか。なら問おうアゲハ。貴様は敵軍――アルミラ国軍からの刺客か?」


 服装からして、ただの兵士では無いと判断したクロードは、あえて『刺客』という表現を使う。


「……違うな」


「貴様! そんな嘘が通用するとでも思っているのか!」


 アゲハの返答に、セルが声を荒げる。

 それもそうだろう。

 この混戦の中、自陣にいる見知らぬ人物は、敵軍のスパイ以外あり得ない。

 ここが街中であれば、逃げ遅れた市民という可能性も無くはないが、しかしここは草原。その可能性は皆無に等しい。

 この場にいる兵士の誰もが、彼らをスパイだと思っているだろう。


……だが違う。


「ちっ……なら、どうしたら信じるんだ? どうせ、何を言っても信じないだろう?」


一度舌打ちをして、諦めたように……いや、呆れたようにそう言うアゲハ。


「というかお前ら、俺らの相手してていいのか? 敵、もっと攻めてくるぞ」


 そして挑発。


「……!」


 アゲハの小馬鹿にした言葉に、セルは反射的に剣を振り上げる。


「おい待て。俺を責めるのはお門違いだ。俺らの相手を勝手にしているお前らが悪い」


「くっ! 貴様、さっきから聞いていたら--」


 怒りのままに剣を振り下ろそうとするセルに、クロードが待ったをかける。


「待てセル。確かにそうだ。こいつらがスパイでは無いのなら、時間の無駄だ。さっさと指揮に戻るぞ」


「何を言っているのだクロード! こやつらが異物なのは間違いないだろう!? ならば先に排除すべきだ!」


「だが、その異物は今捕らえている。術の類いの気配も感じられない。ならば今は無害だ。無視していい。異物の処理は、全てが済んだ後だ」


 クロードはそう言うと、アゲハ達の見張りを近くにいた兵士に任せ、先程までいた位置へと戻っていく。


「……やはり貴様は嫌いだ」


「嫌いで結構だ」


 剣を納めて歩く彼の背中にセルは呟くと、クロードは呆れたように返した。

 ……そのやりとりを聞いていたアゲハは、不気味に口角を上げていたのだが。


***


 拮抗している。


 何か一手。何か相手軍の統率を乱すことができる一手があれば……。

 クロードはその一手を模索していた。だがしかし、そんな都合良くいく策など思いつかなかった。


「クソ……どうすればいいのだ」


 王より、軍の全指揮権を任されている彼は苦悩していた。

 この戦に敗北すれば、セテルメント国は敵国に呑みこまれることになる。

 それは……それだけは絶対に避けなければならない。


「なあ、あんた。クロードさん……だっけ?」


「……なんだアゲハ」


 思考を巡らせているクロードに、問い声がかかる。アゲハだ。


「手を貸そうか」


「……?」


 藪から棒にそう提案してきた彼に、クロードは首をひねる。


「向こうの頭を獲れば、この場は凌げられるんだろう?」


「……そうだが」


「なら、俺達がそいつを殺してやろう」


 アゲハの言葉に、クロードは『戯れ言を……』と言って彼らの方を向き、返答する。


「お前の妄言が可能だとしても、貴様らが誰か分からない現状、目の届く範囲にいてもらわねばならぬからな……ダメだ」


 クロードは尤もな理由で、アゲハからの提案を拒否する。


「目の届く範囲……なら?」


「……なに?」


 アゲハの意味深なその言葉に、クロードは右眉を上げて返す。


「目の届く範囲……ここから殺すのであれば、文句無いだろう?」


「どういう意味だ?」


「そのまんまの意味だよ。俺達は、ここから奴を殺す。それならお前は見張れる」


「しかし貴様らからは魔力を感じられない。それなのにどう殺すというのだ?」


 クロードがそう聞くと、ここで初めて女の方、クロハが声を出す。

 少し弱った、少女の声。


「そこの……ケースの中のやつで」


 クロハは視線で、冴えない兵士が保管している大きなケースをさす。

 クロードは首をひねりながら、おそるおそるケースの方に行って、開ける。

 そこには--


「なんだこれは……。こんなものでここから奴を殺せるのか?」


「ん……殺せる」


「俺達ならな」


 --そこには、黒いアルミニウム合金のフレームと、ステンレス製のフローディングバレルが眩しく光り、ストレートストックが特徴的な狙撃銃、『L96A1』が収納されていた。


アゲハと、そしてクロハは断言した。

『殺せる』と。


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