信用と信頼からの選択
ここ数日の濃密な時間も落ち着きを取り戻してきたこの頃。
むしろ落ち着いてきたのはネーサン側であり、
自分は特に変わらず平常運転。蛇のヨルンです。
今日も今日とで同じ境遇の魔物である、
年上のネーサンとお話しに耽る一日が始まっている。
「で、ヨルンちゃんは。アレよね。リトルスネークから始まったってこと?」
(しかも普通のじゃなくて、生まれた時から不死身の呪い蛇だったんだよね)
「どういう生活してた?」
(そりゃもう。野性的な生活を。食って食われて。
何度も何度も殺されちゃった♪)
「なるほどね。どうりで無駄な所でタフな訳だわ」
(ネーサンはどんな感じだったの?)
「私はアレよ。兎に角臆病に逃げ回りながら過ごしてたわ」
(ネーサンも進化とか続けてきたんでしょ?)
「そうねぇ。私の時は。ツインワスプっていう名前の奴からだったわ」
(ん。なんだか飛び道具が強そうな名前だ)
「一応。他の蜂の魔物からの進化後だったらしくて、
ヨルンちゃんより、生き延びるのは楽だったわ。
針は飛ばせるし素早くて逃げられるし。空飛べたし」
(んー。生まれ方も境遇もボクと違うみたいだね)
「まあ、生まれた時期も違うし種族も違うし。
転生っていっても良く分かんないわね」
(で、ネーサンってどんな種族になってきたの?)
「そうねぇ。何回か進化して今はこんな姿だけど。
ファーマーワスプなんてのになって。
その後は、キラーワスプだったかしら。
姿の変化にこりゃあもう絶対人間殺す魔物だわって絶望して。
隠遁生活。気が付いたらキラーワスプ・クイーンなんてなってたわ」
(なんだか爆破が得意そうな奴になったねぇ)
「そんな理由で爆破針なんての編み出したお話しもしてみる?」
(流石ネーサン。楽しんでたみたいだねぇ)
(ボクもガンガンスキル覚えて色々試して楽しんでたけど)
(正直何度も死なないように生き延びる事が主だったね)
「まあ、私の方は多少は余裕あったし。
そうして100年ぐらい生きてたら今の姿になって。
正直驚いたわ。その時までずーっと魔物生活してたのに。
急に可愛くなるんだもの。しかもクイーンで強すぎって思ってたら、
さらにその上の強さでこの可愛さっていうね。
私の時代キター! 人間とも仲良く出来る? ってなったわよ」
(そして今じゃあ魔王なんだよねー)
(ボクもこの姿になった時は。もしや交流可能!って思ったけど)
(変な感情沸いてくるし困ったもんだよねー)
「本当ソレよ…というかヨルンちゃん相手に発散出来たし。
結構落ち着いたわね。また溜まってきたらお願いするわ」
(おっと…話題に出したらすぐにでもされそうだから違うお話ね!)
「大丈夫よ。流石にもうあんな頻繁にやるつもりはないわ。
ティアちゃんに会えて溜まりに溜まったもの発散出来たお陰ね」
(おお~ネーサンが落ち着いた!?)
(こんな数日の間に…こんなの考えられない!)
「なあに? もっとやってほしかったの?
それなら大歓迎だけど。毎日ヤっちゃっても良い?」
(いいえ、まずは断ります。そんな生活毎日続けたら何かが壊れそう)
「よしよし良い子ね。そろそろ真面目に行きたい所だったし。
何かやりたい事ある? 選択肢は山ほどあるけど」
(そうだねー。沢山ありすぎて迷っちゃうんだよね)
「なら大雑把にやる事と言えば、
情報収集。内政活動。ヨルンちゃん育成計画。
正直、ティアちゃんの居場所はバレてるも同然だし。
向こう側から何かしらのアクションもあって良い頃なのよね。
私が真面目モードになったのも、その辺に気が回ってるせいだし」
(個人的には、その育成計画ってのが気になる!)
(その他は、情報は幾らでも欲しいし。内政も重要だって分かってるけど)
(こうやって改めて考えるとなると。迷うっちゃうね!)
「でも正直ヨルンちゃん自身が分かってないでしょ?
色々教えたつもりだけど、実際見た訳でもないし。
百聞は一見にしかずで。これからゆったり続けていく準備はあるわ」
(ソレなんだよねー。箱入り娘。ならぬ箱入り蛇ちゃん)
(逆の立場だったら…『視覚的呪術』でちょっとマシかもって思ったけど)
「そういえば、ソレなんなの? ヨルンちゃんのエクストラスキルっぽいけど。
今までそんなスキル見た事もなければ聞いたこともないわよ」
(呪術の応用版。ほい。とりあえず使ってみるけど)
(実は禁呪系の応用というか、魔力の無駄な発散を調整した結果)
そうして話題に挙がった所で『視覚的呪術』を発動。
過去の記憶にあった、物理的魔法少女の姿を描き視覚で表現する。
我ながら見事に表現出来たものだ。
10年以上も前の事であるのにしっかりと細部まで再現しておる。
多少の美化は混じってるかもしれないが大体こんなものだろう。
という訳で、目の前には視覚的呪術で再現された幼女がおります。
「マジで? 会った事あんの?」
(一方通行で知り合っております。その時は言葉すら分からなかったし)
(その子の名前も知らなければ、向こうも多分こっちの事知らないかな)
「へえ…どういう経緯か知りたいけど」
(なんか捕まってぼっこぼこにされた)
(エビルパイソンだった頃に会ったんだけど)
(あの巨体が片腕で投げ飛ばされたり切断されたり色々されちゃった!)
