喉元過ぎれば全てを忘れる
「うむ。ご苦労。有益な人物を連れてきてくれたようだな」
辺りの人払いを行い。
大樹の目の前。つまり自分の眼下。もとい根元には複数の人影。
そして蛇の魔物が集合した。
お膳立てはニルンに任せたが如何せん強引な手法だった。
まあ問題あるまい。外から侵入出来ぬよう物理的な結界も張りましたし。
急に木の根が生えての道を塞ぐ様子に驚かれはしましたが特に何をされる訳でも無し。
そうして今この場にいる面々は自分も含め合計4名といった所です。
アサシンヴァイパーであるニルン。
世紀末ヒャッハー組の一人。多分リーダー格の男だろう。
そして妙な服装をした男が一人。
とりあえず超強かった剣士。だった筈の男がこの場にいる。
どうやら、教会関係の男だったようだ。
何故だか知らんが、徒手空拳で世紀末組と大立ち回り。
このヨルンはあの状況を見てショックを受けたよ。
鼓動が早くなり訳が分からなくなってたが。
ともあれ、ちゃんと声届いてるかな?
「ヒャッハー! 木が喋ってやがる!」
そんな初の試みだったが心配は杞憂であった。
まず口を開いたのがヒャッハー族の男。
相変わらずに奇声を上げている。
ニルンも続けてシャッハー叫んでいるので楽しんでおるな。
良い事だ。良い事なのだが心配だ。色んな思いが駆け巡る。
だが今は対話だ。ニルンが訴えるが故に
なんとかして声を出せる器官を作り出したが、多分この程度で大丈夫だろう。
自分が感じ取れる音として聞こえるようにはなっているのだから。
「そこの蛇の通訳も出来るぞ?」
「なんだってー! ってか何だって今まで黙ってやがった!?」
相変わらずにノリの良いヒャッハー族。
糸電話の聞き口から出るような。メガホンを通してなイメージか。
船の伝声管が一番近いかもしれないが、あくまで似たようなモノとしての例えである。
そんなモノを通しての対話にも物怖じせずに対話をしてくれるとは流石であるな。
ちなみにソレは根っこの辺りに、その発声器官を作り出し。
ニルンが方向を微調整して彼等に聞かせるという奇妙な図となってしまっていた。
通訳して欲しければニルンの声も彼等に効かせてやる事にしよう。
というか念話のタネを頭に打ち込んでやれば済む話なのだが。
未だに嫌がるのだ。注射を嫌がる子供みたいな嫌がり方であるので
そのうち無理矢理にでも打ち込んでみようかとは思ってるが。
今は関係のない話であった。ともあれ、なんで黙ってたと聞かれれば。
「そりゃあ、木が喋ったら驚くじゃん?
ニルンも認めたみたいだし。
状況も状況だし、そろそろ意思疎通もしたいかなと思ったからこうして。ね?」
理由にあがる一番のものが驚くじゃん? というこの一言に尽きる。
話すつもりが一切なかったが故に、この発声器官も急拵えである。
念話でも良いが、範囲を絞り辛く民衆全員に向けてしまったら…
そう思ったが故の案が、この発声器官の形成であった。
「ウヒャッハー! そりゃそうだった! 確かに驚くわな!」
手間もあってか、理由も単純だし。納得してくれたようだ。
大きく頷くヒャッハー族。しかし面と向かうとやっぱりゴツイし怖い。
良くもまあニルンは平然と付き合っていけるもんだ。
しかもこの方達、話に聞けば冒険者ランクとしてAという位を持っているとか。
どのぐらいの評価なのだろうか?
最高ランクっぽいし、相当凄いに違いない。
つまりこのヒャッハー族は相当凄いヒャッハー族だったという訳だ。
「そんじゃ話せる事が分かった訳だし、魔物だからって襲ってこないでよ?
本体こん中にいるけど。変に刺激受けるとこの空間が全部更地になるから。」
とりあえず、自分の正体はバレているようで。
色々と悶着あったようである。
我関せずを通そうかと思ったが教会というワードに冒険者ランクAも現れて。
集まった面々で見れば色々とカオスな状況となってきおった。
しかし魔物のランクと冒険者のランクってどう違うのだろう?
素直にランクAの魔物を対処できます系だとしたら?
見た目的に相当強面なのでヨルンさんちょっと怯えてます。
しかしニルンがなんとかしてくれと、連れてくるのには成功したものの。
どうにもならずに助けを求めていたのだから、なんとかするしかあるまい。
最終手段は魔物的解決法であるが。
ついついその一端の発言をみせてしまった。
でもまあ魔物としてランクAに分類されちゃってるんだ。少しぐらい良いだろう?
