異世界に飛ばされた俺は魔物使いになっていた
生きてるのが嫌になった俺は校舎の屋上から飛び降りた。
飛び下りて地面に激突するかと思いきや不思議と生きていた。
元々、死ぬつもりで飛び降りたはずだが、死んだのは俺ではなくスライムだった。
どうやらスライムがクッションとなり死ねなかったようだ。
【スライムゼリー×1を入手しました。自動的にアイテムボックスに収納されます】
頭の中に文字が浮かんだ。
周囲を見渡すと森だった。
川のせせらぎの音も聞こえる。
俺のいる場所は森の中でも開けた場所だ。
後方には崩れた古代の遺跡のようなものも垣間見えた。
校舎から飛び降りたはずなのにどうしてこんな場所に俺はいるのだろう?
死にそこなった俺は遺跡へと歩を進めた。
近くまでくるとこれが何なのか良く分かる。
雷にでも撃たれ崩壊した塔のようである。
見上げるとビル6階ほどある。
6階ほどだと判断できた理由は窓のような吹き抜けがあるからだ。
塔には蔦が張っている。
入口を見つけた。
青銅の扉なんだろうか?
扉は重くビクともしない。
俺は肩を当て足を踏ん張った。
ほんの少しだが扉が動いた。
中に入れそうだ。
塔の中も程良く明るかった。
吹き抜けの窓から光が射し込んでいるからだ。
中に入ってもこれといった物はなにもない。
上に続く階段のみだ。
俺は階段を上った。
途中の階にも何もない。
上り続ける。
6階まで上ると巨石で拵えたような台座が見つかった。
俺は台座へと近づいた。
台座の上には古びた本がある。
表紙には『魔物のレシピ』と書いてある。
表紙をめくり1ページ目を見る。
1ページ目にはスライムの作り方が載っていた。
『スライム』
・素材:スライムゼリー×1
魔法陣に材料を乗せ魔力を注ぐと作成できると書かれている。
ちなみに2ページ目をめくろうとしたが、めくれない。
しかし魔力ってなんだろうか?
イジメに耐えれなくて自殺を図った、ただの高校生に魔力もクソもない。
そう思ったがスライムゼリーを本の台座の奥にある魔法陣に乗せてみようと近づく。
たしかアイテムボックスに収納されたはずだ。
俺は自分自身の身体を弄った。
校章が張られたブレザーのポケットも弄る。
アイテムボックスなんてものはどこにもない。
先ほど俺の脳裏にはアイテムボックスに自動的に収納されたと聞こえた。
箱だよな、たぶん。
……もしや?
本の台座の横に宝箱がある。
両手を広げたサイズほどの宝箱だ。
埃をかぶっている。
俺は息を吹きかけた。
息を吹きかけ手で埃を払うとカチリと音がした。
鍵でも掛かってたのだろうか?
俺は宝箱のふたを開ける。
中には青いコンニャク板が入っている。
これがスライムゼリーのようだ。
とりあえず手に取り鼻で嗅いでみた。
仄かに甘い香りがする。
舐めてみるとやはり甘かった。
コンニャクのようなスライムゼリーを魔法陣に置いた。
後は魔力を注ぐだけだ。
しかしどうやるかわからない。
わからないが俺は魔法陣に手を翳した。
身体から少しだけ力が抜けていく感じがした。
魔法陣が淡い光を放つ。
魔法陣の上にスライムが出現した。
スライムは青く丸い瞳で俺を見つめている。
俺もスライムを見つめた。
見つめてるとスライムのステータスが表示された。
種族:スライム
LV:1
攻撃力:3
防御力:2
スキル:体当たりLV1・酸攻撃LV1
なかなか可愛いじゃないか。俺はそう思った。
スライムはぴょんぴょんと飛び跳ねると野良猫のように俺の足元で頬ずりしてきた。
もしかしたら俺は異世界に転移したんじゃないだろうか?
ここには俺をイジメた者達はいない。
ここにいるのは俺とスライムだけだ。
俺はもう少しだけこの世界の様子を見てみようと思った。
屋上へと続く最後の階段を上る。
スライムも俺に懐いてるかのようについてきた。
塔の屋上から景色を見渡す。
塔を囲むように森が広がってた。
緑以外は遠目に山脈が目についただけだ。
俺は塔の縁から下方を見降ろす。
再度、飛び下りれば当初の目的を果たすことはできる。
だが、俺は恐くなった。
あの時は、『死んでやる』という気持ちだけに支配されていたからだ。
俺は塔の縁にもたれるように座った。
スライムがぴょんと跳ねると俺の胸に抱かれる形となった。
撫で撫でしてみた。
スライムが目を細め気持ちよさそうにしてる。
リアルの俺には友達などいなかった。
ならこいつが俺の最初の友達だ。
俺はスライムにライムと名付けた。
「ライムは俺をいじめたりしないよな」
俺はライムを撫でながらそう呟いた。
腹が減ってきた。
リアルでもそうだったが昼前だった。
こちらの世界も昼時なんだろう。
俺は塔の中を再度くまなく見て回った。
3階で錆びた剣を拾った。
小ぶりの片手剣って感じだ。
一振りしてみた。
重量で少し身体を持っていかれるが、なんとか扱えそうな気がした。
俺は剣の錆を瓦礫の破片で削ぎ落す。
錆を削ぎ落すと塔の石壁に剣を叩きつけてみた。
柄を握る手が衝撃で痺れた。
だが、剣は無事だ。
完全に錆を落としきれてないが、完全に錆びてるようでもないようだ。
とりあえず空腹を満たしたい。
俺は剣を握り締め塔の外へとでる。
塔の周囲50メートル程は開けている。
雑草が生い茂っているが、森ではない。
俺は耳を澄ました。
やはり川のせせらぎが聞こえる。
音のする方角に俺は歩を進める。
ライムと俺が名付けたスライムも跳ねながらついてくる。
何とはなしに心強い。
川にぶち当たる前に森にぶち当たった。
川は森の奥かもしれない。
森へと踏み込もうとした矢先、野生のスライムが現れた。
ライム同様、可愛いと思ったが野生のスライムは飛び跳ねたと思うと俺に体当たりをかましてきた。
腹部に打撃を受けた俺はバランスを崩し尻持ちをついた。
びっくりしながら野生のスライムを見る。
野生のスライムの頬が膨らんでいく。
怒ってるのだろうか?