「ふーん。あの子らしいわ。
というかヨルンちゃんの進化形態おかしくない?」
(うん。かなり特殊らしいよ)
(ランクFから一気に飛び級でランクCの3種類に自由に変身可能だった)
(もしかすると生まれ落ちた時からティアちゃん遺伝子入ってたのかも?)
(あー。そうそう。その子と会った事は内緒にしといてね?)
「ん~、まあ別に良いけど。あの子の性格だし厄介ごとになりそうだものね。
それで、どうやって逃げたの? むしろ何でココにいるのかが不思議よ。
あの子の事だから叩きのめした後に奴隷コースだと思うんだけど」
(此方スネーク。脱出に成功した!)
(石牢程度。何の障害もなく抜けられたよ)
「へぇ…見た所。刻印も押されてないし。
運が良かったのね。本気になる前で良かったって事かしら」
(液化もあったし。マッピングも出来たし。暗殺者で気配も殺せるし)
(天井だって這えるし。魔力の流れだって見えるし)
(今なら透明化も出来れば。森の中なら植物操作に世界樹干渉よ?)
(我ながらに隠密行動に関しては結構なレベルだとは思ってるけど)
(勿論、運の要素も…確かにボクって運の良さ。凄いと思う)
「まあ、今更何を言われても驚かないわ。
ヨルンちゃん、なんだかんだで結構規格外な所あるし。
私より魔物道歩んできてるんじゃない?」
(うー。それは否定しない)
(でもこう見えても錬金術学んだんだよ?)
(言葉だって勉強したんだよ?)
「私は世界の意思選んだから、なんとなく人間食べてたら覚えたのよね」
(マジで…? そんな簡単に覚えられたの?)
「なんか世界の意思から、食べれば知識得られるよって言われたから。
周りに誰も居ない事をじーっくり確認した後、冒険者食べちゃったの。
何人か食べたら覚えられたわ。こうして話してると魔物的よね。私達」
(ぐっ…真面目に勉強したボクって一体)
(確かに世界の意思って、言語の取得がし易く…って言ってたけど)
(まさか…食べるだけで覚えられるなんて!)
「でも覚えられるのは対象の知識をちょこっと得られるぐらいだし。
長い目で見れば守護者の方が良かったかもって
ヨルンちゃんを見てそう思っちゃうわ。」
(そもそも…ネーサンも転生したっていうのなら)
(そのー、選べる選択肢。3つだった?)
「世界の意思 神の声 『なんとか』の守護 って奴よね?」
(ボクはなんとなく、世界だの神だのどうでも良かったから守護にしたけど)
「私は生き延びたかったから世界の意思ってのを選んじゃったわ」
(お互い違うのを選んだみたいだし。情報出しあってみる?)
「そうね。その辺は知っておきたいわ」
そんな流れでお互いに知りうる限りの情報を出しあい。
この世界についての理解を深め合った。
お互いに信頼度は上がっているが故に
出会った当初に比べると情報量の桁が違う。
ネーサンが真面目モードに突入したという理由もあるだろう。
無論自分も大真面目に情報を出しているが。
やっぱりネーサンには及ばない。
だがネーサンは惜しげもなく。
今後、役立つであろう情報の数多くを自分に叩き込んでくれた。
世界の意思について。
言うなれば。人間の味方ではない。
魔物の味方でもない。
世界が平穏であればそれで良い存在。
平和でなくても良いのだ。
人間が死のうが魔物が絶滅しようが。
世界が保たれればそれで何も問題無いという存在なのだ。
そして世界の意思とは。世界樹の意思でもある。
この今自分達が存在している。大地そのモノの意思である。
何ともまあ、ファンタジーな世界です。
守護者についてもネーサンに事細かにお話ししました。
ラプラス感応の事についても。知ってる限りはお話ししましたよ。
思えばネーサンもラプラス演算とやらを持ってましたが。
話に聞けば。未来を計算で予測できる。
知覚速度がチートクラスで上昇した。
お陰で戦闘に関しては無敗であるとも。
故に今のネーサンがある。
そしてネーサンが正直に話してくれた。
ヨルンちゃんの行動を予測しての計算は殆ど無意味に終わると嘆いてた。
本当の事だろう。理由も魔力が高すぎて干渉出来ないとかなんとか。
ネーサンなりの解釈だとそうなるらしい。
無論そういった理由もあるだろうけど。
これはロードを挟んでの結果が予測出来ないという説が濃厚だ。
他には単に自分の行動が予想の範疇を超えているだけの事なのか。
ともあれ、ネーサンには未だに秘密にしてあるスキルは多い。
『セーブ&ロード』『カット&ペースト』『星食い』
自分としてはこのユニークスキル3種が主に秘密である。
しかし会話の流れ的に『セーブ&ロード』については、
いずれ誤魔化しが効かなくなる恐れもある。
もしかすると既にバレている可能性もある。
何せ自分が体感した事例の全てが、
この世界で起きた事のないお話しばかりなのだ。
嘘はつきたくないが。
コレばかりは話せない。
嘘はついてないが、嘘になってしまう。
いずれロードについては話してしまう時は来るだろうけれど。
だがそれは今ではない。ネーサンも未だに何かを隠している節がある。
頑なに聖都の攻略を拒否し続けるのだ。
何かをはぐらかす様に。他の話題に持っていく。
ネーサンらしくもない。
保身に走っているのかと思っていたけれども。
どうにも女神の話題ともなると、らしくない。
一種のトラウマか?