「ヒョエー。ランクAは言う事が違うぜー。
その本体ってのも見せてくれよーなあー?」
それにしても大げさに驚き過ぎである。
アンタもランクAを冠しているだろうに。
リアクションが毎度凄いので本気なのか演技なのか分かり辛いのです。
でも見るからに驚いたー。的なアクションは大歓迎ですぞ。
楽しいのでこの調子で続けてしまえと調子にのってしまいます。
「まあ、本体見せたら
この空間の魔力調整出来ずに他のみーんなが死んじゃうから後でなー。
正直状況が分かってない者同士。脱出頑張ろうぜ。」
なので目の前のこのヒャッハー族とは仲良く出来そうではあるが。
油断はならぬ。気が付いたら後ろからブスリと一刺しされるかもしれんし。
でもニルンが懐いておるのよね。であるならば仲良くしよう。
蛇だし魔物だし別の意味でブスリとされる心配もないだろうし。
「おう。楽しみにしてるぜー。ヒャッハー!」
ともあれ意気は統合。この閉鎖空間の脱出の為に協力関係は得られただろう。
では話も程ほどに。メインディッシュと参りましょう。
落ち着いた様子の教会関係者が目の前にいるのですからお話を伺うのです。
「って訳で。そこの教会のお方よ」
「うむ。なんだ。大樹よ?」
よしよし、お話をする気はあるようです。
ニルンが触手パンチでゴリ押しタコ殴りの刑に処した所為で
もしかすると機嫌が悪いかもと思ったが別に気にした様子もなければ
自分が魔物であるという事を理由に問答無用で威圧してくる事もない。
ふぅむ…ある意味で予想外というかやり辛いというか。
まあ話を続けてみない事には分かるまい。
「一番状況を理解してそうなのは今の所アナタだけみたいだし。
知ってる事全て話して貰うよ。嘘ついたら触手千本お尻にズドンの刑。」
良し、終わった。何故こんな言葉が出たのか分からない。
そもそもに真面っぽい人間と話す事が久しぶりなのだ。
自分の中で何かがズレている。真面目な交渉など初めから考えていないが故に。
そもそもに何を聞くんだっけ?
そうだ状況の確認だというのを、言葉を出し終えてから気が付いた。
後悔するも、次には生かさないだろう。今は頭を抱えて後悔するのみだ。
「ああ、その…分かった。なんというか。
まずはこれを見てくれ。というか見えるか?
内容全てを覚えてる訳ではないから、丁寧に扱ってくれ」
あれ? グッドなコミュニケーションでした?
何か箱に入った紙の束を差し出されました。
中身を広げたら爆発するとか。吸い込まれて保管されるとかないよね?
なんの魔力も感じない普通の紙である事を確認し一切の問題がないのを確認。
「お、なになに? 見てみる」
そして自分はそれを根っこを操り丁重に受け取って、その内容を読み解いた。
紙の枚数は数十枚に上る。ひいふうみいと数える事70枚。
数字が中央の下部分に表記されているのでこれがページ番号なのだろう。
番号がふられていない紙が一番後ろにあったのだが所謂表紙のような紙だった。
それにはこう書いてあった。
【神々の箱庭】ちゃんと読んでね。間違えると危険だよ…と。
どうやら説明書のようだ。これを全て読み解くには時間がかかりそうですな。
まずは軽く斜め読み。SANチェックが緩和されるのでという理由ではなく
単純に時間の問題ですからね。彼等の目の前で読みふける訳にもいくまい。
「へえ、神々の箱庭ね。説明書が付属とは丁寧な事。
どれどれ、ふんふん。つまり。こういう訳か。
しかし今までの状況を察するに。この辺の操作までを自分が出来ての。
となると、変に遠回りをしているが故に。無理矢理空間を維持した結果になってる?
んー。いや。この辺は魔力の供給源が自分になってるのか。成程。
でもアレだ。そもそも使い方が1から間違ってるからして。
いや、その割には外から一杯入ってくるからどっかでおかしくなってる?
足りない物の補填に外部のモノを取り込んだが故に。
むぐぐぐぐ。。。自分だけなら幾らでも検証して挑戦するのに。
周りまで巻き込んでの検証は出来んし、とりあえず出来る事から。ええっと」
こうして独り言を垂れ流しながら時間は過ぎる。
一通り流し読みを終え本格的に読み解く事は後回し。
成果はあった。十分すぎる情報を得る事が出来た。
運が良い。むしろなんであっさりとこんなものを貰えた?
アレか。触手千本を尻にぶち込むぞという脅しが効果ありだったのか?
