猫と狐
中央総合演習より一週間近く過ぎた頃。特別休暇期間中の女子高等騎士学校エイリス分舎は、変わらず緩やかな空気に包まれていた。
しかしながら、その中で例外的に緊迫した空気を醸し出す場所があった。午前の学寮の一室。サヤとマリナとフィーネの三人部屋。
「本当に……申し訳ございませんでしたっ!」
ござの敷かれた部屋の中心で、サヤがそう謝罪しながら粛々と土下座する。サヤの前には、ふたりの同居人が立ち、跪く彼女を見下ろす。
マリナ・ブライス。その表情には怒気が満ちている。
フィーネ・フォン・リスト。表情こそ普段の涼やかな笑顔だが、凄まじい圧を感じさせる。
「本当に酷いよ、サヤ! 私とした約束のこと忘れるなんて……!」
マリナは声に怒りを滲ませながらサヤに言葉をぶつける。彼女の怒りの原因は、サヤと行った約束を蔑ろにされたが故。
中央総合演習が行われる前、マリナはサヤとグルワンベリエフ侯立歌劇団のエイリス公演に行く約束をしていた。
国内で最も著名な歌劇団が、辺境のエイリス地区にて興行する貴重な機会。それをサヤとふたりで観に行くことは、マリナにとっては中央総合演習という一大行事を終えた後の楽しみであり、演習を乗り切る最大のモチベーションとなっていた。
その日取りは、中央総合演習が終了して二週間後の休暇日。つまりは来週であったが、同じ日にサヤはフィーネとも公演を見に行く約束をしていたことを、マリナは今朝方知った。
朝食後の時間、何気なくサヤに来週のエイリス公演についての話をしていたら、フィーネから自分も同じ日にサヤと観劇する約束をしていると言われた。
マリナにとってはまさに青天の霹靂。困惑してサヤに問うと、自分がエイリス公演を一緒に見に行く約束をした同じ日に、フィーネからも誘われて承諾したという。なお、マリナとフィーネの観劇のお誘いは同じ日であったことは、フィーネに対する承諾後に気付いたという。
サヤ本人は三人で観に行こうねとへにゃへにゃ笑っていたのであるが――マリナは激怒した。
最大の楽しみに水を差されたことと、自分とふたりで出かける約束の上から平然とフィーネとも出かけようとするその軽さと、全くそれを気にも留めていないサヤのお気楽極楽さに、マリナは激怒した。
憤激の赴くままにサヤに詰め寄り、怒りの言葉をぶつけ、怒鳴りつけ、サヤが土下座して謝る今の状況に至る。
フィーネもサヤにマリナと二股を掛けられたことを知らなかったようで、マリナに問い詰められているサヤに対して助け船を出すどころか一切の言葉を発せず、ただ普段通りの笑顔で――しかしながら、かつて無いほどの圧を放ちながら彼女が土下座するのを眺めていた。
「ごめんってば、マリナー!」
マリナの言葉を受けて、サヤは腰を上げて膝立ちになりながら拝み倒すように謝る。
「もう……知らない!」
そう言いながらマリナはぷいっとサヤから目を逸らす。
激情に任せて散々に言葉をぶつけた今のマリナは、ある程度の冷静さを取り戻していた。冷静さを取り戻したマリナの心の内には、まだサヤに対する怒りはあるものの、若干の気まずさも存在している。
ずっと楽しみにしていたグルワンベリエフ侯立歌劇団公演にフィーネとダブルブッキングされていたことには怒りを覚えるとは言えども、サヤと一緒に観劇に行きたいという気持ちは変わらなかった。
(はぁ……まあ、けど行くとしたらフィーネと一緒よね……)
約束通りサヤと一緒に行くことを考えてみて、マリナは内心ため息をつく。
サヤの性格上、自分かフィーネのどちらかを断るという選択は決してしないであろう。しかしながら、サヤとふたりきりで観劇に行くことに対する諦念はあれど、その選択を想定した時には自分の内には抵抗感が殆ど無かった。