他に思い当たる節はといえば。
ラプラスによる演算結果が思わしくない。
といった所だろうか。
今の自分では頼りないって事ですな。
悲しいが…ココで停滞してしまうような性格はしてはおらんのだ。
ネーサンと過ごす毎日は楽しいものの。
そんなネーサンを悩ませるような存在を…
放置しておく等とは自分には考えられぬ。
ネーサンは10年後。聖都を攻めると言っていた。
他の魔王と連携し聖都を攻め落とすつもりらしいが。
10年後と言ったら。前世の記憶によれば…
他の国も壊滅状態になっていたではないか?
それが何を意味するのか。
蛇が一匹。魔城の自室にて考え込んでいる。
あらゆる可能性を考えた結果。
聖都を落とすとなれば。
その周辺の国々を全て潰してからという事か?
自分がワールドイーターとなり破壊の限りを尽くしたあの時も。
最後に残るは聖都だけだった。
可能性としては一番コレが高そうである。
…そう考えるのであれば。
自分が取るべき行動は。
流されるがままに10年の時を過ごすか。
もしくは…聖都のみ攻略する手筈を整えるか。
考えは決まっている。
聖都だけ落としてしまえ。まずは蛇が一匹様子見だー。
サラバ…ネーサン!
ボクは聖都に行くよ!
どのぐらい恐ろしい場所なのか。
見てみない事には分からない。
なあに…呪いの力を持った不死身の蛇に恐れるモノなのありはしない。
アスピクも聖都を目指していると思われるが関係ない。
聖都攻略。自分が成し遂げてくれよう!
覚悟を決めて。決意を固める。
目指すは聖都。ネーサンには悪いが。楽しかったよ。
すぐに戻るかもしれないけど。自分は行ってくる!
思い立ったが吉日…いざゆかん!
聖都【グレイシア】!
カランカラン…
「あれ? ヨルンちゃん? 部屋にいるかと思ったのに」
…いるかと思ったのに?
あれ?
あら?
どゆこと?
ボクはイマ
マダココにイルケレド?
視界が歪み。魔力の流れも歪んでいる事を察知した。
理解の及ばぬ現象を感じながら、世界は暗転する。
消えた蛇の魔物の意識は途絶えた。
後に残されたのは旅立ちの為の荷物。
スキル。『空間収納』で収めれば済んだものの。
気分的に何かを背負っていた方がそれっぽい。
そんな理由で背負っていた風呂敷包と机の上に残された書置き。
そして本来、この場にある筈のない、異常な魔力の渦のみが魔城の主。リムの目に留まる。
嵐の前の静けさの後。
魔城から極大魔法の常識を超える程の魔力を秘めた光線が天を貫いた。
続け様に巻き起こる爆炎。
後に残るキノコ雲。
その日。リムの魔城は跡形もなく消えていた。
人間が生きられぬ地形が広がる。
膨大な魔力の影響を受け。耐え抜いた魔物はその姿を変貌させる。
耐え抜けなかったモノもアンデッドとなり森を闊歩する。
異常な事態であると察知した、生き残りの森の監視者達は途方に暮れた。
今自分達がココを動けばこの場にいる他の者は元より自分達も危ない。
あの爆発の後。ほんの一瞬対応が遅れていれば
魔力の余波に巻き込まれ、どうなっていたか。想像に難くない。
もしかすると他の中継地点は全滅かもしれない。
不安だけが募る中。
冒険者の宿の中で酒盛りを続ける酔っ払いの声だけが
この場で唯一変わらぬモノだった。
「ヨルンちゃんの作った大樹…光ってますねぇ。
もしかすると…一撃必殺事案かもしれません!」
違ったようだ…変わらぬ者はもう一つ。
悠然と佇む、ハイエルフが一人。
好奇心の向くままに動こうとしていた。
* * *
登場人物。意外と少ないような。多くなったような。
しかし流れで名前が出てもレギュラー化する系人物がいないのです。魔物ですし。