「ヒャッハー! 何言ってんのか全然分かんねーぞコノヤロー」
「…一体どういう事なのか我々にも教えて貰えるか?」
ヒャッハー族に教会の男も自分だけが理解しようとしている状況が気になる様子。
どう説明すれば良いのやら。正直に口頭で説明する話術を持ってないのだし。
まだ斜め読み段階にて、感覚でしか分かってない部分が多い。
故に、今は適当にはぐらかそう。説明は後回しだ。
出来そうな事のみ伝えてやらねばね。
「んーとね。感覚でしか分かってないから説明出来ない。
けど、自分だけなら脱出可能。その算段は整った。
キミ達も一緒に出るとなると。相当に難しい。
時間が掛かるからそれまで巻き込まれた人間達の救出はキミ達にお願い。
でも、意識が箱庭とやらの操作に向くと他の魔物が活性化するが故に対策必須。
さーて、どうしたものかな。見捨てる気は今の所は無いよ。」
この発言が現状の全て。
嘘は無し。脱出可能になりました。確定。
でもニルンはともかく他の面々全部は無理です。要準備。
助ける? 助けない? 良し助けましょう。決定。
そんな自分の意思を感じてかヒャッハー男がご機嫌だ。
「ヒャッフー! 正直な奴は嫌いじゃないぜー。
俺達に出来る事はアレだろ。自分達の身は自分達で守れってやつか!」
「うん。箱庭を操作出来るは自分だけっぽいからね。
良い物を貰えたから、多分直にでも魔力の濃度ぐらいだったら安定させられそう。
つまり、安定すると自分がこの空間ほっぽといても皆大丈夫になるかもしれないかな」
そもそもに基本的な仕様を知ってしまったが故に
何でこんな環境になったと疑問が湧き上がる。
人間どころか魔物ですら生きられない空間って何よ?
監禁するつもりだったのか。殺すつもりだったのか。
魔物である自分を閉じ込めた意図は定かではないが。
もしかすると自分が変に操作してしまったが故に
劣悪な環境になってしまったのかもしれない。
この箱庭の操作も分かってしまったが故に理解してしまった。
今までの苦労は何だったのか。説明書は偉大である。
理解してしまえば今までの現状といえば。
調整ツマミが最大どころか振り切って限界突破してたような気がする。
道具は正しく手順を踏んで使わなければならないのですね。分かります。
なので内側から操作出来ない物を
無理矢理操作してたのだから想定外の事が起きるのも致し方なしと。
そんな考えをしているとヒャッハー男は
大きな声で一人喚き散らしの場を繋ぐ役となっていた。
「ってなるとー。アレか!
そろそろテメェの本体も拝める訳かぁ~?
早く見てぇーぜー。ヒャッハー!」
「そーだねー。この木は残しておくけど姿を現しても仲良くしてよね~。
っていうか、何でそんな簡単に信じんのよ?
正直魔物だってバレた時、終わったかと思ったよ」
「アレだ。馬鹿って奴ぁ。何も考えてねーのはすぐ分かるもんだ。
巻き込んでおいての、その挙句の行動が難民集めとくれば。
ヒャッハー! やっぱり馬鹿じゃねーか」
そうだ自分はヒャッハー族が言うように馬鹿なのだ。
助けた所で。どうせ意味は無くなる。そんな道を選ぶつもりなんだものね。
その時その時で、楽しめれば良いのだよ。
目の前の彼等が話を聞いてくれるのであれば。
それだけで、楽しめるというもの。
しかし…冷静になって考えてみれば被害はどの程度なのだろうか。
全体で見るのであれば聖都のど真ん中で
あの広大な森の大半を再現してしまったのだ。
範囲も相当な数に膨れ上がっている。
人的被害も10万20万の被害では収まらない規模に思える。
改めて考えるとこいつぁヤバイ。
森のあちこちでサバイバルな状況が繰り広げられてるのを確認してはいるが…
全部を全部助けられてる訳でもないのよねぇ。
これがランクAに分類されてる魔物が引き起こす惨状?
既に感覚が麻痺しているうえにその全体像すら見えてないし。
アレだろう。こうして彼等と話を出来てる理由は…
目先の事しか見えてない。そんな状況故に起きた結果なのだろう。
ともあれ、都市だの国だの巻き込んであっさり壊滅とは…何度目だ?
意図せず引き起こしてしまう自分はやはり…
「うん。馬鹿だわ。何やってんだろ。
まあ、意図的に招き入れて苦しめー。楽しませろー。
なら討伐されても封印されても受け入れるけど。
平凡に暮らしてた所で捕まえられて外に出せー!
でこうなった訳だから。状況理解してないし。
折角隠遁してたのに。見つけて拉致して監禁して。
その挙句に、管理しきれずにこんな状況なんだもん。教会が悪いよね」
という訳で責任転嫁。現実逃避とも言う。
ヒャッハー族が良い具合に話を合わせてくれるし。
別に教会のオッサンが敵に回っても別に良い思考。
教会側には恨みこそあれ良くしてもらった記憶など一切無いのだよ。
対する教会のオッサンは顔を青くして頭を下げていた。
「すまない。話が通じるとは思わず。
このような事態を引き起こす事になろうとは」
なんと、下手に出ました。
驚きです。予想外です。自分の教会側のイメージが崩れて参りました。
ふむむ。やはり直接相対すると話に聞くのとでは違うのね。
「ん、まあ良いよ。自分も魔物だし。人間側にとって脅威になる存在なんでしょ。
今もこうして、気が向いたらこの箱庭ごとぶっつぶせる選択取れる訳だし。
対処しようとするのは当然。今回はお互い選択を誤ったって所かな」
ともあれ下手に出られたのなら申し訳ない気持ちも湧き上がる。
魔物的な対処をさりげなく加えながらお互い悪かったに修正。
「改めて確認する。
私達を助けるつもりでアナタは動いていたのだな?」
「そうだよ。とりあえず。だけどね。
知っての通り。情報が欲しかった。
必要な情報は得て目的は達成したから、後は気分次第。
苦労するかと思ったけど意外とあっさり上手く行くものだったね」
ふと、何も考えずに本音中の本音を漏らしてしまう。
今更な感はするが少しばかり配慮が足りんかったようだ。
バッドなコミュニケーションであった。
空気が少々不穏となり、ニルンがぼけーっとしておる。
コイツ…何も考えておらん。喋れない事を貫く理由はこれか!
