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騎士候補生少女譚  作者: 柳生 劣情(文章)&春畑 晴燕(設定)
第七章 少女たちの蒼穹
32/71

狼煙/開戦

 中央総合演習当日。その日の空は、雲一つ無い晴天であった。

「でやーー!! はぁーー!!」

 温かな日差しが降り注ぐネルクスタ大平原の一角で、長身赤髪の少女が力強い声を上げる。

 ダイアナ・モロー。エイリス分舎所属の騎士候補生。

 彼女は自身の背を超すハルバードを大声に合わせて右へ左へと薙ぎ振るう。鈍い風切り音を放つその振りは良く言えば豪快、表現に公平を期すならば大雑把。

「よっ、ほいっと」

 ダイアナの対手はサヤ。演習開始前の時間を使った、準備運動を兼ねた仲間内での軽い手合わせ。

 サヤは年季の入った打刀を正眼に構えながら、ひらりひらりと軽い調子でダイアナの薙ぎ払いを躱していく。

「――せやっ!」

 ダイアナは先ほどのまでの長大な掛け声とは異なる、短く切った声を発する。

 それと同時に放たれた攻撃も、先ほどまでの大振り連撃とは異なる速度をつけた真っ直ぐな突き。

「おっと……!」

 ダイアナが放つ一閃を、サヤは後ろへと飛び退いてすんでの所で避ける。

 しかし、攻撃から逃れたにも関わらず、サヤの表情は攻撃前よりも警戒の色が濃くなっていた。

 ダイアナにより突き出されたハルバードの鉤爪は上方を向いており、自身の持つ刀は鉤爪の位置より前に来ていた。

「もらった!」

 ダイアナはくるりとハルバードの柄を回して、鉤爪を内側へと向ける。柄を引き、鉤爪をサヤの刀の峰に掛けようと試み動く。

 しかし。

「よっと」

 しかしサヤは即座に切っ先を下げて腕を引き、ハルバートの鉤爪の外側に身体を捻りながら左足を踏み込ませ、左手一本で持った刀をダイアナに向けて突き放つ。

「のわっ!?」

 サヤの攻勢にダイアナは思わずたじろぐ。彼女の胸元寸前で、サヤの刀の切っ先が止まっていた。

 刀を突き出すサヤの左手は伸びきっておらず、意図的に止めた攻撃であることを示していた。サヤが腕を止めていなければ、間違いなく自身の胸が穿たれていたことをダイアナは認識する。

「はい、わたしの勝ち~」

 ダイアナに切っ先を突きつけながら、サヤはへにゃっと笑う。

 その顔と声には勝者であることを誇ることなく、敗者をあざ笑う気色もなく。ただ、楽しい手合わせができたことへの喜びと幼なじみへのからかいに依る年相応の少女らしい笑顔。