ライムが野生のスライムに体当たりする。
野生のスライムから液体がほとばしった。
地面に生えてる雑草がじゅくじゅくと泡を立て溶ける。
酸攻撃だ。
頬を膨らませてたのは酸攻撃の前触れだったのだ。
俺は慌てて立ち上りライムの体当たりで怯んでる野生のスライムに錆びた剣で打撃を与えた。
剣は容赦なく野生のスライムにめり込む。
野生のスライムは形を維持できなくなり自らの酸で溶けるように消滅した。
【スライムゼリー×1を入手しました】
アイテムボックスに自動的に収納された。
同時にほっとした。
あの酸攻撃をまともに浴びたら皮膚が溶けてしまったかもしれない。
「ありがとな」
俺はライムにそう言った。
ライムは目で俺を見つめるだけだ。
言葉で意志疎通はできないようだ。
独り言のように猫に話しかけるようなもんだ。
「森に入ってみようか」
それでも俺はライムに声をかけた。
森の中は樹木に覆われ木漏れ日が射す。
野生のコウモリやらヘビが目につく。
目にはつくが襲ってくる気配はない。
俺の目的は川で魚を取ることだ。
しばらく歩くと川のせせらぎが次第に大きくなる。
森を抜けると川が見えた。
土手の上から川を見下ろす感じだ。
俺とライムは土手を慎重に滑り下りる。
水で削られた丸い石がごろごろ落ちている。
小さな川で深くもなく流れも緩やかだ。
歩いて反対の岸までも渡れそうな川だ。
水も透き通るように綺麗で魚が目につく。
俺は靴と靴下を脱ぎズボンを膝までまくりあげる。
「おーし、魚を獲るぞ!」
息巻いて川に入ったものの魚は素早く素手で獲れそうにない。
テレビでやってたサバイバルの特番のように都合よく竿や糸になる植物なんかも生えてはない。
仮に生えてても俺は虫が大の苦手だ。
糸に餌を結びつけるなんてことすらできそうにない。
2時間程は魚を獲ろうと奮戦した。
だが奮戦空しく疲れてくるだけだ。
ライムは水が苦手なのか俺を手伝う素振りすらない。
俺はくたくたになった。
もう魚は諦めることにした。
出来れば水だけでも汲んで帰りたい。
しかし都合よくペットボトルがある訳でもない。
それすら諦めるしかない。
ならば飲むしかない。
川の水をそのまま飲んでいいものか躊躇はした。
でも、飲むしかない。喉がカラカラなのだ。
飲んでみると水道水よりは遙かに美味しかった。
今何時だろうか? 体感的には午後三時ぐらいな気がする。
暗くなって森に入るのは危険だろう。
明るいうちに戻る方がいいと思い俺とライムは再度森へと踏み込む。
……しかし腹減ったな。
飲めるだけ水を飲んだが腹が満たされた気はまるでしない。
食べれそうな植物はないかと思いながら森の中を引き返している。
途中。
キノコが至る場所に生えてる。
生えてはいるが食べる勇気などない。
毒キノコのかもしれないからだ。
じゃあ……どうするんだ?
ライムを見た。
とてもじゃないがライムを食べる気にはなれない。
樹木の枝にヘビがいる。
あれを食うか?
視界に入る生物はヘビとコウモリ、後は虫ぐらいなものだ。
ヘビは焼いたら食えるんじゃないだろうか?
そこまで考えてみたが火がない。
よくよく考えてみたら魚を獲ったところで、食えたのだろうか?
醤油やワサビがあればまだいい。刺身と思って食えなくもない。
そもそも俺は生臭い食べ物は嫌いなのだ。
そんなことを考えてると森を抜け塔が見えた。
俺とライムは塔に戻った。
6階のアイテムボックスを覗いてみる。
そこには【スライムゼリー×1】がある。
俺は手にとって考えた。
味は甘かったのだ。
もしかしたら食えるのだろうか?
見た目は弾力のあるコンニャクゼリーだ。
少しだけかじってみた。口の中に入れると仄かに甘い。
飲み込んでみた。
喉の通りも悪くない。
ライムが羨ましそうに俺を見ている。
まさかと思うが食べたいのだろうか?
