カラスが喋った
僕:
あっ、カラスだ。可愛い。
カラス:
カーカー
僕:
いや、冷静に考えてみるとカラスって可愛いのかな……?
カラス:
カ……ちょっと、よろしいですか?
僕:
うわ、カラスが喋った
カラス:
いえ、そんなことはどうでもいいのです……それよりどうしてカラスが可愛くないと?
僕:
え、えーっと……だってゴミとか食べてるから……
カラス:
はぁ……
僕:
え、カラスにがっかりされてる!?
カラス:
これだから人間という輩は……今から私の言うことをよく聞きなさい
僕:
あっ、はい
カラス:
まず、貴方の弁は論理が成り立ってないのです
僕:
論理……ですか?
カラス:
そう、論理です。貴方は”ゴミを食べてる”から私が可愛くない、と仰るのですね?
僕:
はい、ゴミを食べてるのは可愛くないと思います
カラス:
では、貴方は今気になってる女性が居ますか?
僕:
え、ここでそんなことを言わないと駄目なんですか?
カラス:
居るか、居ないかだけでいいですから
僕:
……ま、まあ、そりゃ僕だって健康な成人男性ですから……す、好きな人の1人や2人いますとも!
カラス:
では、その今貴方が気になってる女性が、ゴミ置き場でゴミを漁っているとします
僕:
し、失礼な!彼女はそんなことしませんよ
カラス:
仮定の話ですから、ご安心を……はい、貴方の気になる女性がゴミを漁ってます。どう思います?
僕:
え……うーん……何か事情があるかもしれませんし、どうしてゴミを漁ってるのか尋ねないと……
カラス:
いえそうではなくて、どう思いますか?貴方の好きな女性がゴミを漁ってるんですよ?
僕:
そ、そりゃ嫌でしょ。止めてほしいです
カラス:
可愛いですか?
僕:
へっ?
カラス:
彼女、ゴミを漁ってるから可愛くないんじゃないですか?
僕:
いや!そんなことはありません!彼女はいつだって百合の花のように可憐で美しい!
カラス:
そういうことです
僕:
ん?ど、どういうことですか?
カラス:
貴方は今証明しましたよ――対象が可愛いことと、”対象がゴミを漁っていること”は全然関係ないってことをね
僕:
ほ、ほんとだ!確かにゴミを漁っていることと可愛さには何も関係がないのかも!
カラス:
そういうことです。つまり、”カラスは可愛い”っていうことでいいですね?
僕:
うーん……
カラス:
何か不満ですか?
僕:
いや、カラスさんの言ってることには少し穴があると思いますよ
カラス:
何でしょうか?
僕:
僕は由美ちゃんのことが好きです。
カラス:
えっと―――誰ですか?
僕:
あっ、僕の思い人です。会社の事務の人でして。25歳B型の乙女座で、趣味は軟式テニスです。
カラス:
そ、そうですか(ちょっと怖いかも……)
僕:
そして、カラスさんのことはそんなに好きじゃないんですね
カラス:
へ?
僕:
”好きな人ならちょっとくらい欠点があっても許せる”みたいなことだと思うんですよ
カラス:
……え、私のこと嫌いだったんですか?
僕:
つまり、由美ちゃんなら何してても可愛いです。しかし、由美ちゃんじゃない人がゴミを漁ってたとしたら、それは可愛くない気がします。
カラス:
……私だって可愛いですもん
僕:
つまり、カラスは可愛くないですよ。
カラス:
……ぐすん
僕:
あれ、泣いてます?
カラス:
人間、嫌いです
こうしてカラスは僕の元から飛び去っていった。
カラスは、次に生まれ変わったら、雀になりたいと思った。
カラスが喋った -終-