「まーた、負けたー!」 

 故にダイアナも口では悔しそうにいながらも、表情は楽しげで。

「刀引っかけ作戦、失敗だなー。引っかかると思ったんだけど」

「あはは、普段よりもあんなに雑にぶん回してたら何か企んでるのバレるってば」

 サヤの指摘を受けて、ダイアナはハルバードを肩に掛けながら少し気恥ずかしげに言った。

「なるほど……そういうことに気づけるなんて相変わらずすごいな、サヤリーンは」

「サヤリーンってなにさ? 全く……折角だし、ダイアナをあのままぶっ刺しておけば良かったかな」

 納刀しながらにへら顔で冗談半分に言うサヤに、ダイアナは本気半分真顔になって応答する。

「いやいやいや、死ぬでしょ?」

「大丈夫大丈夫、怪我しないようにできてるから。多分」

 中央総合演習は実戦形式であり、得物は訓練用のものでは無く各々の家から持ち出した、或いは騎士学校側が用意した本物の武具を用いる。

 先ほどまで打ち合っていたダイアナのハルバードやサヤの刀も、実戦の場では相手の身体を容赦なく切り裂き、その命を断つためのもの。

 しかしながら、そのような武具を用いても大きな怪我を施さないよう、様々な措置が行われている。

鈍化魔術(どんかまじゅつ)だっけ。本当に効くのかな……」

 ダイアナが訝しむように言った。

 中央総合演習が行われるのは、鷹鳴城より南に下った地点。

 演習場所となる平原には、現在のレゼ国で最も規模が大きいとされる魔術師団“白蛇(はくじゃ)魔道騎士団”により鈍化魔術の巨大魔方陣が敷設されているという。

 鈍化魔術とは、武具や魔術の殺傷力を減衰することを目的とした魔術。鈍化魔術の効力を受けた刀剣は人体を切り裂くことは能わず、火炎は火傷を負わすことを叶わず。

 その鈍化魔術の効力と演習時に着用する防御魔術繊維が織り込まれた騎士制服により、訓練用ではない本物の武具や魔術を用いても死者や重傷者を出さないようにする方策が中央総合演習では施されている。

 中央総合演習はあくまでも中央本舎の行事であり、その主役は将来の騎士団を担う上士の娘達たる中央本舎の騎士候補生達であることを考慮したが故の方式。

 令嬢達への配慮により、中央総合演習には鈍化魔術を講じる金鷲魔道騎士団の他にも、脱落者や怪我人が出た時の搬送や対応のために地元のタルティエ地区騎士団及びダクレイ地区騎士団の騎士達や演習両校の教官等が演習場に配置されているなど多くの騎士団が中央総合演習の運営に携わることとなっている。

 複数の騎士団が招集される中央総合演習の規模は国王も観覧するに相応しい――尤も、今回は州刺史対応と重なったために不在ではあるが――国家的行事としての様相を呈することとなっていた。

「ま、本番前の準備運動はこのくらいにして、イトたちの所へ戻ろっか」

「んだね。それはそれとしてさ、サヤ」

「ん?」

 ぐっと背筋を伸ばすサヤを見ながら、ダイアナは少しばかり遠慮するような調子で尋ねた。

「……もしかして、どこか具合、悪かったりする?」

「何故にそう思う?」

 サヤは変わらずへにゃっとした笑顔だが、ダイナの言葉を受けて少しだけ表情が強ばる。

「なんかさ、さっきの打ち合いでいつもより剣の反応が鈍かったような……?」

「……やっぱりわかる? アレなの」

 サヤは少しばかり困ったような顔になりながら、視線を下方に向ける。彼女の仕草に、ダイアナはサヤが言わんとしていることを察した。

「あー、アレか」

「うん、アレ」

 サヤは苦笑する。

 昨日より、下腹部が痛む。内臓を絞られるような痛み。

 一応、昨日は鍛錬は軽いもののみで身体を休めることを重視したが故に多少はましになったとはいえど、気を張らないと剣が鈍るという自覚を持つ程度の痛みが未だにある。

 中央総合演習当日という大事な日に限って来るのだから、自分の身体を恨みたくなってしまう。

「大丈夫?」

「うーん、まあ、戦えないこともないかな? わたし、あんまり重い方じゃないし」

「……そっか。サヤがそういうなら、あたしは何も言わんけど」

 サヤに対する心配と配慮が綯い交ぜになったダイアナの言葉に、サヤは気にしないでと示すかのように冗談っぽく言った。

「あはは、まあ、重い方じゃないと言っても痛いのは変わらないし。全く、フィーネが羨ましいよ」

「すごいよね、フィーネ。全然そういう素振り見せないし。めっちゃ軽いのかな、あの子」

 ダイアナが感嘆するかのように言った。

 フィーネは常に涼やかに微笑んでおり、笑顔以外の表情変化をサヤもダイアナも未だに見たことがない。

 一年以上同室で暮らしているサヤであれば、例えば同じ笑顔でも圧のようなものを感じるなど時折は彼女の気持ちを読み取れることもあるが、未だに彼女の真意を測りきれないことの方が多いのが現状である。況んや学寮では別室のダイアナをや。

