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天ヶ谷鏡哉 6

 ロイツェンシュテッド帝国の王宮地下深くにある魔導実験所。新たな魔物を召喚せんと実験を進めているデイガーの耳に、突如酷く楽しそうな笑い声が届いた。腹を抱えんばかりのその笑い声の持ち主は、恐らくウロだ。一体何がそんなにおかしいのかと、声が聞こえた休憩室の方へ様子を見に行くと、ウロは机の上に置いた大きめの水晶玉を見ながらひーひーと笑っていた。遠慮なく大声で笑っているのは、今この場に自分以外の人がいないからだろうか。いや、どうせこの男のことだから、周りに人がいようといまいと気にしないのだろう。

「一体何ごとですか」

 そう言いながらさり気なく水晶玉を覗いたデイガーだったが、特に気になるものは何も映っていない。

「あははははは! あーもう本当に面白すぎー!」

 未だに笑い続けているウロに怪訝な目を向ければ、ウロはデイガーを見上げてきた。

「なあに? デイガーくんも面白いと思う?」

「話が見えません。その水晶に何か面白いものでも映っていたんですか? そもそも、その水晶は何なんですか」

「あーこれ? 別に何ってことはないし、これが必要って訳じゃないんだけど、ほら、遠くのものを見るときに水晶玉使うとなんかそれっぽくない?」

「……はあ」

 いまいちウロの言っていることが理解できないが、この男を理解することなどそうできることではないので、デイガーは取り敢えずの相槌だけを打ってそれ以上問いただすような真似はしないことにした。ウロの様子から察するに、大笑いしていた原因についてデイガーに話す気はないのだろう。どうせまた、話せることは限られているから無理だと言われるのがオチだ。

 一方のウロは、やはり水晶玉を楽しそうに見つめている。デイガーには何も見えないのだが、ウロにはそこに映るものがはっきりと判るのだ。

「んふふふふ。いやぁ、ここでそんなことをしちゃうんだから、本当に面白い人だなぁ。なんでヒトの領分を超えてるって知った上でやっちゃうんだろうねぇ。ま、やろうと思ってやってる訳じゃないからなんだろうけど」

 デイガーには理解できない呟きを漏らした彼は、次いでデイガーの方を振り返ってにっこりと微笑んだ。いや、実際に微笑んだのが見えた訳ではない。彼は常のとおり仮面を被っているから、その表情など判らないのだ。だが、何故かデイガーには彼が微笑んだように思えた。

「喜ぶと良いよデイガーくん。お互いの禁忌のバランスがまた崩れたんだ。それも今回は大幅に向こうへ天秤が傾いたからねぇ。これなら僕、ものすっごいのを召喚するお手伝いができそうだよ」

 愉快そうにそう言ったウロが、立ち上がってデイガーの手を取る。そしてそのまま彼に手を引かれ、デイガーは再び実験室に向かうのだった。

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