散々怒鳴り散らして気が落ち着いたということもあるが、自分の中ではフィーネと三人で行くことを厭うような気持ちは存在していない。フィーネは二年近くの同居人であり、サヤに次いで親しい友人。ふたりとも同じ公演を観に行くとサヤと約束してしまった以上、彼女を蔑ろにするという選択はむしろしたくないという思いまである。
最終的に自分とサヤとフィーネの三人で歌劇を観に行くことになるだろうし、それについて異を唱えるつもりもない。
だが、いずれにしろ、散々怒鳴った自分からそれを言い出すのはどうなのかという気まずさがマリナにはあった。
「フィーネもごめん!」
そんなマリナの内心を知らないサヤは、次いでフィーネの方にも手を合わせて謝罪の意を示す。サヤの言葉を受けたフィーネは膝を折ってサヤに目線を合わせて言った。
「うーん……わたしはサヤのこと、許してあげてもいいかな?」
フィーネは唇の下に右手の人差し指を添えて、首を少し傾げながら言った。その言葉を聞いて、サヤの表情が安心したかのようにぱっと明るくなった。
「め、女神様~!」
「きゃっ」
「なっ!?」
サヤがフィーネの腰に抱きつく。おそらく他意がない自然な動作であろうが、その行動にマリナの苛立ちが少しばかり戻ってきた。それに加えてフィーネもどことなく嬉しそうだし。
「ちょっとサヤ、フィーネにくっつかない!」
「おっとと、ごめんごめん」
マリナに叱られてサヤはフィーネから身体を離す。叱られながらも、その声からマリナの激怒が収まったことを感じ取ったサヤはへにゃっと笑いながらござの上にあぐらをかいた。
「はぁ……全く、サヤは……」
サヤが座り直すのに合わせて、マリナもため息をつきながらござに正座をする。フィーネもまた、ござの脇に設えられていたソファの肘掛けに腰を下ろす。お叱りモードは解除され、話は仕切り直しとなる。
「けど、フィーネ、いいの?」
マリナはフィーネに問うた。自分がサヤに詰め寄っていた時、フィーネは強い圧を発していてかなり怒っていると思っていたが、案外にあっさりとサヤを許すと切り出していた。二年近くずっと一緒にいるが、やはり彼女の勘所がよくわからない。
「うん、サヤの言う通り、三人で行くのも悪くないかなって」
フィーネの考えは自分と同じく、最終的には三人で観劇に行くというものであり、それを言葉として出してくれたのはマリナにとって助け船であった。都合が良い。
「……フィーネがそう言うのなら、私もそれでいいわ。サヤには散々怒ったし、私も許してあげる」
しかしながら、サヤに対して素直に許しを示すことも何となく悔しいので、少しばかり誤魔化しを入れながらマリナは言った
「マリナ~、良かった~!」
「いいの……いや、よくないのだけど、まあ、意地張っていても仕方ないし」
その言葉を聞いたサヤは安心しきった笑顔を見せて、マリナも呆れたような笑みを返す。一方でフィーネも笑ってはいるのであるが、その顔には悪戯するような気色が混じっていた。
「ふふっ、けどサヤ、私は許してあげるのに条件があるよ」
「え、条件って?」
サヤに問われると、フィーネは細く長い脚を組みながら言った。
「うん。公演の前に、サヤとマリナと私の三人で遊びに行こう? 行き先とかの計画はサヤが作って、そこで私達を満足させてくれたら許してあげる」
そう言いながらフィーネはくすりと笑った。
「あー……それいいかも。私もフィーネに賛成ー」
そしてその提案に、マリナは意地悪げに同調する。三人で行くことは是認したといえども、サヤに自分の感情を振り回されたのだから、何らかの形でサヤにリカバリーさせたいという思いがあった故に。
フィーネの提案とマリナの賛同を受けて、サヤは若干自信なさそうに言った。
「そっかー……うん、わかった。で、もし満足できなかったら?」
「うーん、抹殺かな?」