「フィーネ本人は重い方って言ってるけどさ? どうなんだろうね?」

「う、うそくせー……」

「やっぱりそう思うかー……」

 苦笑するダイアナを見て、サヤも同意する。

 崩すことのない笑顔の中でも感情を読み取れることはあるが、その表情から痛痒の色を読み取れたことは、少なくともサヤの記憶にはない。

 重い方というフィーネの自己申告をダイアナが疑わしいと思うのは無理はないなとサヤは思わざるを得なかった。

「重い方っていうのは、イトみたいなのを言うと思うし……」

「イトかぁ……確かに、イトはねえ……」

 ダイアナが小さく呟くと、サヤは昨年の山岳訓練を思い出す。

 イトは重い。とかく重い。山岳訓練以降も極東武術科の教練で体調不良になっており、医務室に担いでいったことは幾度もあった。

 肺に持病を持っていることもあり、イトは体調面では非常に不安なものを抱えている。

 そのハンディにもかかわらず、彼女はずば抜けた薙刀の実力と座学を含めた騎士教育に対するひたむきな努力により、中央総合演習におけるエイリス分舎の総大将役、即ち、今期の首席の座を獲得するに至った。

 そんなイトに対して、友人であり同じ騎士候補生として、サヤはある種の敬意を抱いてしまう。

 中央総合演習は自分にとっては中央本舎の強者と刃を交える機会であり、イトにとっては晴れの舞台でもある。だから。

「わたしたちが支えてやらないとね。総大将役に倒れられたら困るし」

「うん。頑張らないとな、サヤリンペン!」

「わたしの名前の進化方向おかしくない!?」

 ダイアナのおかしな呼び方に対するサヤの抗議が、日中の平原に響いた。


    *


 中央総合演習が行われるネルクスタ大平原の南方。

 そこには防壁跡などの五百年前の遺構が未だに残り、平原といえども小さな林も乱立する。その他、真新しい鉄柱も平原内に点在していた。

 演習陣地は東西に分かれており、西側は中央本舎、東側はエイリス分舎の騎士候補生たちが布陣する。

 両者とも部隊は歩兵部隊、騎兵部隊、魔術部隊の三つに分けられており、同一兵種同士での戦いが行われる。

 勝敗は撃破候補生の員数に基づき、撃破判定は平原内に配備された審判員兼怪我人救護役の騎士や教官の判断に依り、総大将役を撃破した場合は大幅な加点が行われる。演習終了は片方が一定の敗退人数を出す、または一定時間の経過を基準に運営側が判断――というのが基本的なルールである。

 そして、中央総合演習の主役たる騎士候補生達は普段とは異なる装いをすることとなる。青墨色を基調とした騎士制服とは異なる、演習正装という専用服。

 サヤ達エイリス分舎側の演習正装は白を基調とした上衣に黒のスカート。上衣の右肩から左胸には銀色の飾緒が設えられるのが目立つ、儀礼色の強い意匠ではあるが、通常の騎士制服と同等の防御魔術繊維が用いられている。一方で相手側の中央本舎の演習正装は、黒の上衣に白スカート、金色の飾緒とエイリス分舎側とは対照的な色合いとなる。

 斯様な白を基調とした演習正装を纏った騎士候補生たちが集う、平原東部の歩兵陣地。

 ダイアナとの準備運動を終えて戻り演習正装に着替えたサヤは、着心地を確かめるように右肩をぐるぐると軽く回す。

(意外と動きやすい……かな……?)