試しに一口分ほど千切ってライムに与えてみた。
満足そうに瞳をきらめかせ食べている。
スライムを倒して入手した戦利品とは言え、元はスライムだ。
抵抗ないのかな……?
俺だって抵抗ある。
でも、ほかに食い物がないのだ。
正直、味は悪くない。
元がスライムだと知らなければデザート代わりに食べても変じゃない。
結局、俺とライムでスライムゼリーを平らげた。
それに水分もそこそこあって喉の渇きも補えそうな代物だった。
まだ陽は落ちてない。
今、俺に出来ることはスライムを狩るだけだ。
俺とライムは外にでた。
探せばスライムは幾らでもいた。
ライムが初撃で体当たりをしてくれる。
俺は怯んだスライムを剣で一刀両断。
それを10匹ほど繰り返した時、俺の脳内に新たなメッセージが浮かんだ。
レベルアップしたようだ。
種族:人間
LV:2
攻撃力:3
防御力:2
スキル:剣LV1
ライムのステータスも見てみた。
種族:スライム
LV:2
攻撃力:4
防御力:3
スキル:体当たりLV1・酸攻撃LV1
ライムもレベルが上がってた。
俺はライムより弱いことを自覚した。
スライムを10匹狩ったことにより戦利品として【スライムゼリー×10】がアイテムボックスに送られてる。
晩御飯もスライムゼリーなのか?
不味くはないが、飯って感じではない。
どちらかと言えばデザートだ。
陽も落ちてきた。
それに初めての戦闘だ。
俺はもう、くたくただった。
塔に戻った。
陽も落ちて光もさして射し込まない。
電気もなければ原始的な松明すらない。
けど、暗くなってきて気が付いた。
魔法陣だけが淡い光を発していた。
塔の窓からは月明かりも少しだけ射し込んでくれている。
真っ暗にはならないで済みそうだ。
しかし……またもや腹が減ってきた。
食いものはスライムゼリーしかない。
俺は少しだけ食べた。
残り半分以上は全部ライムにあげた。
何もない石畳で寝てるとライムが俺に寄り添ってくれた。
ライムのおかげで心が癒されてる気がする。
俺はそのまま寝ることにした。
朝になった。
「おはよう、ライム」
ライムに話しかけても振り向いて俺を見るだけだ。
それだけでも俺は嬉しかった。
俺は『魔物のレシピ』を見てる。
昨日はめくれなかった2ページ目がめくれるのだ。
俺のレベルが2になったからなのだろうか?
2ページ目の魔物インプだった。
『インプ』
・素材:樹の枝×1
・素材:キノコ×1
・素材:コウモリの羽×1
素材が3種類になっている。
レシピを確認した俺は塔の外に出た。
朝日がほんのりと温かく気持ちが良い。
俺は大きく背伸びをした。
そして俺とライムは昨日の森の方角へと歩を進める。
森に入って樹の枝を拾った。
【樹の枝×1を入手しました。】
アイテムボックスに樹の枝が転送されたみたいだが、俺の手にはそのまま樹の枝が握られている。
枝を投げ捨て今度は樹の幹に生えてるキノコを剣で千切った。
【キノコ×1を入手しました】
またもや手にはキノコを握ったままだ。
だが、例外なく自動的にアイテムボックスに収納されますとでた。
キノコは手元にあるけど、転送されたのね……。
後はコウモリの羽なのだが、容易く手に入りそうにない。
コウモリがいない訳ではない。
高所の樹の枝に止まってるのと飛んでいるのしかいないのだ。
俺は小石を拾いコウモリ目がけて投げみた。
何発投げようが命中する気配が微塵もない。
仮に俺が甲子園でノーヒットノーランを決めたエースピッチャーでも投げる角度が上方なのだ。
見上げながら狙いを定めるのは難しいのだ。
樹をよじ登るのも考えた。
ただ、俺の場合木登り以前の問題だ。
コウモリを鷲掴みにする勇気すら俺には無い。
上方に気を取られていた。
ライムがしきりに俺の足元を突くと思ったらヘビが接近していた。
俺は慌てて後ろに飛びのいた。
ライムが知らせてくれなかったら俺は噛まれていただろう。
ライムがヘビに酸を浴びせる。
だが、ヘビは動じることもなくライムではなく俺に接近してくる。
地を這うヘビは俺の想像以上に素早い。
俺は剣でヘビを貫こうとするが虚しく地面を突き刺すばかり。
距離を取りながらも同じ動作を繰り返した。
【ヘビの鱗×1を入手しました】
【ヘビの毒牙×2を入手しました】
【コウモリの羽×1を入手しました】
入手メッセージが脳裏を掠めたと思ったら俺の剣先がヘビ首辺りを貫いていた。
何故だかヘビを退治したらコウモリの羽も入手できた。
スライムの時は溶けて消滅したが、ヘビはそのままだ。
溶けて消えることもない。
剣を首根っこに突き刺されたヘビは俺を睨むように顎を開いている。
そして毒牙もそのままだ。
鱗だってある。
今頃、ライムがヘビに飛ばした酸が利いてきたのか一部がどろりと溶けている。
中にコウモリの死骸が見える。
うっぷ……。
正直気色悪い。
気色悪いが……うーむ。
別に現物を持ちかえらなくても入手したことになっている。
きっとアイテムボックスには樹の枝もキノコも収納されているんだろう。
帰ったらみてみるか。
後は……。
このヘビ……。