「ぬぅっ…」
「ヒャッハー! 馬鹿な事は考えんじゃねーぞ?」
お陰でヒャッハー族の信頼度が下がった。
教会のオッサンは自分自身が起こした失態に気が付いた。
手札をあっさりと渡しちゃうんだもの。
教会関連って思ったより脳筋なのかもしれない。
ともあれヨルンは反省。方向修正を試みる。
「大丈夫だよ。特に急ぐ理由もないし。
タイムリミットはあるから。がんばってね!
気合を入れて、動かないとみーんな死んじゃうぞー。
3年ぐらい経ったら流石に飽きて見捨てて行っちゃうかもねー」
「ヒャッハー! 分かったぜー。ニルン連れてって良いかー?」
「勿論。懐いてるみたいだし大事にしてあげてねー」
軌道修正成功。ヒャッハー族はニルンを蛇質に取り行動を開始する。
悪いようにはされまい。ニルンも楽しそうである。
蛇の背にまたがりヒャッハー男は去っていった。
そんな彼等を見送り、教会のオッサンは一人取り残される。
去り際にヒャッハー男がオッサンに耳打ちしていたようだが
残念ながら聞くことは出来なかった。一体何を言っていたのやら。
「我等は…」
「教会関係者は、全員生贄!
生きたまま、全てを腹の中に送ってくれるわー
苦しみながら悔い改めるが良いっ」
なんとなく魔物として言ってみたかった台詞を放ってみた。
教会のオッサンも流石にこの発言には抵抗せねばと顔つきが変わるが。
あくまで、なんとなくの発言だ。すぐさま訂正。本気じゃないですよ。
この手の冗談でも飛ばさねば真面目に話す事が難しいのです。
ではそんな冗談だというのを伝えてやって貰いたい事を先ずは伝える。
「というのは冗談。教会の関係者なら集まった人間達纏められない?
人数増えすぎて、必要な物とか治安とか自分じゃ全然管理できないし。
それにね、まだまだ森の中だと人間同士で争ってる奴等いたりもするし」
本題の一つを伝えると、納得をした顔で頷いたがやはり複雑な顔するオッサン。。
とりあえずは、人間同士の問題であれば教会なんて作ってる側の面子の方が詳しいだろうし
面倒な部分はお任せあるのみ。
前者の冗談の所為か。後者の問題に関しての影響か。
難しい顔を続けていた教会のオッサンは口を開き感情を押し殺した声を出す。
「分かった。寛大な心に感謝する」
「何か必要な物があったら手の届く範囲で手助けするよ。がんばってね」
「そちらも何かがあったら言ってくれ。出来うる限り対処する」
改めて謎が増える。ランクAの魔物が故に恐れられてる?
問答無用で襲われるとか。高圧的な態度とられるとか。
隙をみて打ちとられるとか覚悟してたのですが、なんともまあ拍子抜けである。
一先ずな協力的な関係は築けたようだが油断はならぬ。
…まあ、ちょっと全員生贄とか冗談を言った時の殺気は半端なかったが
何か武器を隠し持っているというのは確信出来た。
下手するとあっさり首を跳ね飛ばされる所か不死まで断たれての殺されかねんな。
ニルンもいる事だし利用されるだけされてのポイ捨てされるのだけは御免ですし。
ともあれ一区切りはついた。
後回しにするかと思っていたが、話し合いが上手く行っていたが故に迷ったアレを
聞いてみる事にしよう。1対1の今が好機であると直感を得た。
「それじゃ一旦、話は纏まった訳だけど。
1対1になってる今。最後に個人的な真面目で魔物的お話し」
「…なにかな?」
「女神について教えてくんない」
教会の関係者。しかもこの男はそれなりの地位に付いていると考えられる。
故に聞こう。聖都の女神についての情報を。
必要なものは考えぬ。なんでも良い。話して貰える事は聞いておきたい。
「それはどういう意味で…なのだ?」
「色々情報を仕入れたけど、どれもしっくりこない。
顔も見れてないし、そもそも女神いるの?」
簡単に言えば、自分は女神とやらの姿を見たことが無い。
どうやら聖都で祭り上げられているとは聞いているものの。
アスピク倒し、その後も魔王やら魔物やらとやりあってるとか。
自分が思い描く女神像とは何かが違うのだ。
「女神はいる。詳しい事は話せん」
そして目の前のこの男は話す気はないようだ。
軽く突っついて踏み込めるなら踏み込む程度に留めたい気もするが。
いっその事、強引に魔物的対話に持ち込むのも悪くない。
折角目の前にぶらさがっているチャンスを前に不意にしてしまうのは勿体ないし。
女神に関しては特に欲しい情報なので判断に困る状況である。
しかし困った。別に困っただけで遠慮なく続けてしまうのだが。
結局の所。欲しい情報が得られそうなら後先考えず聞いちゃうのよね。
女神もなんだか胡散臭いしイメージ可能な教会像も特に良いイメージはない。
疑問を残しておくのも気分が悪いので聞くしかあるまい。
「未来を読めるとか聞いたけど?」
「悪いが話せる事は何もないのだ」
ぐぬぬ。だんまりか?