サヤに対してフィーネは涼やかな笑顔のまま言い放つ。
「抹殺って……」
フィーネのさらりと放った物騒な発言に対し、マリナは呆れたように呟く。しかしながら、その言葉は冗談めいていて、どこか冗談と思えない凄みがあるようにも感じられた。
「抹殺かー……あはは。が、頑張るね」
そして同じようにサヤも感じていたのか、返事をする彼女の笑顔は若干引きつっていた。
*
「――というわけで、イト様に相談しに参った次第でございまするよ……」
午後。フィーネとマリナからの許しを得る条件として、三人でのお出かけプランを作るように科せられたサヤは、イトとカティの部屋を訪れる。
生まれてこの方十七年間をほぼ剣と姉のことしか考えてこなかったサヤには、彼女たちから求められた条件は実に困難なものと捉えられていた。
ふたりをどこに連れて行けば満足してもらえるだろうか。わからない。特にマリナの場合は王都からエイリス地区に来たばかりの頃に、自分が知っているエイリス地区のスポットは一通り紹介しきっていたため、同じような場所に連れて行っても満足してもらえないだろうと予測できるため、行き先の選定候補すら浮かばない。
このような状況下で自分であれこれと考えるよりも、流行物好きな面があり、度々小物やら新しい着物やらを買っているイトに指南してもらう方が妥当だろうという判断をサヤは下した。
斯様な事情をサヤは一通り話すと、テーブルの向かい側に座るイトは苦笑して言った。
「あはは……自業自得だね、サヤちゃん」
「そこは『あはは……災難だったね、サヤちゃん』と言うべきでは!?」
サヤが突っ込みを入れるように言うと、イトは困ったように隣に座るカティに視線を送りながら言った。
「いや、だって……ね、カティちゃん」
「うん。自業自得」
「カティもか!? カティもそう思うのか!?」
同席するカティにまで自業自得認定されて、サヤは不満げに言った。
一応は、カティも最近はマリナと体術の訓練で一緒に過ごす時間が多いため、何か外出先選びのヒントを貰えるかもしれないという期待を以て同席を頼んだのであるが、得られたのは辛辣な評価であった。
「うー、イトもカティもわたしに厳しい! マリナもフィーネも、わたしが最初に言った通り三人で歌劇観に行くことでいいって言ったのに、何であんなに怒ったのかなー……」
「はぁ……サヤちゃん、本当に気付いていないんだ……」
口を尖らせるサヤに対し、イトは頭を抱えるようにため息をついた。しかしながらサヤは彼女の態度の理由がわからずに首を傾げる。
「ほえ? イト、どしたの?」
「ううん、何でも無い。サヤちゃんがマリナちゃんとフィーネちゃんのふたりに殺されなくてよかったなって」
「何でも無くないよ、イト! 何その怖すぎる感想!?」
「サヤは鈍感過ぎ。鈍感人」
「ドンカニストって何さ、カティ……まあ、それはそれとして、イト、どこか三人で出かけるのに良い場所を紹介して頂きたく……」
恐ろしげなイトの感想と、よくわからないカティの表現をひとまず置いておいて、サヤは本題を切り出す。それを受けてイトは頷いた。
「うん、サヤちゃん、そういうことなら私に任せて!」
そう力強く言うとはイトは立ち上がり、書棚から幾つかの冊子を取り出してテーブルの上にどさりと置いた。イトが持ってきたのは、政庁や騎士団の広報誌等の公的刊行物から民間出版されている雑誌まで種々様々。
「まずは新しい情報の収集だよ、情報収集」
「イトって色んなの読んでるんだねー」
サヤは手を伸ばして手近な雑誌を取り開く。サヤが手にしたのは近衛騎士団出版局発行の総合誌。警察局の取り扱う事件の報告や、教育局による騎士学校紹介、医療局による応急処置指南など、騎士階級の興味を惹く記事が複数組まれている。
「うへー、“脚食みジャック”ってまだ捕まってないんだー…」
