1/71
紅花
紅い花が、咲いていた。
わたしの目の前に紅い花が、咲いていた。
秋の月夜の下に咲く紅い花は、哭きたくなるほど、鮮やかで、美しく思えてしまって、わたしは瞼を閉じる。
「お姉ちゃん」
目を閉じながら、わたしはただひとり、小さく呟いた。
返事はない。答えはない。わたしの声以外は、風の音しか聞こえない。
「これで、よかったんだよね?」
愚問だった。
だってこれは、わたしが望んだことなのだから――
「ねえ、お姉ちゃん――」
目を開き、顔を上げ空を見る。
そこには、皓々と照らす満月だけが変わらず在り続けていた。
(序章 了)