焼いたら食えそうだ。
食えそうだが……。
俺は諦めた。
ただ、ヘビの肉の一部を少しだけ剣先で切りとった。
切り取った肉は剣先に刺したままだ。
とりあえずインプの材料は割と簡単に入手できた。
俺とライムは昨日の川まで向かう。
ライムは水が届かない場所で俺の様子をみている。
俺は周囲をキョロキョロしながらズボンを脱いだ。
誰もいないがトランクスだけになるのは少々恥ずかしい。
脱いだズボンの裾を結び川に浸す。
ズボンが流れないように石で固定した。
そのズボンの中に剣先に刺したままのヘビの肉を入れてみた。
俺的にはヘビの肉が魚の餌の変わりだ。
餌になるのか怪しいところだが……。
なるべくズボンに魚が入ってくれるように大き目の石を川の中に積み上げていく。
こんなんで魚が獲れるか俺にもわからない。
ただ、それとは別に石を持ち上げたり移動させてるとカニを発見できた。
手のひらに乗るような小さなカニだ。
1匹だけだけど、食えるかもしれない。
カニも魚も火があればの話なのだが……。
カニはブレザーのポケットに放り込んだ。
俺は川から上がりライムと一緒にぼーっとしてる。
ぼーっとしながら考えてた。
この世界に人間はいるのだろうか。
人間がいるなら街とかあるんだろうか。
学校では金を巻き上げられ、その金でパンを買わされたりもした。
理不尽に意味もなく殴られたりもした。
それぐらいなら……。
そう……それぐらいなら自殺しようなんてまだ思わなかった。
俺の両親は交通事故でこの世を去った。
激しい絶望を感じた。
優しかった父も母ももういない。
どうしようもなく孤独だった。
それなのに俺に対してのイジメは加速する一方。
周りの生徒も先生も俺を庇ってはくれなかった。
消えてなくなりたいと思ったんだ。
もう一人でいるのが寂しく耐えきれなった。
ライムが俺に心配そうな眼差しを送ってくれる。
スライムってカニとか食べるのだろうか?
俺はポケットに入れてたカニをライムに差し出した。
まだ生きている。
カニのハサミに挟まれそうになり焦った。
ライムはカニを見ても食べたいとか思わないようだ。
ただ、まじまじとカニを見つめている。
ぼーっと考え事をしてても始まらないな。
俺はその辺で適当な枯れ草や棒などを拾ってきた。
火をおこせたらいいなって思った。
しかしこれもまた無駄に体力を消耗しただけで火などおこせなかった。
俺が不良学生ならポケットにライターの1本ぐらいあっただろうに……。
数時間は経った気がしたのでズボンを確認しに川へと入る。
中に魚がいることを想定して一気にズボンをすくいあげる。
そのままライムの横まできた。
生地の上から抑えてみると何か入っている。
おお! 魚だ。
手のひらサイズほどの川魚が3匹入ってた。
これで火をおこせれば焼き魚も食えるし……さっきのヘビだって食える。
川魚だけに塩気はないだろうが、甘ったるいスライムゼリーばかり食べる気にもなれないからな。
魚はブレザーのカニの入ってない方のポケットに押し込んだ。
しかし、ズボンがびしょ濡れだ。
俺は絞れるだけ絞り、大き目の石の上にズボンを広げた。
陽射しと石の表面の熱で少しは乾くといいな。
腹が減って川の水をがぶ飲みした。
がぶ飲みしながらも今夜もスライムゼリーを食べるのだろうかと。
森の途中にあったキノコ……。
あれが食べれるにしても生シイタケをそのまま食べるようなもんだ。
やはり火がないとろくなものが食べれない。
どこかの無人島のように都合よくヤシの実でもあれば嬉しいんだけど。
森の中には果実らしいものは見当たらなかったのだ。
ズボンも随分乾いてきた。
少し湿ってるが我慢できないほどじゃない。
水で少しは空腹感も和らいだが、焼け石に水だ。
これからレベルアップのためにスライムを狩る気にもなれない。
俺はライムに一言「帰ろうか」と呟いた。
森でこれといった魔物にも遭遇することなく無事に塔まで辿り着いた。
アイテムボックスを覗き見る。
【スライムゼリー×9】
【ヘビの鱗×1】
【ヘビの毒牙×2】
【コウモリの羽×1】
【樹の枝×1】
【キノコ×1】
ちゃんと入ってた。
俺はアイテムボックスからスライムゼリーを2枚取出してライムと一枚ずつ食べた。
朝から何も食べてなかったので甘ったるいスライムゼリーでも有難いと思えた。
ゼリーを食べ終わった俺はインプの素材になる『樹の枝×1、キノコ×1、コウモリの羽×1』を魔法陣に乗せる。
そして、あるのかないのか謎な俺の魔力を注いでみた。
魔法陣が淡い光を発した。
常に光は発してるのだろうけど、それよりももう少し強く発光した感じだ。
「グギャアア! ギャ?」
魔法陣の上にインプが出現した。
凄く小さい。
ライムはバスケットボールほどのサイズだがインプは煙草の箱ぐらいのサイズだろうか。
全身真っ黒でコウモリの羽に尻尾がある。
瞳は充血してるかのように真っ赤で耳がでかい。
ライムが可愛かっただけに戸惑った。
もしかしたら美少女を象った可愛らしい妖精がでるかも? と、淡い期待を寄せていたのだ。
種族:インプ
LV:1
攻撃力:3