サヤが適当に開いたページには、王都を震撼させている連続殺人鬼“脚食みジャック”に関する警察局の報告記事。被害者の片脚を持ち去り、残った脚には食いちぎったような痕跡を残す猟奇殺人犯の話題は、王都より離れた最北辺境のエイリスにも伝わっている。
サヤの開いた記事には新たに認定された十七件目の犯行に対する警察局の見解発表や、防犯対策に対する内容。興味を持ったサヤは思わず記事に目を落とす。
「サヤちゃん、本題から逸れてない?」
「あっ、そっか、ごめんごめん」
イトから声を掛けられると、サヤは決まりが悪そうにへにゃりと笑って近衛騎士団刊行誌を戻すと、イトはテーベルの上にまた別の雑誌を開いた。こちらは王都の民間商会が発行している雑誌であり、上流平民や騎士階級に属する若年女性向けの小洒落た雰囲気の誌面であった。
「ほら、見て、サヤちゃん。今、王都では紅茶がブームなんだって」
「へー、そうなんだ?」
イトが王都の紅茶店を特集する記事をサヤに指し示しながら続ける。誌面には取り上げられている喫茶店や専門店の外装や店内風景を描いたと思しい挿絵や、紅茶や菓子類のイラストが添えられており、華やかに彩られていた。
「紅茶は今の流行ってのもあるけど、元々王都の人たちに好まれているから、専門店に連れて行けばマリナちゃんもきっと喜ぶと思うよ」
「なるほどねー。けど紅茶専門店ってよく知らないなぁ……」
「そこでこのエイリス地区政庁発行の情報誌!」
サヤの言葉を聞くと、イトは待ってましたとばかりに新しい雑誌を取り出してテーブルの上に開いた。刊行日が中央総合演習より後の最新号。イトはその内容を既に把握しているようで、サヤは改めて彼女に好事家的な気風を感じた。
「王都の紅茶ブームに合わせて、地区政庁誌にもエイリスの紅茶店特集が組まれたんだ。見て見て」
「ほへー、どれどれ……うわっ、高いっ!」
記事に取り上げられている専門店の紅茶の値段を見てサヤはぎょっとする。
高い。ティーカップ一杯でこの値段はとても高い。同じ値段で自分が普段飲んでいる緑茶十数杯は飲めるくらいの金額が、そこには記されていた。
「……あっ、そう言えば、フィリパが中心街に安くて美味しいうどん屋が新しくできたって言ってたから、そこに行くのは――」
「サヤちゃん、それは本気でやめた方がいいよ」
「うん、うん」
紅茶の高さを見て別の話題へ逃避しようとしたが、言葉を言い終える前にすぐにイトに引き戻される。その上、カティが深刻な顔をして二回頷くおまけつき。
「カティが二回頷いてるからうどん屋はマジでやめた方がいいね……けど、専門店の紅茶ってこんなに高いんだ」
「お手頃価格のお店もあるけど、フィーネちゃんと行くなら、やっぱりそれなりに高級なお店がいいと思って。なんたってリスト卿のお孫さんだしね。それに高いと言っても、王都のお店では平均的な金額くらいなんだよ」
「そんなものかー……」
「そんなものだよ」
紅茶に対する知識の無いサヤにとってはその値段の適否を判断することは能わず、イトがそう言うのであればそうなのだろうと納得せざるを得ない。
それに高いといえども支出不可な金額という訳でもなく、それでマリナとフィーネを喜ばせられるのであればむしろ安いものである。
「うん、イトがそう言うなら間違いないか……とりあえず紅茶店に行くのは確定として……どこのお店に行こうかな」
「それだったら、このお店はどうかな? 王都の人気店の支店なんだけど――」
イトは特集記事の紅茶店紹介を指さしながら、サヤにレクチャーする。今まで紅茶には全く以て興味がなかったのであるが、イトは中々の説明上手で何だか紅茶を飲みたい気分になってくる。
最初は不安しかなかったマリナとフィーネの許しを得るためのプラン作りも、興が乗って楽しくなってくる。
