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黒の暗殺者 4

「……あの、カリオスさんが一人で僕を助けに来てくださったのは、ヴェールゴール王陛下に言われたから、ですか……?」

 少年は出来る限り問いの本質から遠ざかるような言い方を選んで発言したが、どうやらヨアンには正しく伝わってしまったようで、彼はちらりとカリオスを見てから口を開いた。

「言いたいことはなんとなく判るよ。あのまま師団を率いて来てれば、この師団長がここまで大怪我することはなかっただろうね。でも、そんな大所帯で駆け付けたら、いくら敵が馬鹿だって気づくんじゃないかな。で、さっさとあんたを連れて逃げられちゃってたかも。誰も追って来てないと思い込んでたからこそ、ここで悠長にあんたをいたぶって遊んでたんだろうし。あとはまあ、そうだなぁ」

 やはりカリオスに視線を投げたヨアンが、肩を竦めた。

「師団員が何人か死ぬのと、師団長一人が重症を負うの、どっちの方がこの国にとってでかい損失かって話じゃない? 俺が赤の王から受けた依頼はエインストラの護衛だけど、ついでに余裕があれば金の国のことも気遣ってくれって頼まれてたから」

 相変らず的を射ないような言い回しをしたヨアンだったが、その言葉が意味するところを正確に把握できたカリオスは、改めて深々と頭を下げた。

「そのご判断に、深く感謝申し上げます」

「いらないよ。感謝するなら報酬支払う赤の王にしたら?」

 そう言ったヨアンに、少年が驚いた顔をした。

「えっ、お金、取るんですか……?」

 思わずといった風に口をついて出た言葉に、ヨアンは飽きれた顔をする。

「何言ってんの。当たり前でしょ。俺はただ働きなんて嫌だよ」

 そもそも帝国関連のことはリアンジュナイル大陸全土に渡る問題なのだから、それに関する対抗策で金銭のやりとりが発生するとは思っていなかったのだが、そんなことはないらしい。

「あ、あの、ちなみに、おいくらくらいなのでしょうか……? 僕を守るという依頼ですし、僕も負担した方が良いんじゃないかと思うんですが……」

 さすがに全額をあの赤の王に支払わせようと思えるほど、少年は肝が据わっていないのである。しかし、言われたヨアンは変な顔をしたし、カリオスも困ったような表情を浮かべている。

「……まあ、良いんだけど、あんたただの刺青師でしょ? 払えるのかなぁ」

「そ、そんなにお高いんですか……?」

「うーん。護衛の基礎料金と、俺をひと月拘束する拘束手当と、途中であんたを攫った騎獣を追いかけさせられたから騎獣追尾手当も加算だな。あとは魔物討伐手当に、そこの師団長を応急手当した手間賃を加えて、そこから国王割を効かせると、…………ざっと金貨二十枚ってところかな。うーん、ちょっと安すぎる気もするけど、まあ同じ国王のよしみってことで良いや」

 ヨアンからすれば実に良心的な値段であるという判断なのだろうし、カリオスの方も、なんと国王割があるとそこまで安くなるのか、というような顔をしていたが、尋ねた本人である少年の方はたまったものではない。

(ひ、ひええっ! 金貨二十枚……!?)

 金貨二十枚というと、あともう四枚ほどで少年のおおよその年収に届くような大金である。頑張って半分くらいは負担できないかと考えていた少年は、自分の見積もりの甘さに愕然とした。

「ね、無理でしょ?」

「…………あ、あの、分割、とか、して頂けるなら、なんとか……」

「いらないよ。さすがの俺も庶民から搾り取る気はないし。赤の王が全部払うって言ってるんだから払わせとけば良いじゃん。どうせあの王様、他に使うアテもないんだろうし」

「う、うぅ……」

 見事に撃沈した少年に励ましの言葉をかけたカリオスが、次いでヨアンに向かって口を開く。

「ヴェールゴール王、せめて私の手当の分の手間賃くらいは、私にお支払いさせてください」

「はい却下。俺が契約したのは赤の王であって、あんたじゃない。だからあんたから金を貰う気もない。どうしても払いたいなら後で赤の王に支払って。あっちからもこっちからも支払われると経理が面倒なんだよ」

 どうやら、ヴェールゴール王は経理の負担のことまで考えてくれる王らしい。なんというか、話せば話すほど、少年が想像している国王とはかけ離れているような気がした。

(あの人もすごいけど、この人もすごいな……。もしかして王様って、皆ちょっと変なのかな……)

 そんなやり取りをしていると、遠くから十数頭の騎獣が空を翔けて来るのが少年の目に入った。恐らく、カリオスの部下がこちらの様子を見に来たのだろう。どうやら、ようやくこの事件もひと段落しそうである。

 安堵のあまり気が抜けたのか、騎獣を見上げて手を振っているヨアンをぼーっと見ながら少年は思うのだ。

 ヴェールゴール王国は、大変商魂逞しい国なのだなぁ、と。

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