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水月37 詩:紫陽花
~ 紫陽花 ~
今は無いかつての庭に 紫陽花が咲いていた
雨垂れの音を聞きながら 庭を眺めていた白猫よ
お前の場所には もはや 雨が繁く降り注ぎ 晴れもすれば 遮るものなく 燦々と日が照る
ある夜の短い夢物語
今はなき家の 共に聞いていたあの音に お前を見た
白の映える小さな幻よ 何もいなかったように 消えていった 私の哀れみよ
お前の知らぬ時間が 重なり続けて お前と私にあるのは あの雨音だけになった
今は無き家の 窓にくたびれる 移ろ気な眼差しよ
物憂げなあの紫陽花を お前はきっと気に入るだろう