「そだ、イト、紅茶店以外にもマリナとフィーネが喜びそうなところ知っていたら教えてほしいんだけど、よい?」
「うん、いいよ。それなら、このお店の近くには――」
イトは地区政庁広報誌のページをめくり、様々な新規店舗の記事を指し示す。別の雑誌を取り出して、遊戯場や商家の新商品についてサヤに紹介をする。
「――そんなのができたんだ? あっ、ここに行ってみるのはどうかな? 楽しそう」
「うーん、どうだろう? フィーネちゃんが前に言ってたんだけどね――」
色々な雑誌を開いたり閉じたりしながら、ああでもないこうでもないとサヤとイトが盛り上がる。一方でカティはいつの間にか居眠りをしていた。
*
「じゃ、ありがとね、イト、カティ。マジで助かったー!」
「頑張ってね、サヤちゃん」
数時間後、マリナとフィーネとのお出かけプランをまとめ終えて退室するサヤを、イトはカティと共に見送る。
プラン自体はおそらく完璧。マリナもフィーネも気に入るであろう。問題は鈍感女王のサヤが当日にふたりに対して何かやらかさないかどうかであるが、こればかりは事前にどうしようもできない。
自分ができる人事は尽くしたのだから、後は天命もといサヤからの報告待ちである。
「サヤちゃん、上手くいくといいね」
「うん。きっと大変。マリナもフィーネも、気難しい」
「そうだねー……サヤちゃん抜きでも、マリナちゃんとフィーネちゃん、たまにふたりで喧嘩するし」
イトが苦笑しながら言った。とはいえど、マリナとフィーネのそれは深刻なものでは無く、仲が良いからこそするような微笑ましいじゃれ合いのようなもの。その形も、マリナが一方的に怒って、フィーネはからかい半分で対応しているような流れが殆どである。
「うん。猫と狐の戦い」
「ぶふぅ!」
カティの比喩を聞いて、イトは思わず噴き出した。彼女の言うことが感覚的に理解できたが、イトは一応問うてみる。
「……それってマリナちゃんが猫でフィーネちゃんが狐ってこと?」
「うん。あのふたり、猫と狐の化かし合いみたい。しかも、狐の方が格上」
「~~~~! 酷い、カティちゃん……!」
カティの更なる比喩を受けて、イトは笑いを堪える。
確かに怒ったマリナはキシャーと威嚇する猫を彷彿させるし、切れ長で釣り目のフィーネは動物に例えるとしたらまさに狐であろう。
その上、猫と狐は極東民族の伝承では人間を化かす不思議な力を持つ動物とされているため、あのふたりの喧嘩を猫と狐の化かし合いと例えるのは言い得て妙である。加えて、怒る猫マリナをからかい半分で対応する狐フィーネの方が、カティの言う通り化かし合いでは格上であろう。
「それ、ふたりの前で言っちゃダメだからね?」
「うん」
カティの比喩はイトの笑いのツボを突いたが、その例えはフィーネはともかくとしてマリナからは間違いなくお叱りを受けるから口外はできないであろう。狐はともかく猫の方はきっと――そう思う中で、つと、イトは心に引っかかるものを覚えた。
猫。そう、カティは無類の猫好きであり。
「……ところで、カティちゃん、猫好きだよね?」
「うん、ねこ好き」
質問。肯定。
そして、カティは猫に例えたマリナと中央総合演習より少し前から体術を教えるために一緒にいる時間が増えており。
「あと、マリナちゃんと言えばさ……カティちゃん、今も体術を教えてるの?」
「うん、たまに。マリナ、今も頑張ってる」
再質問。再肯定。
その話をするカティは、少し嬉しそうに見えた。イトの胸中で何かがざわつく。
「……ねえ、カティちゃん、私達も今度遊びに行こっか、ふたりきりで!」
「うん? うん」
イトはカティの右手を両手で掴みながら強めに言った。どこか必死そうなイトに対して、カティは肯定しながらも不思議そうに首を傾げていた。
(続)