 飾緒の付けられた儀礼的な衣服であるが、着心地は悪くない。むしろ普段の騎士制服よりも良いとまで思える。

 考えてみるに、本来的には中央本舎の騎士候補生のために作られたものであるのだから、演習正装には上質な素材が用いられているのだろうと、サヤはひとり思い至る。

「似合ってるね、サヤ」

「あっ、フィーネ」

 フィーネに呼び止められ、サヤは腕回しを中断して笑いかけながら言った。

「いやー、わたしよりフィーネの方が似合ってると思うよ。雰囲気あるもん」

 フィーネも同じ演習正装を纏っていたが、彼女は元より典雅な空気を漂わせているために非常に似付かわしい姿であった。

 服に着られているような鏡で見た自分の正装姿には無い気品は、流石は由緒あるリスト家の令嬢であるとサヤは得心する。

「ふふっ、ありがとう。嬉しい」

 サヤの言葉に、フィーネはくすりと笑う。心なしか、普段よりも嬉しそうな笑顔に見えた。

 その彼女の腰に長剣が帯びられていることに気付いたサヤは、彼女に尋ねる。

「フィーネは歩兵部隊(こっち)なんだ?」

「うん。魔術より剣で戦おうかなって歩兵の方を志願したの」

 彼女は剣術と魔術の二分野専攻。どちらも優秀な成績を修めているため、魔術部隊に配属される可能性も聞いてはいたが、結果は本人希望の歩兵部隊。

 フィーネが歩兵部隊になったことで、同室ではマリナだけが歩兵部隊とは離れた場所に敷かれた魔術部隊の陣地に配備されることになる。

「わざわざ志願したんだ? どうして?」

「うーん、今日は愛刀の“ムメイ剣”が血に飢えているから?」

「それはやめい!」

 フィーネの答えを受けて、サヤは恥ずかしさを覆い隠すように強めに咎める。

 しかしフィーネは全く動じず、サヤの腰にある使い込まれた刀に目を遣りながら続けた。

「でも持ってきているでしょ、“ムメイ剣”」

「確かに今日は持ってきてますけど!」

 フィーネの言う“ムメイ剣”とは、サヤの愛刀を示す言葉。かつては祖父が用いた刀のひとつであり、彼の死後にサヤが実家から持ち出したもの。

 サヤが幼い時、祖父にその刀の名前を尋ねた際に無銘であると教えられたのであるが、それを長らく“ムメイ”という名前の刀だと勘違いしていた。そのことをある時に、無聊の慰めにと軽い気持ちでマリナとフィーネに話したのが運の尽き。

 以降、度々ふたりからネタにされるようになり、サヤの愛刀は“ムメイ剣”と彼女たちから勝手に命名されてしまった。

「ううっ……変なこと言わなきゃよかった……」

 サヤは愛刀の柄に手を置きながら、小さく言ってため息をついた。


    *


 ネルクスタ大平原演習場西側。中央本舎歩兵部隊陣地。

「カーターさん、騎兵部隊、魔術部隊ともに準備完了とのことです」

「ああ。そろそろ、か……」

 伝令役の騎士候補生から報告を受けたベアトリス・カーターは、刃を下に向けた槍を右手に持って直立したまま厳かに頷く。

 彼女の黒を基調とした演習正装は他の騎士候補生達とは異なり、総大将役をの示す金紐の肩章(エポーレット)が設えられていた。

「ご苦労。君も配置に付け」

「了解です!」

 伝令役を見送ると、ベアトリスは真っ直ぐに前を見据える。

 視線の先には、小さな林に朽ちた石壁、点在する鉄柱。雲一つ無い大空の下に広がる平原。この先には相手校であるエイリス分舎の陣地があるのであろう。

 一昨日の邂逅を、ベアトリスは思い起こす。

 エイリス分舎の総大将役を務めるという、極東系の騎士候補生イト。彼女の姓はヤマノイ。

 極東民族でヤマノイ姓と言えば、真っ先に想起するのは七年前の“ドレクスラーの獄”により没落した極東武門の棟梁である旧ヤマノイ家であり――近衛騎士団監察局に勤める叔母の伝手を頼りに彼女の素性を調べたところ、その跡取り娘であることを昨日に知った。