防御力:3
スキル:火魔術Lv1
レベル2のライムと比べても攻撃力が1低い程度だ。
今更ながら俺よりも強い。
可愛くないと思ったが俺は瞬時に考えを改めた。
火魔術が使える。
俺の悩みの種だった火種が解消された。
名前はプイプイと名付けた。
プイプイはゆっくりと飛来し俺の肩に止まった。
小さいながらも凶悪そうな人相をしてるが、俺に対して敵意はないようだ。
野生のスライムはライムと違って襲ってきたが、俺が魔力を注いで魔法陣より生みだした魔物は忠実なしもべなのかもしれない。
だったら……早速、魚とカニを焼いてもらおう。
俺はアイテムボックスの上に魚3匹とカニを乗せた。
そして命令してみる。
「プイプイ、この魚とカニを火であぶってくれないか?」
「グギッ?」
知性は高くないのだろうか。
俺にとっては貴重な食材だ。
消し炭になっても困るな……。
「やっぱ外で焼こう」
俺は食材をポケットにしまい、ライムとプイプイを伴って外に出る。
手頃な樹の枝を探す。
焚き木を集め、手頃な枝に魚を串刺しにしカニは剣の剣先にぶっ刺した。
「この焚き木に火をつけてくれないかな?」
俺の肩にいるプイプイは飛び立つと呪文を詠唱したんだと思う。
聞き慣れない言葉を発したら焚き木に火が付いた。
焚き木に火が付くと俺の肩に戻ってきた。
「お、サンキュな」
「グギャ」
俺が喜ぶとプイプイが嬉しそうに俺の肩の上で阿波踊りを始めた。
まあ、いいか。
俺はズボンも脱いだ。
これでしっかり乾かしたい。
ズボンもしっかり乾き俺は魚の刺さった串を1本手に取った。
ぱくっと食べてみた。
旨いとは言えないが食事をしてると思えた。
俺が魚を食ってるとライムとプイプイの眼差しが物欲しそうに見えた。
「食べてみるかい?」
俺は別の二本を焚火から取出しライムの前に一本。
もう一本はプイプイ用に地面に突き刺した。
ライムとプイプイが旨そうに食べるじゃないか。
カニもこんがりと赤く焼き上がった。
カニも俺と二匹で食べた。
ライムはカニの殻まで食べる。
よっぽど腹が空いてたのかな?
小さな魚に小さなカニだ。
俺の空腹感は全然満たされない。
それでも二匹が嬉しそうに頬張ってる姿をみてると満足できた。
食事を終えた俺は樹の枝を拾い集め塔の中にも持ち込んだ。
塔は石造りだし火事になることもないだろう。
俺は塔の内部でも焚火をする。
陽が沈むとほんのりと涼しくもなってくる。
昨夜はちょっと肌寒かったが今夜は若干マシになりそうだ。
明日はいつもと違う方角に行ってみよう。
そう考えて寝ることにした。
朝起きたら俺は枕をしていた。
知らぬ間にライムを手繰り寄せ枕代わりに使ってたようだった。
石畳の上で寝るのは身体に負担がかかり過ぎる。
もっと柔らかい寝床がほしいもんだ。
さて、今日は別の方角に行ってみよう。
そう思いながら塔の6階から外を覗き見た。
ありゃなんだ……。
塔の周りに初めて見る魔物がいる。
1匹……2匹……3匹……4匹……5匹っと。
背丈は小さい。
1メートルもないかもしれない。
ありゃ……ゴブリンかも。
1匹のゴブリンが扉を開けようとしてる。
塔の一階の扉は重いが施錠は壊れてて出来ないのだ。
ゾッとする。
あんなのが5匹もきたら俺にはどうしようもない。
戦闘になったら3対5だ。
最初から不利じゃないか。
俺は慌ててスライムゼリーをアイテムボックスから取出した。
アイテムボックスにはスライムゼリーが7個残ってる。
これでスライムを生み出し戦力を増強するしかない。
ライムとプイプイがスライムゼリーを物欲しそうに見てる。
まさに朝ごはんまだぁ? 的な眼差しだ。
二匹にも頑張って貰わないといけない。
スライムゼリー7個あれば7匹のスライムが生み出せると考えもしたが、腹が減っては戦はできぬ。
と、言うよりも二匹の眼差しを無視することが俺には出来なかったので、一枚ずつ与えた。
命の危険に晒されて焦ってるのは俺だけだ。
何故だろう……今の俺は死にたいなんて思わなくなってた。
俺も腹は空いてるが朝は食欲ないほうだ。
構わず5枚のスライムゼリーを魔法陣に放り込み魔力を注ぐ。
う、な、なんだ……。
今までにない疲労感に襲われる。
5枚同時はヤバかったのかもしれない。
それでもぶっ倒れるほどじゃない。
魔法陣に新たなスライムが出現した。
だが、それは5匹ではなく1匹だった。
ちょ……ちょっとでかい。
バスケットボール5個よりも少し大きい感じだ。
種族:スライム
LV:1
攻撃力:3
防御力:2
スキル:体当たりLV1・酸攻撃LV1
強さはライムがレベル1だった時と同じじゃないか。
注いだ魔力も5匹分って体感だったのに。
俺は再度、塔の窓から外を眺めた。
ゴブリン共がいない。
いないじゃない。扉が開いてる。
中に侵入してるんだ。
上に逃げても屋上に出るだけだ。
俺は剣を握った。
そして三匹に呼びかけた。
「塔の中にゴブリンが侵入した。撃退するぞ!」
ライムもプイプイも生まれたばかりのスライムも俺の言葉の意味は通じたようだ。
「階段の上で待ち構え一匹ずつ対応しよう」