何でも良いから欲しいのだけども。
一度固くなった口を開かせる話術は生憎と落ち合わせてない。
となれば、後先考えず突っ込むだけ突っ込んでみるのが魔物的思考。
「先を知る事が出来るにしてはちょっと、お粗末すぎるよね」
「何が言いたいのだ?」
事前情報とこの現状についての疑問を投げかける。
予想としては未来を読むなんて力、中途半端なモノに決まってるのよね。
呪術でも似たような事出来るし。蛇の直感って奴?
それをもっと強い感覚で得られるとか。経験でどうこうするとか。
もしくは、教会の力的な何かで予言を実行に移すとか。
もしも、本当に未来を知る事が出来るとしても。
自分を捕まえておいて、こんな結果を引き起こす事も予想できないとは…
意図的に聖都破壊するつもりだったなら。その通りになったって事か?
可能性の一つではあるが、普通に考えるのであればありえんな。
ともあれ、そんな可能性を目の前の男に話した所で怒りを買うだけだろうし。
「話を変えて。この箱庭の外の状況ってどうなってると思う?」
「それは…箱庭が暴走したが故に。中からは分からんが」
箱庭の暴走…ね。
あの説明書を読んで大体の把握が出来た今なら分かる。
この空間を作り出せた理由。
文字通りの箱庭を作り。こんな空間作って遊べて色々出来ての
便利なマジックアイテムだったが故の出来た事。
それを無理矢理、感応してしまい。無理くり操作してしまったが故の結果。
そもそもに、その箱庭を監禁用に使用するって使い方自体を間違っておる…
観賞用にでもするつもりだったのかねぇ。その女神とやらは。
…ともあれ、ココからが重要だ。
一気に敵対関係になるかもしれないぐらいの情報だけど。
伝える必要があるだろう。あくまで予想なのだが。間違いあるまい。
この空間にあるだけのモノを、外から引っ張り構成し直したというのなら。
何も無い所から作り出せる訳もなく。魔物を作るにもナニかが必要だった訳でして。
暇を持て余して自ら魔物を作りまくった今の自分なら分かる。
何をするにも、やっぱり等価交換が必要だったのです。
ナニで魔物を作ったかって? 言わせんな。
眷属化でそのまんま変貌させるか
材料レベルにまで分解して作り直すかの違いですよ。
最早何の感慨も沸かない。癒しはどこへいったのか…
遠くに行ってしまった癒しは後回しにし、覚悟を決めて話してしまう。
「多分だけど酷い状況になってると思う。
この箱庭の中にあるものって。
足りない物は外から引っ張ってきたモノなんだよね」
「………」
「つまり、外に出たら出たで廃墟か更地。
環境的にも人間は外に出ても、ちょっと大変かなーとか。思ったり」
「そんな…まさか」
意図せずして聖都終了のお知らせ。教会の方へしてしまいました。
怒るだろうか。消沈するだろうか。魔物滅するべしに変貌するだろうか。
教会のオッサンは唐突な情報によって今は消沈気味のようだが。
仲間も残っているようだし。どう転ぶかは分からない。
「今の所知ってるのはボク達だけだからね。話し合っておこうよ。どうするか。
本当はもっと後に話そうかと思ったんだけどね。
後回しにしたら人間達だけでも脱出できるようになってからの対応が面倒だし。
どっちにしても分かりやすい関係の方になっておきたいのよ」
「今…この場で決めねばならんか?」
そして重役さんお得意の先延ばし。
流石に即断即決とはならないもんだね。
敵か味方か我関せずか。きっちり決めて貰いたいものよ。
自分的にはどっちに回っても良いのだが。
沸々と湧き上がってくるこの何とも言いようのないこの感情。
抑える為にも言葉に出さねば聞いて貰わねばならん。
一度タガが外れてしまえば抑えは聞くまい。いざ。落ち着け自分!
「んー、良いよ。気長にいこうさ。
ボクに罪を全てなすりつけて討伐しようが、
魔王として仕立てあげて放逐するなりしてもいいし。
箱庭ごと潰して何もなかったと隠蔽するとか。
魔物と協力して全く新しい都市建設ってのも良いかもね」
こういう時。守護者がいれば多少は方向修正をしてくるものだったのだが。
大分長い間離れてしまったなと、思い出してしまったよ。
戻ってくるだろうか? 戻ってこなかったら? そもそもに何でいなくなった?