 だが、ベアトリスの興味を惹いたのは彼女が旧ヤマノイ家の娘であることよりも、同じく七年前に没落した薙刀の大家・ダイゼン家の長女の子であることにあった。

 ダイゼン家が代々家宝として所持していた薙刀“高砂(たかさご)”。

 エイリス騎士団全軍総裁であるジューコフ将軍が所持する、血を吸う薙刀“卒都婆小町(そとばこまち)”と同じく刀匠ヨシミツ・カンゼの作として伝わる名工品。

 ダイゼン家の末裔として薙刀術を習得したイトであれば、或いは――

「ダイゼン家の家宝“高砂”……叶うのであれば、是非ともこの目で見て、刃を交えたいものだな」

 手に携える薄青の刃をした槍に目を落としながら、鉄の少女の頬が僅かばかりに弛んだ。


    *


 同時刻。

 ネルクスタ大平原演習場東側。エイリス分舎歩兵部隊陣地。

「――みんな、準備はいい?」

 エイリス分舎総大将役を示す銀紐の肩章が設えられた演習礼装を纏ったイトが、緊張した面持ちで言った。

「大丈夫。わたしはいつでも」

 普段と変わらぬ涼やかな笑みでフィーネが応答した。

「うん……うん。いける」

 幾ばくかも不安を感じさせながらも、カティが言った。

「おうさ! 任せておいて!」

 自分を鼓舞するかのように、ダイアナが威勢良く言葉を放った。

「準備完了だよ。みんなも、いいよね?」

 腰に携えた刀の柄に手を置きながら、サヤはイトの緊張を解すようにへにゃっと笑って返し、他の騎士候補生達にも尋ねる。

 場にいる全員が頷き、首肯した。

「……では、総員配置についてください」

 イトの指示を受けて、切り込み役のサヤとカティとダイアナらは前衛へ向かい、フィーネは総大将護衛役としてイトの脇に控える。

 総大将護衛役はカティが強く希望していたものの、前衛の方が良いと判断したイトの説得を受けて渋々了承。先ほどの不安げな様子も、イトから離れるが故のもの。

 自分の判断といえど、イトは少しばかり心に疼くものが生じる。

「イト、騎兵部隊と魔術部隊も準備完了したって」

 サヤ達と共に配置に付いていくカティの姿を目で追う中で、フィーネから報告を受ける。

「うん、わかった――軍楽隊の皆さん、お願いします」

 イトの言葉を受けて、後背に控える軍楽隊がラッパを勇壮に鳴らす。

 ダクレイ地区騎士団所属の軍楽隊。西側に布陣する中央本舎にはタルティエ地区騎士団の軍楽隊が貸し出されている他、開戦狼煙を担当する工兵部隊もそれぞれの地区騎士団より貸し出されている。

 複数の騎士団より現役騎士たちが動員される状況を目の当たりにして、イトは中央総合演習の規模の大きさを改めて実感した。

 イトは目を閉じ、呼吸を整える。

 胸の鼓動は自分が思ったよりも静かで、落ち着いていて。

 深く息を吸い、吐き出し、そして瞼を開く。

 右手には、叔母より譲り受けたダイゼン家家宝の“高砂”。

 イトは“高砂”の鋼鉄の柄を振り上げて、再度大きく息を吸い、大声を発する。

「総員、進めーーーーーーっ!」

 号令を掛けながら、イトが“高砂”の刃を前へ振るって進軍の合図を送る。

 彼女の声に合わせてダクレイ地区騎士団の工兵部隊が開戦の狼煙を上げ、エイリス分舎の少女達は気勢を上げながら進軍をする。

 総大将役の号令が放たれた歩兵部隊の開戦狼煙を合図にして、騎兵部隊、魔術部隊の陣地からも――そして、同時に西側の中央本舎陣地からも開戦狼煙が複数放たれた。


    *


 狼煙が上がる。狼煙が上がる。

 狼煙が上がる。狼煙が上がる。

 無限に広がる蒼穹の下の平原で、少女達の鬨の声が谺した。


(続)

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