俺達は5階から来るゴブリンを6階の階段付近で待ち構えた。
確実に塔内部に侵入してる。
足音や「ガグルル――」聞こえる。
物音と共に気配を大きく感じる。
最初の一匹目のゴブリンが顔をだした。
ライムとデカスライムが酸を吹いた。
酸はゴブリンの顔面を捉え一匹目は転げ落ちていった。
「ギッ?」
二匹目と三匹目のゴブリンが転げ落ちるゴブリンで俺達の存在に気が付いたようだ。
転げ落ちるゴブリンを余所目に二匹と三匹目のゴブリンが槍を突き出してきた。
二匹目のゴブリンの穂先は俺が剣で薙ぎ払った。
ライムがすかさず二匹目のゴブリンにも酸攻撃。
二匹目は転げ落ちていった。
だが、三匹目のゴブリンの槍がデカスライムにぶっ刺さった。
「で、でか! 大丈夫か?」
デカスライムの酸攻撃は躊躇われた。
そこにプイプイがフォローに入った。
三匹目のゴブリンの眼前まで飛来するとゼロ距離で火魔術をぶっ放す。
二匹目に続き三匹目も転げ落ちた。
「いいぞ、みんなっ!」
ライムもデカスライムも戦いが優勢なのを認識してる。
プイプイも「グギャ」っと俺の声に答えた。
ライムが追い打ちをかけようとしたので俺はすぐさま呼びとめる。
「ライム深追いはダメだ! ここで様子を見るんだ!」
俺の言葉にライムはすぐに従い俺の足元で待機する。
無傷のゴブリンがまだ二匹いるはずなんだ。
下の階からゴブリン共の悲鳴が聞こえる。
二匹は酸を浴び、もう一匹はプイプイの火魔術をもろに喰らったのだ。
しばらく待機してるがゴブリン共が上がってくる気配がない。
ライムを制止した俺だったが、注意深く階段を数段だけ降りてみる。
階段から踏み外したのだろう。
三匹のゴブリンがのた打ち回ってる。
だが、もう二匹が見当たらない。
慎重にもう数段だけ降りてみる。
この位置からなら5階は一望できる。
やはりいない。
俺はのた打ち回ってるゴブリンを無視し6階に戻る。
「みんな、ここから目を離さないで!」
そう言い残し俺は塔の窓から外を眺める。
二匹のゴブリンが慌てて逃げ出してる姿が目に入った。
ふう……なんとかなったみたいだ。
俺はみんなの元まで駆け寄り指示をだす。
「下に三匹の負傷したゴブリンがいる。トドメを刺しにいく、デカスライムはそこで待機してくれ。俺とライムとプイプイでいく」
階段を再度慎重に降りる。
階段の途中で俺はプイプイに目くばせし指示をだす。
「三匹のゴブリンに火魔術だ」
「グギャ」
プイプイが火魔術を詠唱する。
一匹ずつ火弾が飛んでいく。
「ギギギッ、ギャギャギャァァ」
ライムはぴょんと階段を跳ね降りると酸攻撃を浴びせ回った。
勝機あり。
俺は一匹ずつ床に這いずるゴブリンの浅黒い胸をめがけて順次貫いていく。
【ゴブリンの爪×3を入手しました】
【ゴブリンの耳×6を入手しました】
戦利品がアイテムボックスに収納されたってことはゴブリンが絶命したことを物語る。
終わったようだ。
三匹のゴブリンの亡骸はデカスライムが平らげてくれた。
凄い食欲だが、ある意味助かった。
俺のレベルが上がったようだ。
種族:人間
LV:3
攻撃力:4
防御力:3
スキル:剣LV1
レベルが1上がっても格段に強くなれるようでは無いようだ。
攻撃力と防御力共に1ずつ上がっただけだ。
ライムとプイプイもみてみた。
種族:スライム
LV:3
攻撃力:5
防御力:4
スキル:体当たりLV1・酸攻撃LV1
種族:インプ
LV:2
攻撃力:4
防御力:4
スキル:火魔術Lv1
レベルが上がってるが、スキルのレベルは誰も上昇してない。
デカスライムも見てみた。
種族:スライム
LV:1
攻撃力:3
防御力:2
スキル:体当たりLV1・酸攻撃LV1
デカスライムはレベルが上がってなかった。
傷は浅かったのか無事でいてくれた。
それだけで十分だ。
俺のレベルが上がったってことは『魔物のレシピ』の3ページ目がめくれるのかもしれない。
そう思って本の台座までいく。
3ページ目がめくれた。
『ゴブリン』
・素材:ゴブリンの爪×1
・素材:ゴブリンの耳×2
素材は2種類。
今ほど入手した素材で三匹、生み出せる。
この辺にゴブリンの集落やら洞穴があるのかもしれない。
もしかしたら……報復に来る可能性もある。
あの二匹を逃がしたのは失敗だったかもな。
朝から疲労度MAXなのだが、俺はゴブリンを生み出すことにした。
スライムでも十分に活躍できるのだ。
戦力は増強した方がいい。
俺はワンセットずつ素材を取出し順次ゴブリンを生み出す。
そしてこの作業を〝魔物喚起〟と呼ぶことにした。
ゴブリンA~Cまで喚起した。
「「「ギギッ」」」
種族:ゴブリン
LV:1
攻撃力:2
防御力:1
スキル:爪攻撃LV1
あれ? スライムのレベル1よりも弱い。
二匹は同じステータスだったが一匹だけ違うのがいた。
種族:ゴブリン
LV:1
攻撃力:3
防御力:2
スキル:爪攻撃LV1 農作業LV1 言語習得LV1
ライムがレベル1の時と同じ強さだ。
しかも農作業というゴブリンに不釣り合いなスキルを持っている。
しかも言語習得ってなんだろ?