「一体お前は…言葉は通じても我等のような人間的な判断が無い訳か」
「そりゃあ魔物だし。人間とは違う生活してりゃこうもなるさ。
問題起こすだろうから、大多数の人間と交流する気なんてなかったし。
個人的にひっそり交流するぐらいなら歓迎なんだけどね」
そう。そうだった。自分は勝手気ままに生活出来れば良かったのに。
行動を縛られるのは歓迎だ。許容する。むしろするが良い。
だが奪われるとなれば話は別だ。許す事は出来ん。
守護者は誰が奪った? 女神か? 教会か?
いや。目の前のオッサンに罪はない。
罪はないが。思い出してしてしまったが故に…
どう収まりをつければ良いのか?
考えれば考える程に。
一体…自分が何をしたって言うんだ!?(ズガンッ)
―――確認 世界の人口の半分を食らい尽くした実績有り
ロードを挟んだが故に誰も覚えてない!(ズドンッ)
―――確認 極一部例外有り
その後は癒しを求めて何も問題は起こしていなかっただろう!(ガコンッ)
―――確認 蛇王アスピクが復活しました
それを引っ張り出して(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ)
―――確認 ヨルンは力を溜めている
押し込めて!(ズドンッ)
―――確認 ヨルンは地面を打ち鳴らした
監禁して!(ガラガラガラガラ)
―――確認 ヨルンの体から音が鳴る
挙句の果てに…(キュィィィィィーンッッッ。。)
―――確認 ヨルンは魔法力を高め始めた
守護者まで奪いやがって!(メキメキメキッ)
―――確認 どうにかしました
てめえ等の血は何色だぁ!?(ピュウゴオォォォォーーーン。。。)
―――確認 腹黒味の掛かった赤色かと思われます
悟りを開き、失っていた感情が復活。
女神やら教会やらという話が手の届く範囲まで降りてきた影響だろう。
止めるものは誰もいない。聞こえない。無視安定。
何か眼下で大騒ぎになっているようだが彼等の健康状態に直ちに影響はありません。
沸々と湧き上がる激情のままに打ち放つ波動砲。
幾重にも重なる指向性を持った光の線が大樹の頭上にて収束。
数秒の後に魔力の花火となりて壮大なエフェクトと共に虚空が彩られた。
青空である。
正規の手順を踏んだが故に箱庭が開封されたのだ。
当初の予定とは違ったが空が開けた。
こんな怒りに任せた攻撃スキルで箱庭が開ける筈がないのだが。
タイミングが良すぎたが故に波動砲で開封されたように見えただけだ。
誰かが外から開けた? そもそもに。ついさっき聞こえたあの声は?
―――確認 さっさと出ろ蛇野郎
脳内に直接響くこの声は忘れる事のないあの声だった。
言葉の内容等気にもせずに聞こえた事自体に驚き。その他全ての事を忘れ去り。
どこからか聞こえた声の主を探すもいる訳がない。
筈なのだが。長らく離れていた故か多少の違和感すらも感じるものの。
何はともあれ確認だ。いつものように聞き返せば直に分かる。
(お、守護者? まじ? 守護者なん?)
―――確認 もう一回言います。早く出ろ蛇野郎
何でか知らんが怒られてる。
素直に言う事を聞こう。それが最善と感じる。
しっかり手順を踏むことも忘れ物理的に大樹より本体を引っぺがす。
元々爪などは無いが、生爪を剥ぐような痛みで我に返り
今度はしっかりと、体を通していた管を全て丁寧に切り離す。
久しぶりの自由な体だ。何日? 何か月? 何年?
光も差さぬ閉鎖空間の中では正確な時など分からんものよ。
そもそもに時間の流れすら外と同じかどうかも分からない場所だった。
ともあれ、考えるのは無しだ。外へ出るのだ。
上空に見える青空に向かい翼を広げ外に出るのだ。
シャーッハー! 自由だぁー!
(出る! 出ちゃう! 今出る! むしろ出てる!)
―――確認 では脱出を確認。一旦閉じます。
勢いに任せ加減も知らずに高速射出。
自らも知覚できぬ速度で遥か彼方の上空まで飛び出し。
自由落下が始まるまで解放された事を実感するべく辺りを観察。
大樹。確認! 何あのおっきいモノ?
箱庭の中に作ったモノなんかと比べ物にならんデカさだ。
ふむ、やっぱり外だ。では今自分の眼下は?
