頂きに立つもの 3
帝国の地下実験室にて次の作戦の準備をし終えたウロは、リィンスタットの王城で起こった一部始終を観ていた。例によって水晶玉を使って遠見をしていた彼は、王妃の死体を横に魔法を使い続ける黄の王を見て、満足そうに微笑んだ。そして、椅子に座ったまま大きく伸びをする。
「んー! 満足! 十年待った甲斐があったよー!」
そう叫んだウロがぱちぱちと拍手をしたが、この場には誰もいない。だがウロはそんなことは気にしないようで、まるでその場に誰かがいるかのように話を続けた。
「いやぁ傑作だと思わないかい? 黄色の王様は一番王様に向いてない性格をしてるから、絶対に面白いことになると思ったんだ。だから、わざわざ帝国から魔導の素質がありそうな女を一人選んで、陳腐な酷い運命を辿って貰ったんだよね。その上で魔導を教えてから、記憶を消して黄の国に放り込めば、あら不思議! 即席喜劇の舞台が整いました! どこか良いタイミングで記憶を戻して自分の使命を思い出させれば、あとはもう予定通りさ」
楽しそうな声を出しながら、ウロが水晶玉を指でつつく。
「クラリオくんの顔見た? あの可哀相な顔。きっと、愛した女であり国民でもあるあの子に信用して貰えてなくて、絶望しちゃったよねぇ。でもしょうがない。何せあの子には僕が直接、王様を殺さなきゃ駄目だよってお願いしちゃったからね。そんなの、僕の言うことに従うしかないじゃない。いくらクラリオくんが強くても、所詮は人間だ。僕を前にした恐怖を刻み込まれたあの子が、人間の言葉で救われる訳がないじゃないか。出来レースってやつだよ」
そう言ったウロが、顔を上げて天井を見る。だがその目は、もっと遠くの何かを見つめているようだった。
「ちょっとしたお遊びさ。今回のこれは、帝国側の作戦とは何の関係もありません。色々種を撒いてるついでに、娯楽も必要だと思って用意しといた分が芽吹いただけ。そりゃあまあ、億が一にもクラリオくんが取り乱してくれたら面白いなぁって思いはしたけど、彼は貴方が創った次元の柱を担う一人だ。たかだか最愛の女を殺した程度で、冷静さを欠くなんて有り得ない。そんな王様、防衛装置にならないからね」
天上に語り掛けるウロは、心底楽しそうだ。
「でも、本当にクラリオくんは王様向いてないね。どの王様も王としての在り方と人間の感情との乖離に苦しんでいるのは知ってるけど、あの子は特別酷いや。いや、だからこそ今回は面白い喜劇になってくれて万々歳なんだけど、ちょっと同情しちゃうなぁ。もーちょっと人間であることを諦められたら良かったのにねぇ。クラリオくんは王様やるにはちょーっと優しすぎだよねぇ。ほら、他の王様はさ、もっとこう、ドライでしょ? ドライにならざるを得なかったって考え方もあるけどさ。あ、いや、赤の王様の話はしてないよ。あれは寧ろ超イージーモードでしょ。他の王様たちが可哀相になるくらい、一人だけ楽してるよね。感情がないって便利だなぁ。あ、正確には、生産される傍から認識される前に捨てられてるんだっけ? まあどっちでもいいか。感情を持つこと自体が寿命を縮めることになるって点は変わらない訳だし」
呟いたウロが、こてりと首を傾げた。
「赤の王様のことはさ、どこまで貴方の想定通りなんだろう。実は僕、今のところ僕の方が読み勝ちしてると思ってるんだよね。でも、もしかして全部が貴方の掌の上だったりする? ふふふ、貴方の掌でコロコロされてるのかぁ。それはそれで気持ち良いなぁ。いやでも、慌てて赤の王様を隠しちゃったってことは、やっぱり僕の方が優勢? 僕知ってるよ。あのクソ野郎が薄紅の王様にちょっと力を貸したでしょ。そのせいで、赤の王様の居場所が全然掴めないんだ。彼、とっても邪魔だからそろそろ処理しておきたいんだけど、どこに行ったのかなぁ」
難しい顔をしてうんうん唸っていたウロだったが、すぐにあっさりと思考をやめて笑顔に戻る。そしてウロは、自分を見ているだろうその人に向かってうっとりと語り掛けるのだ。
「まあいいや。全部どうでも良いもの。僕はただ、貴方と一緒に遊べればそれで満足だもの。ね、太陽神様」