ゴブリン語とかあるのだろうか?
まあ、いいか。
とりあえず名付けしよう。
俺はちょっとレアぽいゴブリンにゴブゴブと名付けた。
ゴブゴブは少しだけ身長も高い。
高いけどホブゴブリンではないと思う。
今日は朝からスライム5匹分の魔力とゴブリン三匹分の魔力を消費した。
ステータスで体力とか精神力の確認ができないけど、激しく精神力を消耗した感じがする。
俺は新規参入した三匹のゴブリンの内、ゴブゴブを三匹の中でのリーダー格とすることにした。
ゴブゴブの他にも名前をつけてあげようか考えたけどやめた。
この調子で魔物が増えていくと名付けた俺が覚えきれそうにない。
俺はゴブゴブに指示をだした。
「早速で悪いんだけど……俺、猛烈に腹減ってるだ。ゴブリン三匹で何か食いもの探してきてくれないか?」
ゴブリン三匹は先ほど退治したゴブリンの槍を携え頷くと塔の外に出払っていった。
スライムゼリーでもいいのだが、全部使ってしまった。
もう頼るしかない。
俺が疲れてるのが見てとれたのか、デカスライムが玉ねぎ型からベットみたいな形に変形して見つめてる。
「もしかして、ここで休んでいいの?」
返事はないが何となく瞳を見れば俺には理解できた。
ライムの枕だけでも有難かった。
石畳で寝るのは結構つらかったのだ。
俺はデカスライムに寝そべった。
感激した。
布団よりも全身のフィット感がある。
「デカ、少し休ませて貰うよ」
俺はデカの上からプイプイに指示をだした。
もしかしたらゴブリンが報復にくるかもしれないのだ。
それも大量に引き連れてくるかもしれない。
周囲の警戒をプイプイにお願いした。
プイプイは「グギャ」と鳴くと窓から飛んで行った。
「30分でいい……少しだけ寝かしてくれ」
俺はライムにそう言うとデカスライムの上で瞼を閉じた。
「う、うーん」
目が覚めた。
どうやら昼過ぎまで眠ってしまったようだ。
デカスライムもライムも寝てるようだ。
スライムに鼻があるのだろうか?
ライムの鼻辺りから鼻ちょうちんが膨らんだり縮んだりしてる。
寝心地が良かったので精神力が随分と回復した気がする。
同時に俺は冷静になった。
そう、ゴブリンが襲撃してくるかもしれないのだ。
本来は寝てなんかいられなかったけど精神力が限界だったのだ。
俺は起き上がり剣を握った。
そして悪いと思ったけどライムを起こした。
剣先で鼻ちょうちんを割るとすぐにライムは瞼を開いた。
俺を丸い瞳で見つめる。
「ライム、狩りにいくぞ」
デカスライムには留守番をお願いした。
狩りと言っても今日は昼過ぎだ。
スライムゼリー集めだけをすることにした。
俺もライムもレベルが上がってるため、前よりも随分と楽だ。
スライムゼリー50個集めた。
レベルも上がった。
種族:人間
LV:4
攻撃力:5
防御力:4
スキル:剣LV2
剣スキルがレベル2になってる。
剣の技量が上がったんだろう。
ライムのステータスも見てみた。
種族:スライム
LV:4
攻撃力:6
防御力:5
スキル:体当たりLV2・酸攻撃LV1
ライムのスキルも体当たりがレベル2になってる。
酸攻撃はまったくしなかったから上がらなかったのかな?