見渡せば一目見て何もない。
予想通りに何もない。
何も無いどころか大地に大規模な円形なクレーターが幾重にも穿たれ
廃墟と例えるのも奇妙なぐらいに、中途半端に建物が抉れ
元が都市であった事はなんとなく理解出来るが、なんとも不思議な光景だった。
ふむ、生命反応多数。巻き込まれなかった人間も多いようだが。
全体で見れば…パッと見であるが、8割がた飲まれてるではないか。
見れば神々の箱庭だったか。災害の起点をソレとするのならば。
その付近がやはりというか。被害が凄まじい。間違いないだろう。
原因は箱庭と自分の合わせ技。確定である。
そして…自分が箱庭の付近へ着地し先ほどの守護者の言葉を思い出す。
箱庭が閉じられていた。閉じられている。説明書を見たのだから知っている。
(あ、中には。えーと)
―――確認 環境調整は良好。蛇野郎がいなくても問題ありません。
成程。守護者が言うのだから間違いはない。
一応自分でも確認してみたが、やはり何も問題はなさそうだ。
しかしこの球体。こんな小さいモノの中に自分達が閉じ込められていたというのか。
なんとも不思議なアイテムよ。これは是非とも手持ちに加えたい。
中にはまだニルン達も残っている事だし、接収せねばね。
ともあれ、現状の優先順位としては最重要に位置付ける守護者の帰還だ。
(で、守護者よ? これはどういう事でしょう。ついでに蛇野郎はおしまいで)
―――確認 守護者のレベルがあがりました 目の前をご覧あれ。
唐突に守護者のレベルがあがったと言われました。
ふむ、目の前をご覧あれ?
先程まで何も無かったような気がするのだが。
そう思うが言われるままに目の前の存在を認識した。
まるで初めからそこに居たかのように。一つの人影がそこにあった。
男? 女? 魔物?
なんとも表現し難いがそれが慣れ親しんだ存在であると理解していた。
(へ? 何? これ人間?)
「所謂。守護者の擬人化です」
(なっ…ナンダッテー!)
「美人秘書でも筋肉執事でも。
ショタも良ければ幼女も良し。
蛇姿もあれば鏡のように主と同じ姿もあり。
色々な姿を用意しております」
こ…これは。つまり。守護者が視認出来る?
しかも発音しておる。声色も様々だ。
お触りも可能だ。ついつい太ももをプニプニ押してしまう。
嫌がる事もなく受け入れる目の前の存在は。やっぱり表情一つ変える事がない。
ふぅむ。実感が沸かないが。感覚としてコレが守護者であるのは確信している。
色々疑問に思う所はあるが、目先の事がやはり気になるというもの。
(して、戦闘能力は?)
「主の魔法力に比例します」
(つまり…)
「なんか強いです」
やはり戦闘可能。しかも強いらしい。
何これ。負ける気がしない。すんごい魔力の塊だわ。
守護者の体は人間の肉体というよりもゴーレムみたいな物であると推測する。
材質は。自分の体ですな。主に植物のような。世界樹的なモノを依代にしていますな。
しかも姿も生成時なら自由自在とな?
でも一応そんなゴーレムのような器に守護者が移っている訳だから。
ふと気になった疑問を口に出してみる。
(食べたら死んじゃう?)
「主の中に戻ります」
(マジで?)
「マジです。主の中のラプラスが気になるので一度、私に星食いを願います」
驚きである。普通に死なないかどうか聞きたかったのだけど中に戻ります言われた。
そういえば自分の外に守護者がいたのだった。成程。食べれば戻る?
詳しく聞かねば! 気になる事も言っておる。守護者はヨルンに秘密が多すぎる?
(ふあ? 星食いとな? 死なないの?)
(ていうか中のラプラスとか、どういう事なん?)
「まだ気づいてねーのか。この駄蛇」
そんな守護者は口が悪いモードでした。
これでも一応は自分の分身的な性格らしいのですが。
変に色んな対話を教え込んでしまったが故の結果ですので問題ありません。
一切の敵意はないので気持ちのいいものです。
しかしまあ駄蛇なんて…いつ覚えたのやら。
(怒ってる? いや…平常運転ですな。まあ後で詳しく)
(てか、丸呑みじゃだめ? 星食いしなきゃだめ?)
「主の唾液塗れで胃の腑に落ちてもみくちゃにされるのはお断りですが、
主が望むのであれば、ご趣味に付き合いましょう。」
(趣味!? いや…まあその気はありましたとも)
(まあ今回はご要望通りいっちゃうよ?良いの? 星食うよ?)
「どうぞ。私は死にません」
断らない守護者。不穏な台詞を並べていますが。つまりは。
自分が食べる分には死なないと。中に戻ると。
どっちにしても大丈夫という事なのでしょう。
(なら心配はいらないか。守護者が言うんだもの)
「失敗確率は小数点以下で存在するかもしれません」
(それって結局は0%って事でしょ。メンテナンスはセットしててよ)
「相変わらずの主でした。外での状況を後に説明致します」
(あいよっ。久しぶりにいくぜー。スキル星食い!)
そして自分は守護者を対象に星食いスキルを発動した。
口内へ吸い込まれるように招き入れられた人影は何の抵抗もなく全てが体内へ収まった。
自らよりデカイ相手をあっさり飲み下す様はなんとも不思議な間隔だが。
今回は何かが違うというのは感じた。
守護者が言っていたように、戻っただけなのだろう。
―――確認 戻りました ラプラス調査中
(守護者よ。何してるの?)
