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魔法魔術講座 6

 時は少し遡って、王宮に戻った王が少年と別れて来賓室に向かう途中のこと。国王は、隣を歩く宰相レクシリアのお小言を聞かされていた。

「国賓をお招きするのでしたら、今後は必ず事前にお知らせください。というか、以前もこのようなお話をさせて頂いた覚えがあるのですが」

「そうは言われても、明確に約束した訳ではなく、そちらの仕事が済んだら適当に尋ねて来てくれ、という程度の口約束だったしなぁ」

「言い訳はおやめください陛下。恐れながらこのレクシリア、思わず手が出てしまいそうになりました」

「今更何を言う。日頃からぺんぺんぺんぺんと軽々しく手を出しているではないか。脚が出ているときもある」

「時と場所は選んでおりますので」

 きっぱりと言ったレクシリアに、王が肩を竦める。

 確かにこの幼馴染の宰相は、基本的に二人きりでないときや公務中に敬語を外すことはない。時折、堪忍袋の緒が切れたときに罵詈雑言を吐き出すことはあるが。

「しかし、まさかヴェールゴール国王陛下をお招きだとは、思いもよりませんでした。他国の王陛下がいらっしゃったというのに、お迎えの準備もできていなければ、肝心の我が国の王陛下もいらっしゃらない、という最低極まりない状況に置かれた私の気持ちが、陛下にはお判りになりますか?」

「なんだか以前も似たような小言を聞いた覚えがあるなぁ」

「そうでしょうとも。あのときはシェンジェアン女王陛下でした。事前連絡もなく突然訪ねていらっしゃった女王陛下も女王陛下でしたが、恒常的に行方をくらましている王陛下も王陛下です」

 あれは確か二年ほど前のことだった。たまたま近くを通ったからと、前触れなくシェンジェアン王国のランファ王がグランデル王城を尋ねて来たことがあったのだ。慌てて彼女を来賓室に通したレクシリアが応対していると、国王を呼びに行った侍女が、国王陛下が行方不明ですと来賓室に駆けこんで来たのだったか。

 すぐさま結成された国王捕縛隊(グランデル中央騎士団の有志である)によって捕えられた王は、王城へと連行されたのだったが、その際にシェンジェアン王から言われたひとことを、レクシリアは今でも忘れられない。

『おやまあ、グランデルは随分平和なご様子。何よりなことねぇ』

 思い出しただけで、腹が立ってきた。勿論、シェンジェアン王に対してではない。自国の王に対してである。

「あの! シェンジェアン女王陛下の憐れむような顔を! 覚えておいでですか! 私がどれだけ屈辱的な思いをしたか……!」

 そりゃあまあ、自国の王の大層間抜けなところを見られてしまった訳だから、恥ずかしいことこの上ないだろう。だがしかし、張本人である王は別段気にしていないようだった。

「まあまあ、実際平和なのだから、良いではないか」

「あの言葉を額面通りに受け取る阿呆がどこにいますか! 大体、あれだけの屈辱を味わいながら、またこうして同じ過ちを繰り返すなど……!」

「ヴェールゴール王ならば気にはせんだろう。あの王はあの王で、なかなか特殊な王だからな」

「そういう問題ではございません!」

 のんびりした反応の国王に、またレクシリアの叱咤が飛ぶ。

「判った判った。今後はもう少し気をつける」

「そのお言葉、本当ですね?」

「本当だとも。それとも私を疑うか?」

「……いいえ。貴方を疑う国民など、一人としておりませんとも」

 グレイ曰く、レクシリアも王のことが大好きな信者なので、なんだかんだ言ってもこうして王に丸め込まれてしまうのである。

「ところで、ヴェールゴールの国王陛下がいらっしゃったということは、ロイツェンシュテッド帝国について何か進展があったということですね?」

「恐らくはな。ヴェールゴール王はロイツェンシュテッド帝国へ偵察に赴いていた筈だ。それが今こうしてここにいるということは、向こうでの偵察活動が終わったということだろう」

「偵察が終わったら真っ先にグランデルに来て欲しいとお願いなさったのですか? また勝手なことをされましたね。銀の王にバレたら大目玉でしょうに」

「なに、怒られたなら謝れば良いだけの話だ。エルエンデ王は確かに庶子嫌いでいらっしゃるが、それと政治とを混同するような愚かな王ではないよ」

 そう言って笑ってみせた王は、次いで少し思案するような表情を浮かべた。

「しかし、少々気がかりだな。帝国の偵察にはもう少し時間を要すると思っていたのだが、予想以上にヴェールゴール王の帰還が早い。……もしかすると、向こうで何かあったのやもしれん」

「何か、と仰いますと」

「彼の王は、王であると同時に大陸一の暗殺者だ。そのヴェールゴール王が早期離脱するということは、暗殺者として何か感じることがあったのではないだろうか。……まあ、それもこれから話せば判ることだ」

 そう言い、赤の王は国賓、ヴェールゴール国王の待つ来賓室の扉を叩くのだった。

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