とまあ、そう言うことにしておこう。
俺とライムが塔へと戻ると、塔の前でゴブゴブ達がイノシシを吊るしてた。
期待以上の働きに俺は涙が零れた。
しかも三匹とも傷を負っている。
かすり傷のようで安堵したが、スライムよりも弱いゴブリンなのだ。
武器が持てる分、俺同様ある程度の補正があるのだろうけど、苦労したに違いない。
俺にいち早く気が付いたゴブゴブが嬉しそうに俺の元まで来た。
「イノシシなんて想像だにしてなかったよ。今夜は皆でイノシシを食べよう」
ゴブゴブ達も大喜びだ。
俺が指示するとゴブゴブ達は薪の代わりになる枯れ葉や枝を集めにいった。
俺は塔の6階にあがりアイテムボックスも確認する。
スライムゼリー×50が追加されていた。
デカスライムが瞳で俺に「おかえり」と言った気がした。
もちろん『魔物のレシピ』も確認する。
俺のレベルは4になってる。
4ページ目がめくれる。
おっ!
こりゃまた……初のアンデットだ。
『スケルトン』
・素材:人骨
うーん……人骨か。
スケルトンは嬉しいがこりゃダメかもと思った。
とりあえずデカスライムも伴って塔の外にでた。
陽は沈みかけている。
強くはないがゴブリン達は実にいい。
イノシシを調理するための準備をせっせとこなしてくれるのだ。
準備も一通り完了した。
後は焚き木に火を灯すだけだ。
プイプイがいない。
どこで何してるんだろうか。
「プイプイどこだー! 戻ってこーい!」
俺が叫ぶと何処からともなくプイプイが飛んできた。
よくよく考えると俺が周辺警戒をお願いしたんだった。
「プイプイよろしく頼むよ」
「グギャ」
プイプイが火魔術を使い焚火となった。
イノシシが焼けるのを待つだけだ。
焚火を囲む皆の瞳がきらめいている。
仲間っていいもんだ。
俺は剣で焼けたイノシシの肉を削ぎ落していく。
本当は調味料がほしい。
そうも思ったが十分に旨い。
皆、満足げだ。
俺はこの世界に来て初めてたらふく飯を食った。
陽も落ちた。
俺は塔の6階でデカスライムベットに横たわる。
裸になって寝ると便利なことに体の汚れも落ちるのだ。
今夜は丸裸で寝ることにする。
ライムも隣に寄り添ってくる。
ゴブゴブ達には1階で監視しながら休息してもらうことにした。
プイプイは俺が指示することもなく塔の窓の縁で休息するようだ。
警戒しながら休むのだろう。
さて明日は戦力増加だ。
スライムゼリーでスライムを大量に喚起するのだ。
そう思いながら俺は寝た。
翌日の朝。
デカスライムベットは最高に気持ちが良い。
身体もすっきりするのだ。
マジ、デカスライム感謝だ。
昨夜脱いだ制服を再度着る。
うーん。
身体はすっきりしてるけど服がやっぱ臭い。
川まで洗濯しに行きたいが今日は我慢だ。
昨晩考えたように戦力の増加だ。
と、思ったのだが……。
朝食抜きでも平気な俺と違って皆さん朝ごはんをご所望のようだ。
スライムゼリーしかないのだが、皆に一枚ずつ配る。
ゴブリン三匹、スライム二匹、インプ一匹。
しかもデカスライムは5枚食べないと満足しない。
つまり朝食だけでスライムゼリーを10枚消費した。
こりゃ……ちょっと真剣に考えないといけない。
食糧が追いつかないのだ。
俺はこれからスライムを50匹、喚起しようと考えてた。
今だけでも一日二食と考えるとスライムゼリーが20枚はいることになる。
スライム50匹とかになると、実際どうなんだ?
一日120枚のスライムゼリーが必要になる。
それはかなりマズイ……。
喚起したスライムにスライムを単独で狩らせてもいいとも思ったが……。
一日120匹のスライムがこの世を去ることになる。
十日で1200匹だ。
この周辺にそんだけのスライムの個体がいるかも怪しいもんだ。
こりゃスライムにばっか頼っていられないぞ。
予定変更だ。
ゴブリンの報復もちょっと気になるけど、安定した食料の確保が重要だ。
そんな訳でパーティ編成をすることにした。
俺。
ライム。
プイプイ。
ゴブゴブ。
ゴブリンB。
ゴブリンC。
での6人パーティだ。
デカスライムには留守番をお願いした。
このメンバーで周辺の探索をしてみようと思う。
昨晩食べたイノシシのような獣を都合よく毎日ゴブゴブ達が獲ってきてくれるとは思えない。
もし俺の留守中にゴブリンの報復があってもアイテムボックスは俺しか開けれないから被害はない。
そう考えると留守番なんているのだろうか?
やっぱデカスライムも連れていくことにしよう。
結局全員参加だ。
塔より西方面に行くと川がある場所だ。
ゴブゴブ達は南方面でイノシシを獲ったようだ。
北方面か東方面のどっちかにしてみるか?
東方面に進んでみることにする。
プイプイを少し先まで先行させながら俺達は森の中へと踏み込んでいく。
先行してたプイプイが引き返して小さく「グギャ」と呟く。
呟くとゴブゴブを指差した。
この先にゴブリンの生息地があるのかもな。
茂みを抜けると洞窟があった。
俺は皆に警戒するように指示をした。
洞窟へと踏み込んだ。
暗闇の中を手さぐりで進んでいくと光が見えた。
ライムもゴブゴブもプイプイも何故だか笑顔だ。
そして最後に皆が俺の心に語りかけてきた。
『さあ、いくのだ。ここは君の世界じゃない』
光を抜けると俺は赤ちゃんとして元の世界に生まれ変わっていた。