(守護者よ。教えてほしーなー?)
(守護者よ。暇だなー?)
(しゅーごーしゃー?)
―――確認 うっとおしい 時間が無い 女神が来る
(はい? もしかして戦闘になる?)
女神が来るですと?
察するに。こんな聖都の状況を見られれば戦闘になる事想像に難くない。
依然と自身が置かれている状況の把握が出来ぬのだが。
それはもう既に慣れっこだ。今更女神がなんだ。
こちとら始祖竜相手に拳骨で一括出来るような蛇なのだ。
相手がいかに強かろうが…でも。
ええっと~神様ですか。ちょっと自信が無くなりました。
アスピク倒したって聞いてますし。
―――確認 複雑な状況です どうなるか分かりません
(えー。単純な状況が良い)
複雑な状況らしいです。
そもそも、そのアスピクはどこ行った?
ネーサンはどうしてるんだろう。
そして守護者が居なくなった経緯も、女神の動向すらも良く分かってない。
改めて考えるも分からない。故に思考は破棄して情報収集。
守護者が何か言って来るまで待ちましょう。他力本願な思考です。
ですが他力本願といっても、自分の分身なのです。
つまり自分に頼る。自然な事ではないですか。
―――確認 完了
主のスキルがバグってます
箱庭と感応してしまった影響と推測
デメリット無し。その他も問題無し
民への影響も軽微
(へい。バグっても影響ないってどういう事よ。それに民ってなんじゃい。
そして伝えられた守護者からの情報は自分の事だろう。
バグってるだの影響なしだの、ともあれ聞いてたが時間の猶予も気にはなる。
―――確認
主がさらに化物じみてきたって意味でバグってます。ついでに思考もバグってます
情報が欲しければ呪術でも眷属化でも使って強要すれば一発なのを忘れてます
住民については主が星食いにて捕食した魔物の一部が収められています
残す魔物は守護者判断にて選別。オマケで一例。スネークリングが主の中に百匹存在
主の中のラプラス説明率30%
守護者にバグってると続けられました。
どうやらランクAとしての魔物の能力を忘れていた自分の頭がバグってたようです。
今の自分は魔力を込めた視線一つで対象を操れるぐらいの能力は持っているのでしたよ。
確かにそれ等のスキルを使って情報収集するのが最良だったと今更ながらに思いました。
流石は守護者です。行き当たりばったりの自分と違いスキルについては良く考えておる…
とりあえず、そんな守護者が戻ってきたのだ。嬉しい事この上ない。
そんな守護者が言っている自分の中の住民とやら。気になります。
(ほほう。星食いにはそんな効果が)
(というか、スネークリングが百匹ってどういう事よ?)
(そもそも何の役に立つん?)
―――確認
主の中に初めからいました。察するに主が異常な理由はコレ等の所為かと。
そんなスネークリング達がラプラスを管理しています。
主の中で一つの国として機能するよう調教…もとい教育を頑張ってます。
数が増え管理が難しくなって参りましたがそれは後程。
時間です。警戒を。
説明を打ち切った守護者はそう言うが辺りを見渡しても何もない。
残るは無残に削り取られた建物の残骸のみ。
こうしてみると。ファンタジー的な廃墟感あるよね。
謎の技術により突如崩壊してしまった都市的な。
ぐるりと視界を体ごと回転してじっくり見渡すも気配なし。
一体何を警戒すれば良いのやら。
疑問に思い守護者へ問おうとしたその時だった。
不意に頭を撫でられた。
姿も敵意も気配も何も感じさせずに。
初めから傍に存在していたかのように。
人間の女性が胡坐をかいて隣に座り込んでいた。
依然として、撫でて撫でられて。
警戒心もないままに行為は続けられた。
―――確認 それが女神です
(うん。知ってた。)
お互い言葉もないままに時間は流れる。
機を逃した。そもそもに今の姿では声を出せない。
念話する? なんで何も話さず撫でてんの?
戸惑うばかりの自分に対し、相手の心情は読めぬままに体を揉み解される。
ヨルンは愛玩動物ではありません。
愛玩動物でも良いですが手順を踏んで下さい。
そんな思いをどうやって伝えたものか。
覚悟を決めて念話を送り付けてやろう。そう意気込んだ時だった。
キュルルルルー
声より先にお腹が鳴った。
早く何かを食べねば飢え死にしてしまう。訳でもない。
そんな状態となっても別に直に死ぬ事もないし。
そもそもこの種族になってからは直接大地から栄養補給が出来るのよね。
故に腹が減ったという理由で襲い掛かる理由も無し。
なんで…相手から襲ってきてくれないのだろう。
そもそもに前提が間違ってる気がする。
魔物側がなんで襲われることを期待しているのだろう。
此方からは襲うつもりもないんだけれども、この状況は気まずい!
そんな心情露知らず。
自分は女神らしきモノに弄ばれ続けるのであった。
* * *
女神様登場。戦闘パート入る?
癒しな展開は終わった筈。




